第15話 ノア神ニャマ
「ノア神様」
『ノア神ニャマ』
「いやだな、ふたりとも。そこまで?」
焼肉を食べ終えたふたりの熱い眼差しに苦笑いがこぼれた。
そもそも焼肉だけでも本来の旨味で美味しいのに、たれが沁み込んだ焼肉は絶品そのものだった。何なら前世で食べたどの焼肉よりも美味しかった。
「まあ、これならコーンラビットさえあればいつでも作ってあげられるから。そんな大したものでもないからね?」
「はっ!」
『ニャっ!』
セレナを真似するポンちゃんも可愛いし、セレナも面白いノリをするようになったもんだ。
食事が終わったので、早速皿をリュックに詰める。べとべとするはずの焼肉のたれは、ポンちゃんが綺麗に舐めてくれて、一滴のたれすら残っていないのでとても助かる。
「さて、片付けが終わったからまた狩りに出よう。僕ももっとコーンラビットを倒してレベルを上げたい」
「分かった。私も美味しいコーンラビットのために頑張る!」
目的が食費じゃなくなった気がする。
少し休めばいいのに、セレナは我先に森の中に消えていった。
僕もポンちゃんと共にまたコーンラビットを狩り続ける。
そして、コーンラビットを六体倒す頃に時間となったので、セレナが帰ってきた。
言うまでもなく背負っている籠の中には大量のコーンラビットが。血抜きをしてシーラー街に戻って行った。
◆
「セレナ。重くない?」
「全然重くないよ?」
自分の体よりも大きな籠に七十ものーンラビットが入ってても軽々と背負っている。
さすがに僕では重くて持てないけど、セレナは軽々と運んでいる。
シーラー街の玄関口に着くと、衛兵さんが目を丸くして窓から身を出した。
「随分と狩って来たんだな?」
「ええ。セレナのおかげで」
「そっか。君達なら冒険者になっても十分通用しそうだな」
「それは色々考えておきます。ありがとうございます」
衛兵さんに挨拶をして中に入る。
この世界は才能があるからか、男女差別な感じが全くない。あれだけ重い荷物を男性の僕ではなく、女性のセレナが担いでいたとしてもセレナの才能が素晴らしいと判断される。働きに応じてちゃんと評価される異世界はとても素晴らしいと思う。
早速大通りを歩き冒険者ギルドに向かっていた――――その時、通りかかったとある店の裏路地にいる母娘が視界に入り、無性に気になった。
服装はボロボロで何日も洗ってないようで汚れが目立っているし、顔や手もやせ細っている。その頭にはここら辺では珍しい猫耳が付いていて獣人族なのが分かる。ちゃんと尻尾まである。
けれど、一番気になるのは、その表情が絶望に染まっていることだ。
「ノア?」
僕を呼ぶ声がしたが、僕はそのまま人々が行き交う中、大通りから裏路地を見守る。
母娘が飲食店の裏口の前で待っていると、裏口が乱雑に開いて店主と思わしき人が何かを言い放つ。あんまり良好関係には見えない。さらにその手に持っていた何かを荒っぽく投げつけた。
それでも母親は何度も頭を下げている。聞こえないけど、感謝しているようだ。
店主がここまで聞こえるくらい強く裏口を閉めると、親子はそのまま路地裏の端に座り込んだ。
「っ!?」
まさか……!
「ノア!?」
僕は真っすぐ裏路地に向かって走り出す。
心臓が跳ね上がる音に、周りの足音など全く聞こえなかった。
異世界は、世界自体が弱肉強食だ。それによってこういう風に食に困っている人もたくさんいる。
僕の頭を過ったのは、腹を空かせてずっと辛そうにしている昔のセレナの姿だった。
会えるのは休息日だけで三日間は殆ど我慢し続けて、休息日毎に会う彼女の笑顔はそれだけで嬉しいものがあった。
だからだったのかも知れない。
さらに今の僕にはその力があったからかも知れない。
僕が裏路地に立つと、親子は体を寄せて不安そうな表情で僕を見上げた。
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