第9話 シーラー街

「広い~!」


「ポンちゃん。街では他人の物に手を出すと怖い衛兵さんに連れて行かれるから、食べたいものがあっても勝手に食べないでね」


 ポンちゃんはすぐに落ち込んだように尻尾が垂れ下がった。


「それと威嚇したり物を壊したりしないでよ。じゃないと僕達が捕まってしまって旅ができないから。でもちゃんと二人のご飯は準備するから」


『分かったニャ! やっぱりノアはいいやつだニャ!』


「さて、何よりも先に冒険者ギルドに向かおうか」


 世界で最も人数が多い職業でもある冒険者は、どの街でも冒険者ギルドが賑わっていたりする。才能がなくても簡単な依頼は受けられるからね。そういうのもあってどこも大通りに面しているか、中心広場に面していることが多い。


 大通りを歩きながら冒険者ギルドを探す。


 左右には料理屋から雑貨屋、鍛冶屋、色んなお店がずらりと並んでいて、セレナはずっとソワソワしながら色んな店に目移りしていた。


 通り過ぎる人も多いので、しっかり手も繋いで大通りを進む。


 大通りから中央広場に到着すると、その一角にひと際大きな建物が見え、その看板にでかでかと書かれていた。


「あそこが冒険者ギルドだね。入ろうか」


 セレナとポンちゃんと共に中に入る。


 扉は昔の西部劇に出て来そうなスイングドア風扉だった。


 外から中が覗ける仕様なので、ぶつからずに済みそうだ。


 扉を奥に押し込んで中に入ると、人々のガヤガヤした雑音の音が響き渡る。


 入ってすぐ左右にたくさんのテーブルが並んでいて、冒険者達がテーブルを囲っている。


 奥にあるカウンターと冒険者ギルドといえばこれ! と言わんばかりの巨大な掲示板が三面も並んでいた。


 早速カウンターに向かう。


「こんにちは!」


「いらっしゃいませ」


「倒した魔物を冒険者ギルドに行けば買ってくれると聞いたんですけど」


「買取ご希望の方ですね。冒険者には登録なさっていますか?」


「いいえ。冒険者ギルドは今日が初めてです」


「かしこまりました。買取は向こうのカウンターになります。冒険者さんは冒険者プレートを一緒に提示すると解体料金が無料になったり、色んな特典がありますが、一般の方ですとただの買取か、解体料金を払って解体してから売ることになります。もし冒険者に興味がある時はまたこちらにいらしてください」


「親切に教えてくださりありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 セレナと一緒に挨拶をして、買取カウンターに向かった。


 そこには僕達とそう歳の変わらなさそうな男性が店番をしていた。


「こんにちは。コーンラビットの買取をお願いします」


「こちらにどうぞ」


 カウンターに捕まえたコーンラビットを置く。僕のリュックに目一杯入る量で十五匹を取り出した。


「コーンラビット十五体。丁寧な血抜きと外傷もないのでこちらは十割で買い取らせて頂きます」


「十割?」


 初めて聞く言葉に首を傾げると、男性は無表情のまま説明をしてくれた。


 どうやら外傷が酷いと売れる部分が減るから、本来の価格から何割か引いた額で買うという意味らしい。


 十割は本来の価格。七割だと三割引きになるという感じだ。


 ボーンラビットをカウンターから奥に置いて、棚から何かを取り出した男性が戻り、カウンターに大銅貨を三十枚置いてくれた。


「こちらになります。また狩猟しましたら、当ギルドに卸してください。冒険者になれば宿屋の割引などもあるので、ぜひ冒険者の説明も聞いて考えてみてください」


「! ありがとうございます」


 とても親切にしてくれる男性もさっきの受付嬢も、とても良い印象を抱いた。


 けれど、一つずつ確実にやりたい僕は、ひとまず街の玄関口に戻り通行料を払った。


 この世界では三日働いて一日休息日の四日制を多く採用している。できればここも前世のように七日制だと良かったけどね。


 前世のような曜日感覚はなくて、一日目を一日と呼んだり、休息日は休息日とそのまま呼んでいる。


「通行料で滞在できる期間は二週間だ。事前に延長してもいいし、その前に出ても通行料は返却されない。出る時はそのまま通行証を持ったまま出て構わない。でも無くしたら銀貨一枚だからな」


 衛兵さんの丁寧な説明のおかげで通行証の件は分かった。


 僕達は早速、宿屋を探すことにした。

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