第16話 学園最終日
「ふあ~。もう朝か」
――コンコン。ドアが開く。
「レアンデル様、おはようございます。もうすっかりご自分で起きられるようになられましたね。
すでにフランはレアンデル様の成長をまざまざと感じております」
フランは僕が旅に出る前から随分と成長したように褒めてくれるけど、朝起きられるようになっただけだからね?
そして僕はいつも通りに朝食をとりながら父上たちと話をしていた。
「レン。学園生活も今日までだな。いよいよ明日には出発だ。準備は進んでいるのか?」
「はい。学園は今日までで休学することになっています。旅の準備は明日の朝整えて、午後に出発する予定です」
「そうか、分かった。旅というものは準備にも道中でもお金がかかるものだ。行き先も期間も不明でこちらも目安が分からんのだが、とりあえずこれを持っていけ。足りない場合はもちろん言ってもらって構わんぞ」
そういって渡された袋を見てみると……100万ゴルドも入っておりますけど!?
「父上、こんな大金――」
「お前には大金かも知れないが、旅の準備や食事、宿泊などを考えればあっという間に無くなるぞ? 今回の旅はクロノルシア様に同行するのだから安心はしているが、最低限それぐらいは持っていけ」
はぁ~。お金を見たら一気に旅に行く現実感が増した気がする。まだどこか現実味が薄かったんだよね。
「ところでレン。明日はクロノルシア様がこちらに来られるのか? どこかで待ち合わせでもしているのか?」
「ああ、お伝えしておりませんでした。ルシアから……いえ、クロノルシア様から念話で連絡がありまして、明日の朝9時に屋敷に迎えに来られるそうです」
いけない、ルシアと言うところだった。父上たちの前ではクロノルシア様と呼ばないと変に思われちゃう。
予定についてはルシアと打ち合わせをしていて、明日9時に屋敷に到着する演出をするそうだ。
「おお、そうか。それでは丁重にお迎えをせねば。セバス、早急にお迎えの準備をするように」
いかんいかん。このままだと父上が過剰なもてなしの準備を始めそうだ。
「父上。クロノルシア様から屋敷に着いたらすぐに街へ行き、旅の準備を整え午後には出発するので余計なもてなしは結構だ、と伝えるように言われております」
「そうか……。それならば仕方ないな。とりあえずは屋敷の清掃と明日は全員身ぎれいな姿でお迎えできるようにしておこう」
「「「かしこまりました」」」
執事のセバスを筆頭にメイドたちが元気よく返事をする。
学園に行くまでの間、父上、母上、リルとゆっくり話をした。今では片道20分ほどで行けるようになったからすごく時間に余裕が出来たんだよね。
そうして午前中の授業が終わり、昼食を食べたあと、金曜日の午後の授業は剣術。旅の前の最後の授業だ。いつも以上に気合を入れるぞ!
僕たちが訓練場に移動すると、ファルド先生がやってきた。
「よし! みんなそろっているな! 今日は型と素振りの稽古をしたあとは、好きなペアを組んで模擬戦を行うぞ。それではまず型からはじめる。全員準備!」
それから型と素振りの稽古をして模擬戦の時間になった。するとBクラスのアメリアが急いで僕のところに走ってくる。
「レアンデル君! 私とペアになってください!!」
ものすごい剣幕でお願いしてきた。
う~ん。アーシェと模擬戦をしながら旅のことを話そうかなとも考えてたけど、模擬戦をしながらだと丁寧に説明ができなさそうだしな。
アーシェにはみんなに挨拶したあとに個別で話す時間を作ってもらおう。
「分かった。いいよ」
「やったーー!!」
アメリアは訓練用の剣を握りしめながら、ものすごく喜んでる。
「今日のレアンデル君の型や素振りを見てたんだけど、先週とは全然違うよね? 剣速も威力もものすごいことになってない!? だから是非お手合わせをお願いしたかったんだ」
「ああ、そうだったんだね! 魔法の授業で見てたと思うけど、少し操作できる魔力の量が増えたみたいなんだ。剣術にも活かしてるから先週よりも速度も威力もアップしてると思うよ」
「あの魔法の授業すごかったもんね!! そっか。それなら剣術がすごくなってるのも当然ね。ますます楽しみになってきたわ! 模擬戦のお手合わせお願いします!」
そういうとアメリアは剣を構えた。相変わらずきれいな構えだ。
僕も剣を構えると、アメリアは一瞬にして間合いに入り、剣を横薙ぎに一閃。僕は剣に魔力を流して受け止めた。
「今の攻めには自信があったのだけど、あっさりと受け止めてくれるわね。流石レアンデル君!!」
ふ~っ。ちょっとだけあせったぞ。だってアメリアの攻撃、剣に魔力を流してるんだもの。これってルシアが難しい技術だって言ってなかったっけ?
『単純な話だ。そやつには剣の才能があり、それだけの修練を積んでおるだけのこと。お主が平然と受けたその攻撃を同年代で受け止められるやつはほぼいないぞ? 将来が楽しみな一人というわけだ』
確かに剣筋も剣速も同学年の中で抜きんでてることは僕にも分かる。それに平然とは受け止めてないよ! あせったって言ってるじゃないか。
「レアンデル君、どんどんいくわよ!」
そういうとアメリアは色んな形で攻めてくる。おっと、剣だけじゃなく蹴りまで交ぜてきたよ?
ウインデル家の剣術って形だけじゃなくて実践的なんだな。僕も色々覚えていつかセバスを驚かせてやろう。
僕とアメリアはお互いに攻めて受けて、思いついたことを試したりしながら模擬戦を楽しんでいた。なぜか周りが静かだなと思って見回すと、
「「「すごい! 何て速さだ! 剣の振りもすごいけど、体捌きもすごい!!」」」
2クラスのみんなが僕たちの模擬戦を見物していたようだ。
「フンッ!」
あっ。ジャインのやつだけ苛立った目つきでこっちを見てるな。取り巻き諸君はすごいって感じでこっちを見てる。取り巻き諸君がジャインに怒られないか心配になるよ。
「よ~し、模擬戦はここまでとする! レアンデルにアメリア、随分と研鑽を積んでいるようだな。頑張った努力が無駄になることはない。これからも研鑽を怠るなよ」
「「はい!」」
「レアンデル、剣の修行はどこでも行えるものだ。場所や時間の使い方も工夫しながら腕を磨くんだぞ」
あれ? もしかしてファルド先生は僕が旅に出ることを知っているのかな。なんかそれを踏まえて言葉をかけてもらっている気がする。
「よし! 本日の授業はここまで! 全員クラスに戻れ!」
僕はファルド先生の方を向いて、深く頭を下げた。先生の教えは忘れません。もっと強くなって帰ってきます。僕は心の中でそう誓った。
そしてクラスに戻るとエマ先生が待っていた。
「みなさん。今から帰りの準備をして帰宅となりますが、レアンデル君から挨拶があります。各自自分の席についてください。レアンデル君、前にきてください」
これで学園ともお別れか。
少し寂しい気持ちを抱えながら僕は最後の挨拶をするためみんなの前に立つのであった。
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