第5話 森での邂逅
「んん~……もう朝かな……?」
いつもフランに起こしてもらっている僕だけど、珍しく一人で目が覚めた。時計を見てみると午前4時。今日は先週の魔法の授業からちょうど一週間後の魔法の授業がある日だ。そのせいで少し神経が高ぶってるのかも知れない。
「早い時間に目が覚めちゃったな。二度寝する気分でも無いし、少し散歩でもしてこようかな」
アリウス家の北西には森が広がっている。代々アリウス家が管理していて、僕が捨てられていた森でもある。僕にとっては悪い思い出になりそうな場所なんだけど、あの森はとっても気持ちがいいんだよね。
自然の恵みに溢れていて、リスや鳥なんかも楽しそうに遊んでいる。小川のせせらぎや澄んだ空気がとても気持ちがよくて、僕はあの森の散策が大好きなんだ。
そんなわけで僕は学園の制服に着替えて、軽く森の中を散歩することにした。
「ふわ~っ! 早朝の空気はすっごく美味しいや」
少しひんやりとした空気を吸い込むと、澄んだ空気が僕の身体を浄化してくれているようにさえ感じる。こんなに早い時間に森の中に来ることなんてないけど、ものすごく気持ちよくてやみつきになりそう。
僕がよく歩いてるコースが大体1時間半ぐらいで屋敷に戻ってこれるから、いつものコースを回ることにしよう。
そうやって30分ぐらい歩くと、この辺りで一番大きい木が見えてきた。父上が言うには樹齢200年を超えているらしい。この森のもっと奥には樹齢2,000年を超えた大樹も普通にあるそうだから、それと比べちゃうと若いんだろうけど僕にとってはこの辺りの木の王様って感じがするんだよね。
いつものようにその木を目指して歩いていると、
「あれ? 木のところに何か見えるぞ。何だろう?」
あと100mぐらいでその木に着いちゃうんだけど、木の根本のところに何かが見える。どんどん近寄ってみると、
「龍だ! 龍が寝てる! えっ? どういうこと!? もしかしてこの龍が火龍様なの?」
ウェスタールに住むものにとって龍と言えば火山に住んでいるという火龍様のことだ。僕たちに火の加護である火の紋章を与えてくれているという火龍様。ウェスタール王国でも限られた人しか会ったことが無い神聖な龍だ。ちなみに父上は会ったことがあるそうだから、やっぱり父上はすごいんだよね!
そうして寝ている龍に恐る恐る近づいてみると、爪や角の怖さとは対照的に白金に輝いた鱗がとてもきれいだった。その美しさに見とれて少し触ってみたいような衝動に駆られていると、
『グググググ……ンンンン……ン……ウン~~~?』
寝ていた龍が目を覚ましそうだ!
「うわっ!」
目の前の龍がおもむろに立ち上がった。20mぐらいはあるぞ。すごい迫力だ。火龍様なのかな? 神聖な龍として尊敬の気持ちはあるけど、正直すっごく怖い。
『……そこの小僧。お主は誰だ?』
「しゃべった!!」
うわっ! 龍がしゃべったぞ! 龍って話せるんだ!
