フェアリーフェスティバル

汐月 礼子

第1話 聖央華学院生徒会

「やっほーい!」

後ろからバン、と肩を叩かれ、すももはよろけて後ろを見た。

「おっはよ」

聖紅せいくが後ろに立っていた。今日も長いウェーブヘアーを風に靡かせている。

「おはようございます」

聖紅の姿を見ると、今日から聖央華学院に通うことになるのだ、とふつふつと実感が湧いてきた。


李は聖央華学院に中途入学をする。きっかけは、去年行われたフェアリーバトルだった。

フェアリーバトル観戦会に抽選で当たり、さらにフェアリーゲットチャンスもその場で当たった。しかも李のゲットしたフェアリーは、ツインフェアリーという珍しいフェアリーだった。

こうして李は聖央華学院に中途入学すること

になった。


フェアリーとは、この学院の第20期卒業生

黒宮くろみや かおるが造った小型人造人間のことである。小さいため、フェアリー(妖精)と名付けられた。最初はただの人形としての役割しかなかったが、徐々にメールや電話などの通信機器としての役割や、ニュースなどのお知らせ機能、スケジュール管理など、様々な役割が付くようになった。

そしてその中でフェアリーバトルというフェアリー同士を戦わせる競技が生まれた。

その競技は、聖央華学院の中で瞬く間に拡がり、今では主要科目と並ぶほど重視されている。

フェアリーを持てるのは、女学院である聖央華学院の生徒のみに限られているため、フェアリーを持つことに憧れて、しばしば少女達が聖央華の受験へと殺到する。倍率はとても高く、高偏差値と裕福さを兼ね備えた家庭の少女でないと通えないようところだ。

ところが、そんな聖央華にも穴場の入学ルートがある。李はそのルートで入学した。

そのルートとは、公開フェアリーバトルだ。

公開フェアリーバトルは、年に1回開催される。そのフェアリーバトルの観戦抽選に当たること、フェアリーゲットチャンスを掴むこと、聖央華学院の生徒会の面々からの許可が下ることが条件だ。穴場とはいっても、正規ルートより難しい場合もある。穴場ルートでの中途入学は5年に1回あるかないかだ。


李は、今日から聖央華の初等部4年生に入学することとなる。

また、嬉しいことに、高等部生徒会長の葛藤つづらふじ 桃子とうこからお誘いを受け、生徒会の一員に加えてもらった。

生徒会館は、昭和初期のミッションスクールだった頃の面影を残す古い建物だと聞いている。

植物園を抜けると、その建物が見えてきた。

古いながらも西洋型の造りで、趣がある。

生徒会館まで、一緒に歩いて道案内をしてくれたのは、久塔くとう 聖紅せいくだ。高等部1年生の生徒会員である。

聖紅は後ろから李の頭をわしゃわしゃと撫で、肩を組んで生徒会館の扉を開いた。

「おっはよー!」

聖紅は大声を出しながら、元気に生徒会館の階段を登った。

階段を登った先の扉を開けると、広いホールが2人を待ち受けていた。初等部から高等部までの生徒会員が集まるため、大きなテーブルが中央にある。

そのテーブルの一番奥でお茶を飲んでいる生徒がいる。その生徒が顔を上げた。

「あら、入野いるの すももさんね。ごきげんよう」

その生徒は、葛藤 桃子だった。

「あ、桃子さーん。先に紅茶飲んじゃダメじゃない。今日はウーララの新作、ストロベリーショコラを買ってきたから皆で飲もう!」

聖紅が桃子に駆け寄り、首にかじりつく。

「あら、それなら紅茶のおかわりはよして、皆さんでストロベリーなんとかをいただきましょう」

「ウーララのストロベリーショコラだってば。桃子さん覚える気ないよね」

ウーララは全国チェーンのコーヒーメーカーだ。きっとお嬢様の桃子はウーララを飲んだことがないのだろう。

「おはよう」

「おはようございます」

次々に登校してくる生徒会員に聖紅はウーララを渡す。

「皆ー、聞いてると思うけど、今日は新人ちゃんが来る日だよー」

聖紅が音頭を取る。

それを桃子が繋げる。

「それでは、皆さん一緒に」

「「ようこそ聖央華学院生徒会へ」」

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