待ってました!


 この世界に転生して十二年経った。


 十二歳になっても女神からの連絡は無く、いつもと変わらぬ毎日を過ごしていた。


 リフィアちゃんが具合を悪くしたら側に付き添い、それ以外の時間は村の男の子たちと一緒にちゃんばらという名の剣の修行をする。そんな毎日をずっと繰り返していた。


 遊んでいるだけじゃないかって?そう思うのもしょうがないが違うのだ。


 この村の近くにある腐敗領域のせいでこの村で畑を作って農作物を作ろうにも腐ってしまうし、家畜を育てようにも同じ理由でダメになる。


 なので村の大人たちが村の外に出て傭兵や冒険者として稼いできたお金がこの村の主な収入源になっている。


 だから村の子供たちは、大人になって次は自分達が傭兵や冒険者として活動出来るように鍛えているのだ。


 俺はこの村に住んでいる人達が好きだ。みんなが手を取り協力しながら毎日生きている。他人を尊重出来るいい人達なのだ。


 「おい、次はお前の番だぞエデル!早く円の中に入ってこい。」


 今は剣の修行中で、レグス君が地面にかいた大きな円の中から俺を呼んでいた。


 「今日は俺と一対一で戦ってもらう!俺も全力でいくからお前も手を抜いたりするなよ!」


 「分かったよ」


 こっちは精神年齢的に大人だから子供相手に本気は出さない…‥‥なんてことはしない。レグス君が夜遅くまで一人で修行している姿を知っているからだ。そんな彼相手に手を抜くなんて失礼に当たるだろう。だから


 大人の本気を見せてやる!















 結果は…………俺の負けだった。


 言い訳をさせて貰えるなら俺は転生する前から運動神経が良い方ではなかったのだ。正直こう切りかかられたらこうするとか、ここが隙だからここに切り掛かるとかよく分からない。


 ボコボコにされた俺にレグス君が話しかけてきた。


 「なんでこんな弱え奴のことをレフィアは………おい、エデル!お前レフィアのことをどう思ってる?」


 『お待たせしました!覚えていますか?女神です。私の声が聞こえますか?』


 「女神…!?」


 「女神か、随分と大きく出たな。レフィアのことがそんなに好きなのか」


 『あれ?忘れましたか?貴方の大好きな女神ですよ?』


 「いやどっちかというと大嫌いかな」


 「大嫌いなのか!?レフィアのことを女神のように思っていて大嫌いなのか!?お前言ってることがめちゃくちゃだぞ!頭大丈夫か?」


 『どうやら無事に転生出来たようですね』


 「無事じゃないんだが」


 「やっぱり無事じゃないのか!?まさか頭が腐敗の毒気にやられたのか!」


 レグス君に肩を揺すられようやく目の前にレグス君がいた事を思い出した。あの女神なんてタイミングで話しかけてくるんだ。やっぱりロクなやつじゃねぇ。


 「ごめんレグス君ちょっと急用を思い出したから今日は帰るね!」


 「やっぱお前体調が悪いんじゃ……って思いっきり走れるんじゃねーか!」


 急いで家に帰った。







 

 「じゃあ改めて……本当にあの女神か?」


 『口に出さなくても頭の中で会話できますよ。』


 「それを先に言えよ!」


 余計な恥をかいてしまったじゃねーか!というかこの相手の心情を一切察しない感じは間違いなくあの女神だ。間違いない。


 『貴方が転生した後困らないように私が案内役をするって言ったじゃないですか』


 『いや遅すぎぃ!!』


 『え?』


 『案内が遅すぎなんだよ!十二年も過ごせば世界のこともある程度知れるわ!』


 『えぇ?本当ですかぁ?じゃあこの世界には魔法があることは知ってますか?』


 『知ってる』


 『じゃ、じゃあこの世界に魔王と呼ばれる存在がいることは知ってますか?』


 『知ってる』


 『えーっと、じゃあこれは知らないでしょう!この世界には『七つの厄災』と呼ばれるとても危険な災害が‥』


 『知ってる、…………ていうかさっきから全部既出の情報なんだよ!お前が現れるまでの間に全部聴いたことあるわ!その程度の案内ならもっと早く来てくれよ』


 『いいんですか?そんなこと言って?』

 

