番外編 SS(ショートストーリー)

SSー1 いたずらっ子たちの配信ジャック

たくさんご要望を頂いたので、番外編を始めてみました!

基本、ゆる~い1話完結のお話で、前後のストーリー性はありません。

良ければ読んでね!

───────────────────────



<三人称視点>


 とある休日の昼間。

 やすひろと美月夫妻の姿が見えないやすひろ宅。


「キュル?」

 

 一匹のペットが可愛げな声を上げた。

 小さな体に茶色のしましま模様、ほんの少しぷっくらとしたお腹のシマリス──ココアだ。


「キュル……!」


 これは! と持ち上げたのは、一台のカメラ。

 やすひろが配信に使っている飛行型カメラだ。


「キュルキュル……」


 やすひろは……と周囲を見渡すココア。

 そんなココアの肩に、ポンと手を乗せたのはモモンガのタンポポ。


「プク」

「キュル~」


 タンポポが部屋のカレンダーを指し、ココアが「そっか~」と鳴いた。

 今日の日付には〇印と「案件打ち合わせ」とのメモ書きが。

 つまり、飼い主不在である。


「キュル……」

「プク……」


 となれば、やはりいたずらっ子二匹。


「キュル!」

「プク!」


 ニヤっとした顔で企んだのは「配信ジャック」。

 飼い主がいない間に、好き勝手やっちゃえといういたずら心が働いたようだ。


「ムニャ」

「ワフ」


 だが、いたずらっ子ペットがいれば、止めるペットあり。

 案の定、「やめときな」と止めに来たペット達。

 四匹の中では大人側、フクマロとモンブランだ。


「キュル……」


 二匹にそう言われてしまっては、ココアもいたずらを諦める──はずもなく。


「キュルー!」

「プクー!」


 ココアとタンポポは、一瞬の隙を突いてその場からダーッシュ!


