第6話

「さ、貢行こう」

 支度までして、玄関まで出たが、「いい」と貢が短く返事をする。

(今日初めて発した言葉がそれか……。なんだか淋しいものだな)

「いい、じゃないだろ、ここで一人ぼっちでいるつもりか?」

「一人じゃない、父さんがいる」

 貢はそのまま俯いて抱えていたお骨をぎゅっと抱きしめた。

 

 何度言っても来る気配がなく、誠は仕方なく親戚の伯母さんに電話をした。

 業者は明日か明後日に査定にくるかもしれないが、引越しの猶予くらいくれるように頼んでみるとのことだった。そこで誠はその晩は貢の家に泊まる事にした。

「ここにいるつもり?」

 誠は着ていた喪服の上着を脱ぎネクタイを緩める。貢はこちらに視線を向けることなく声だけ投げかけた。

 前からそうだった。その行動が自分を故意に避けているようにも思える。

「ああ、今日は俺もここに泊まる。お前を一人置いてもおけないだろ? 叔母さんが業者に今夜だけは泊まっていいかとお願いしてくれるそうだ。それにこれから色々な手続きもある。折角だから明日それをやってしまおう」

「大丈夫です。もう僕は子供じゃない」

 一言だけ言うと廊下の先の自室へ戻っていってしまった。

(ふぅ。可愛くないなぁ)

 それでも、これからの彼の生活の不安を考えると、言いたいようにさせてあげることくらいしか自分にはできない。

 誠はため息をつきながらがらんとした会場を見渡した。

(父親を亡くしたばかりだ。心を閉ざしても仕方ない)

 この状況で貢を放り投げるわけにはいかない。

 49日に納骨をしなくてはならないが、もうこの家は抵当に入ってしまっている。

 流石に喪に服す期間くらいは葬式が終わるまで何とかして欲しいと思ったが、事態は切羽詰っているようで、今夜は許せても明日には荷物をまとめて出て行かなくてはならない。

 明日か明後日には差し押さえられた家を見に業者がきてしまう。 

「辛いけれど今日だけなんだ。ここに泊まっていいのは」

 貢の部屋のドアに誠の投げかけた言葉がむなしく響いた。

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