 『なに?』


 『私貴方に気を使ったんですよ?私に見られながら赤子としての生活を送りたくなかったでしょう?だからちょっと時間を置いて案内をしてあげようと思っていたんです』


 『うっ、それは……』


 確かに恥ずかしい


 『何か私に言うことがあるんじゃないですか?』

 

 『……なさい』


 『ん?』


 『ごめんなさい!』


 『まぁ許してあげましょう!私もさっき洋画で人が爆発するところを見て貴方を放置してたことを思い出しましたし』


 俺の謝罪を返せ!

 

 『……それと一番聞きたかったことだけど俺が貰った能力って結局なんだ?』


 『えぇ?この世界で十二年も過ごしてまだ自分の能力を把握してないんですかぁ!?』


 ウゼェ……


 『もう案内役として出来ることなんてそれくらいしかないだろ。早く教えてくれ』


 『ツーン』


 『おい』


 『私ぃ思うんですけどぉ人に頼み事するときはそれ相応の態度があると思うんですよぉ』


 『くっ』


 相手がこいつじゃなければ敬語だって使うし礼節を持って接するのに。


 『知りたくないのかなー?せっかく特殊な能力を持ってるのに一生気づかないままなのかなー?』


 『お、』


 『お?』


 『お願いします俺が貰った能力を教えてください』


 『私のことはなんと呼びますか?』


 『…女神』


 『様は?』


 『……女神様』


 『じゃあさっきのお願いと通しで言ってみてください』


 『………女神様お願いします俺が貰った能力を教えてください』


 『んーー……やっだぁ』


 『ふざけんなてめぇ!』


 『冗談ですよ。では貴方の能力を発表します。それは』


 『それは?』


 『でけでけでけでけでけでけでけでけでんっ!全状態異常無効化です!』


 『全状態異常無効化!?』


 『はい貴方にはどんな状態異常も効きません!すごいですね!』


 つ、強い!


 …………強いけどそれは前提として素の能力が高い奴が持ってて初めて輝く能力なのでは?


 『……女神様すみませんもう一つ質問します。例えば俺が毒の爪を持った魔物に引っ掻かれた時ってどうなりますか?』


 『貴方には毒は効かないので問題ないです。ただ引っ掻かれた傷の深さ次第では死んでしまいますね。』


 ダメじゃねぇか!!


 『なんでそんな中途半端な能力を特典にしたんですか!』


 『貴方が欲しい能力を決める時心の中で望んだからじゃないですか?』


 『俺が望んだ?』


 こんな能力を?


 『二度と性病になりたくないと思ったんじゃないですか?』


 『うん、それアンタのせいな』


 『でも願いの元が性病だからか貴方と接触している間は他の人も状態異常が無効化されるようですね』


 だから具合が悪い時のリフィアちゃんは手を握ると楽そうにしていたのか。


 『うん、だから俺を性病にしたのアンタだよな』


 『さっきから気になっていましたが、その言い方だと私が貴方と関係を持った上で病気を持ってるみたいじゃないですか、不愉快だからやめてください』


 こいつっ……!お前のミスだろっ…!


 『能力を変えてもらうことって出来ないのか?』


 『出来ません。めんどっ……どうやら貴方の近くに貴方の能力を必要としている女の子がいるみたいです。それでも能力を変えたいですか?』


 今面倒くさいって言おうとした?


 でも確かにこの能力がなかったらリフィアちゃんが死んでしまっていたのかもしれない。


 それにこれからもリフィアちゃんが体調を崩す度に必要になってくるだろう。


 …………まあ今はとりあえず能力の把握が出来ただけ良しとしておこう。



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