第13話 協力者

「ついに来ましたね、アルストリダム!」


 三日間の長旅を終えた彼らは貿易で栄える都市、ホスタルに降り立っていた。


 交易都市として有名なホスタルだが、街の雰囲気はどんよりと重苦しい。大通りを行き交う人々の表情にもどこか影を感じさせる。


「なんだかテンション上がりますね!」


 街の雰囲気にそぐわぬやる気を出しているのはエリー・リバソンである。


「あまり気負いすぎてから回るなよ」

「はいです!」


 ショルダーストラップを握りしめ、エリーはキラキラと瞳を輝かせている。


 本当に大丈夫だろうかと心配になってしまうトラヴィスだったが、エトワールの調査にはじめて同行したかつての自分もこんな感じだったなと、思い出して吹き出した。


「どうかしたんですか……?」

「お前の寝癖が凄いなと感心しただけだ」

「ハッ!? そういうことは降りる前に言ってくださいよ!」

司書ブックマンたるもの、身だしなみには細心の注意を払え。どこで誰に見られているかわからないんだからな」


 かかっと高声に笑うトラヴィスとは対照的に、頬を染めたエリーが慌てて手櫛で髪をとかしていく。小動物のような彼女が可笑しくて、トラヴィスはまた大きく笑った。


「いつまで笑っているんですか、まったく」


 ぷくっとふくれっ面の彼女だったが、すぐに何かを探すように蚤取り眼で顔を振る。


「そういえば……結局資料を作成した協力者サポーターの方は一度も現れませんでしたね。普通は同行するものなんですよね?」

「まあ、そうだな」

「同行しない場合もあるんですか?」

「ない」


 エリーの疑問をきっぱり否定したトラヴィスは、石造りの街を西に移動する。


協力者サポーター司書ブックマンをサポートすることが仕事だ。そんな無責任な奴は協力者サポーターになれやしない」


 ――やはりコセル村の事件が影響しているのか……。


 生気のない人々を横目に見ながら、トラヴィスは歩みを進める。


「なら、どうして資料を作成した協力者サポーターは現れないんですかね?」


 すっかり活気が失われた露店通りを歩きながら、不思議そうにエリーが小首をかたむけた。


「ずっと俺たちと一緒にあの列車に乗っていたぞ」

「えっ!? 居たんですか!?」


 驚愕して兎のように跳びはねるエリーに、トラヴィスは「後ろの小さいのが見えるか?」と一顧。


「後ろ……?」


 二人から二十メートルほど離れた距離に、目深にフードを被ったユセルの姿があった。自身の体より二回り以上大きな背嚢を背負い、軽快な足取りで付いてきている。


「あの可愛らしい女の子がどうかしたんですか?」

「可愛らしいかどうかは別として、あんまりジロジロ見てやるなよ」

「どうしてです……?」


 正面に顔を向け直したエリーに、トラヴィスは少し困ったように口にする。


「あいつが協力者サポーターのユセル・バイア・スカーレットだ」

「えっ!? あんな小さな子が協力者サポーターなんですか!?」

「意外か?」

「だって子供ですよね?」

「年は十三だ。場合によっては子供の方が情報を集めるのに有利に働くことがある。それに」

「それに……?」

「あいつは十歳の頃から協力者サポーターをしている。年はお前より下でも、現場経験は上だ。ちなみに色々あって極度の人間嫌いだ」

「人間嫌い……?」


 エリーは余程ユセルのことが気になったのか、見るなと言われているにも関わらず、何度も振り返っては後方を確認していた。


「話せないんですか?」

「話したいのか?」

「そりゃ話したいですよ! あんなに小さくて可愛い女の子なら誰だって話したいに決まっています! 私興味津々です!」


 エリーの目はいつになくキラキラ輝いていた。赭ら顔で鼻息が荒くなっていくことに、トラヴィスはただならぬ狂気を感じている。


 ――まさか……こいつ小さな女の子が好きとかいう特殊な人種じゃないだろうな。怪しい。


「それ、本人に絶対言うなよ」

「それって……どれです?」

「あの年頃のガキは子供扱いされることを一番疎ましく思うってことだ」

「そういうものですか? でもなんであの年で協力者に? 危険なのに親御さんがよく許しましたね」

「……孤児だ。つーか詮索するのはよせ。人には知られたくない過去の一つや二つあるものだ」


 獣のような眼を有するユセルに流し目を向け、トラヴィスはこっちでいいんだなと目配せを送る。ユセルは応じるように小さく頷いた。

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