『言葉を話すことなど当たり前だろう。それでお主は誰なのだ?』
正直に答えた方がいいのか少し悩むけど、火龍様だとしたらちゃんと答えないとな。
「僕はレアンデル・アリウスと言います。父はランバート・アリウスです、火龍様」
『そうか。ランバートの子のレアンデルか。……ところでレアンデルとやら。我は火龍ではないぞ?」
「は? 火龍様ではない? そうなるとどこのどちら様なのでしょうか……?」
『我の名前はクロノルシア。友人であるフレアボロスに会いにきたのだ。そのついでに気持ちのよい森が見えたので、ゆったりとくつろいでるところにお主が来たわけだ。
お主を見ていると妙な感じのフレアボロスの力を感じるのでな。それでお主が誰かと尋ねたのだ。我はお主の父親のことも全く知らぬのだが、まあよい』
え? 色んな情報が出てきたけど頭の整理ができないぞ。
「クロノルシア……フレアボロス……? あの~、クロノルシア様。フレアボロスという方はどなたのことでしょうか?」
『ん? さきほど我を火龍と勘違いしていたではないか。火龍の名前を知らんのか? フレアボロスは火龍の名前だ』
「火龍様はフレアボロスというお名前なのですか! 名前があったんだ」
『ふむ。ところでレアンデルはここで何をしておるのだ? よかったら教えてくれんか?』
目の前の龍がどんどん質問してくる。最初はとんでもなく怖ろしかったけど、龍ってこんなに話すものなんだな。なんか話しているのが普通に感じてきたけど大丈夫なのかな? 変な答えをしたら殺されたりしないかな……。
『どうした? 答えられないことなのか?』
「い、いえ、そんなことはありません。クロノルシア様、僕は森の中を散歩していただけです」
『そうか。散歩か。何か特別な用事があるわけじゃないのだな。それならお主、今から我に少しだけ付き合わないか?』
「付き合う? えっ、何があるのでしょうか……」
『言ったであろう。我はフレアボロスに会いにきたのだ。フレアボロスのところに行くから、少しついて参れ』
ここで断ったらダメだよな。爪で裂かれたり食べられたりして殺されそうだもんな。付いて行っても大丈夫か分かんないけど、ここで断るよりもマシな気がする。それに火龍様に会えるものなら会ってみたいしな。
「一つ確認というか、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
『なんだ?』
「9時から学園に行かないといけないのですが、間に合うように帰って来れるでしょうか?」
『学園~~??』
うわっ! 何か目を見開いた!! 怒ってる? 怒ってるよね??
「ごめんなさい!! 大丈夫です! 間に合わなくてもいいです! だから食べないでください!!」
『食べるか!!』
龍だから上手く表情が読み取れないけど、クロノルシア様が呆れた目つきで僕を見てる気がする。
『なんで我がお主を食べないといけないのだ。何の罰ゲームだ。我は人族など食べぬ。我が好きなのはレアで焼いた牛フィレ肉のステーキとか、バターの効いた舌平目のムニエルとかそういった人族が言うところの美味しい一皿というやつだ。龍族の中でもグルメを自称しておるのだぞ』
「そうなのですか。クロノルシア様は人を食べたりしないのですね。よかった……」
『いや、別に我に限らず龍族は好んで人族を食べたりしないのだが……』
「いえ、小さいころ父上から怒られるときに「そんなことをしていると火龍様に食べられるぞ~!」とよく言われたものですから」
クロノルシア様の目が大きく開いて、間違いなく呆れた目つきに変わった。
『あほう。それはものの例えというやつだ。フレアボロスも人族を食べたりしないぞ。我はグルメであるから人族の一流コックが作るような食事を好んで食べるが、そもそも龍族は人族と同じような食事を必要としないのだ』
「そうなのですか!」
龍は人を食べないんだって! 何か急に安心感が増したよ。
『9時から学園といったな。龍族の世界にも学校はある。学ぶことは大事だ。
安心しろ。今から行けばその時間には帰ってこれる。我は学ぶことが好きだし、何よりも教えることが大好きだ。人族の学園というものがどういうものなのか非常に気になったのだ。学園か。面白そうだな』
龍なのに学園に興味があるんだ。龍と学園なんてミスマッチ感しかないけど。
『レアンデルよ。それでは急ぐとするぞ。我の背中に乗れい!』
そう言うと軽く翼を広げて、背中を僕に向けて乗りやすいようにしゃがんでくれている。僕は何とか背中によじ登って背中にいくつもある突起の一つを掴んだ。飛んでも振り落とされないようにね。
『それでは行くぞ!』
「お願いします!」
上を見上げると樹齢200年の大木の葉がわさわさと生い茂っている。これ当たるよね? 木が倒れたりしないよね? というか僕は大丈夫なのかな?
そんなことを考えていた次の瞬間、眩い光に包まれた。
――目を開けると、僕の目の前には大きな赤い龍が立っていた。
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