第7話 ルシアと登校
「わっ! 僕の部屋だ!」
『お主がイメージした場所に間違いないであろう? 我はそのイメージから方角や距離を読み取って転移したのだ。転移先に次元的な問題がないかなども確認して飛んでおる』
「確かに僕がイメージしたんだけど、やっぱりビックリするよね。突然自分の部屋に現れたことなんてないもの。転移ってこんなにホイホイとできるものなの?」
『そんなわけなかろう。転移とは最上級の魔法の一つだ。魔力の消費量も大きいし、座標の指定には精緻な作業も伴う。我ぐらいになればそこまで難しいことでもないがな』
そうだよね。こんなにすごい魔法が普通に使えるんなら世の中が変わっちゃうよ。そんなやりとりをしていたら時間はもうすぐ6時。
――コンコン
ノックの音が鳴ると同時にドアが開く。
「レアンデル様、起きる時間になりましたよ――ってレアンデル様が起きていらっしゃる!? しかも学園服まで着られて!?」
「おはよう、フラン。そりゃたまには僕だって早く起きることぐらいあるよ」
「いえいえ、私が覚えてる限りではおねしょをされて泣いて起きておられたことぐらいしか……」
「いやいや! その話はいいからさ! とにかく起きてるからすぐに準備してダイニングに行くよ」
なんてことを思い出すんだよ……。
『ククク』
ほら、ルシアに笑われてるし。
「かしこまりました。それではダイニングルームでお待ちしております。それにしてもレアンデル様も立派に成長なされていくのですね……」
朝、起きるぐらいで立派って……。もっと頑張ろう……。
僕は学園に行く準備を整えてダイニングルームに向かった。
「おはようございます、レン兄さま」
「おはよう、リル」
いつも通りリルが一番乗りで席に着いていた。
「おはよう、レン、リル」
「「おはようございます。父上。母上」」
少しして父上と母上もやってきた。我が家の朝食は6時20分に準備が整う。学園に行くのに家を出るのが7時。今日も時間ぴったりだ。
『ほう。こやつがランバートか。なるほど。人族にしては魔力量が多い上に魔力の流れもきれいだ。龍族は興味を持ったものしか人族の名前を覚えない傾向にあるのだが、フレアボロスが名を覚えるのも分かる人物だな。それにお主の母親の魔力もなかなかのものだぞ。優秀な血統が受け継がれているのだな』
〈やはりそうなんだね! 父上はこの国でも火魔法の名手として有名なんだよ。でもルシアには言ってなかったけど、僕は父上と母上の本当のこどもじゃないんだよね。だから僕は魔法が得意じゃなくて……〉
『ふむ。それは分かっておったぞ。しかし血統は魔法の才を受け継ぐ要素の一つではあるが、魔法の才が全く無い親から非凡な子が生まれることもある。あくまで血統は要素の一つに過ぎぬ。それに血がつながっておらぬからと言って、お主を見る目が変わるような人物ではないであろう』
〈そうなんだよ。父上と母上、それに妹のリルは僕の大事な家族だし、誇りなんだ〉
『我が見る限り、両親の魔法の才はお主の妹が見事に継いでおるようだぞ。なかなか楽しみな才能だ』
〈やっぱりそうなんだね! リルは6歳とは思えないぐらい火魔法が上手なんだ。将来は父上のように有名な使い手になると思うよ〉
僕がルシアと頭の中で会話をしていると、父上が話しかけてきた。
「レン、今日は随分と早起きをしたようだな。セバスから聞いたが森の方に行っていたのか?」
僕が朝早く出かけてたのはバレてたのか。
「はい、父上。今日は朝早くスッキリと目が覚めましたので、森で散歩をしておりました」
「そうか。レンもあの森が好きだからな。早朝の森はなんともいえない気持ちの良さがある。私もマリアも森の散策が好きでレンをよく連れて行ったものだ。
しかし森の浅い場所には魔物も出ることはないが、まだお前は12歳だ。一人で行くなとまでは言わんが十分に注意するのだぞ」
「はい。分かっております」
ふぅ~。少しあせったな。森の中でルシアと会ったことはバレていないようだ。ルシアや火龍様と会ったなんて言ったら、大きな問題になるかも知れないし今のところは秘密にしておこう。
そんな会話をしながら朝食を食べ終え、7時になったところで学園に登校することにした。
「それでは行ってきます!」
いつものように教科書を入れたバッグを背負って、僕は学園に向かって駆け出した。学園までは大体1時間半ぐらい。貴族の中には学園近くに別宅を持って通っている生徒もいるけど、アリウス家にはそんな別宅なんてないからね。学園まで行くのも身体を鍛えることになるから僕には全然苦じゃないし。
学園まで走るときには足首からつま先辺りに魔力を集める。こうやって走ると普通に走るよりもずっと速く走ることができるし肉体的な疲れも少ない。
『ほう。身体の一部に魔力を集中することができるのだな』
「本当は足全体に魔力を集めたいところだけど、僕の魔力を持続的に使うのには足首から先に集めるのが精一杯なんだよ」
『これはいい訓練になっているぞ。魔力を細かく操る技術は難しく、それでいてとても重要なことだ。我が学園まで転移してやることもできるが、心身の鍛錬は大事だからな』
「そうか。ルシアなら転移できるんだよね。考えてもみなかったよ。僕は魔法の才能には恵まれてないのかも知れないけど、剣の才能は伸ばしたいと思ってるんだ。だから通学のランニングをズルするつもりはないよ」
『ふむ。それはよい心がけだ』
僕は足先の魔力を操作しながら、学園に向かうのであった。
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