「ワフ!?」

「ムニャッ!?」


 フクマロとモンブランも完全にきょをつかれた。


「キュル!」


 そしてそのまま、えいっと配信開始ボタンを押した。


「「!!」」


 静かな機械音を立てて飛行型カメラが起動。

 途端に大量のコメントが流れ始める。


《なんだ!?》

《急に始まった!?》

《え、本当に配信?》

《なんか通知きたぞ!》

《告知なかったよ??》

《ていうか見て!》


「キュルー!」

「プクー!」


 カメラは、必死に逃げるココアとタンポポの顔を下からのアングルで捉える。

 それも超至近距離から。


 それぞれ女性人気NO.1、子ども人気NO.1のペット達。

 この普段は見られないガチ恋距離に、コメント欄は大いに湧く。


《きゃー!》

《なにこれー!》

《近い!!》

《可愛い~!》

《近くて見れない(〃ノдノ)》

《直視できないよ~》


 みなも一度は考えたことがないだろうか。

 小さくなって、自分のペット達とじゃれ合ってみたいと。

 はたまた、可愛い顔を超至近距離から拝んでみたいと。


 現在の配信がまさにそれである。


《きゃあああ!》

《可愛すぎいい!》

《もう無理ぃ》

《もふもふ好きのワイ、無事死亡》

《近くて照れる(〃∇〃)》

《尊死しました》


 だが、それだけではない。


《これって正式放送じゃないよね?》

《告知なかったよ》

《急に始まったし!》

《この時間あんまり配信しないよね》

《休日配信は基本夜だろ》

《もしかして放送事故???》

《配信ジャックだ!!》


 おそらく視聴者が気づき始めているだろう。

 先程からやすひろの姿が見えないこの配信、放送事故であろうことに。

 可愛さから「事故」というにはあまりに尊いが、それでも予期していない配信には変わりなかった。


 この事態に、SNSのトレンドは一気に埋め尽くされる。


『やばい』

『【悲報】やすひろのチャンネル放送事故』

『ココアとタンポポがいたずら』

『配信ジャック』

『ガチ恋距離』


 それと同時に、開始からわずか十分で10万人の視聴者が配信を見ている。

 さらに、現在もなお同時接続数はうなぎ登りである。


「キュルルル」

「プククク」


 嬉しそうな笑いを浮かべうココアとタンポポ。

 自分たちの活躍で視聴者が湧いている、その事に気づいたみたいだ。


 しかし、ここまでやられては黙っておけない二匹もいる。


「ワフゥゥ……」

「ムニャァァ……」


 フクマロとモンブランである。


 二匹とも、ココアとタンポポとは大の仲良しだ。

 だが、二匹にとって全てであるやすひろの配信が事故とあっては黙っているわけにはいかない。


「クォ~~~~ン!」

「ムニャ~~~~!」


 本気で二匹を捕まえるため、放送事故を止めるために覚醒した。


「キュル!」

「プク!」


 また反対に、そうくるなら! と相槌あいづちを打ったのはココアとタンポポ。

 どうせ怒られるなら最後までいたずらを通したい、そんな困ったいたずらっ子ちゃん達である。


「キュル~~~~~!」

「プク~~~~~~!」


 フクマロとモンブランに対抗して、ココアとタンポポも覚醒した。


《おおおお!?》

《直接対決!?》

《これレアじゃね!!》

《盛り上がってきたー!》

《フクマロがんばれ!》

《ココアちゃん頑張って~!》

《モンブラン好きだけど配信止めないでほしい》

《タンポポ飛べー!》


「ワフー!!」

「ムニャー!!」


「キュルー!!」

「プクー!!」


 もはや家の中に収まらない両者の対決は家の外へ。

 おのずと導かれる場所は『世界樹』だ。

 最強種族である四匹が暴れられる場所と言えばここしかない。


「プク!」

「キュル!」


 乗れ、とタンポポがココアに指示をする。

 ちょっとぽっちゃりさんになる覚醒ココアを乗せ、ずしんと来るが、そんなのはすでに慣れっこ。


「プク~~~!」


 タンポポはココアを乗せ、世界樹の内部を颯爽さっそうと駆け抜ける。

 

 世界樹の中は枝葉が密集し、遊具があり、所々にスライムやフェンリルがいる。

 また、美月が独自に進める「世界樹かわいい計画」により、世界樹の中にもたくさんの綺麗な花々が咲いていた。


 見ている側からすれば、さながら天然のファンタジージェットコースターである。


《気持ちええ~!》

《すげえ!!》

《ちょっと怖いけど楽しい!》

《世界樹ってこんなんなってんだ!》

《意外と貴重じゃね?》

《ファンタジーだあ》

《タンポポの飛行能力すげえ!》


 風を切り、木々の僅かな間を抜け、タンポポは上へと昇っていく。


「ワフ!」

「ムニャ!」


 それをフクマロとモンブランが必死に追っている状況だ。


 そんな四匹は言わずと知れた最強種族たち。

 普段は表に見せないが、対決となればそれなりのプライドはある。


「キュル!」

「プク!」

「ワフ!」

「ムニャ!」


 ここまでくれば負けたくない。

 その気持ちがぶつかり、それぞれをヒートアップさせる。


「ワフ!」


 体を螺旋らせんのように回転させ、自らが砲弾と化したフクマロ。

 魔物界随一の速さを生かし、世界樹の木々を貫通しながらものすごい勢いでタンポポに迫る。


「キュル!」


 対して、ココアは『覚醒ダンジョン種』をその辺に投げる。

 種の付いた枝からは密集した木々が急成長し、フクマロを止める強力な盾となる。


「ムニャア!」


 その木々の盾を壊そうと、今度はモンブランが連続かまいたちを放った。

 ココアが作った木々の盾は破壊される……が。


「プク~!」


 もういませーん、といたずらな態度でタンポポはすでに遥か上まで飛んでいた。

 ココアの木々の盾はほんの時間稼ぎだったのだ。


「ワフフフ……」

「ムニャニャニャ……」


 ぐぬぬぬ、とうなり、悔しがるフクマロとモンブラン。

 もう怒ったと言わんばかりの超特急を見せる。


「ワフーーー!!」

「ムニャーーー!!」


「キュルーーー!!」

「プクーーー!!」


 また、必死に逃げるココアとタンポポ。

 四匹は猛スピードで一気に駆け上がり──頂上に飛び出した。


「ワフ!?」

「ムニャ!?」

「キュル!?」

「プク!?」


 と同時に、四匹が一斉に方向転換・・・・


《え!?》

《どうしたの!?》

《そっち行ったら捕まるよ!》

《同じ方向ダメ!》

《何か見つけた?》

《どうなったんだ……?》


 今まで逃げていたのはなんだったんだ、思わずそうツッコミたくなるほど、四匹は同じ方向・・・・に飛び込んだ。


 そこにあったのは……


「ワフ~」

「ムニャ~」

「キュル~」

「プク~」


 それぞれの大好物。

 正確に言えば、順にフクマロ=からあげ、モンブラン=ポテト、ココア=どんぐり、タンポポ=ブドウである。


 四匹とも、頂上を飛び出した瞬間に見つけた大好物に飛びついたのだ。


「そこまでだ」

「「「「!?」」」」


 それと同時に、ココアからひょいっとカメラを取り上げたのは一人の男。

 後ろからの声に振り返る四匹のペット達。


「楽しかったか?」


 えりとだ。

 どうやら四匹を止めるため、大好物を設置していたのもこの男らしい。


「キュル……」

「プク……」


 絶対怒られる、そう思ってココアとタンポポは顔を上げない。

 だが、えりとは笑って言葉を続けた。


「別に怒ってねえよ。視聴者も喜んでたみたいだしな」

「キュル!」

「プク!」


 その言葉にココアとタンポポは顔を上げる。


「ただ、これ以上はさすがに樹がもたねえと思ってな。お前ら強すぎなんだよ」

「ワフ」

「ムニャ」


 ココアとタンポポ同様、ちょっと反省の色を見せるフクマロとモンブラン。

 えりとは頭をかきながら続けた。


「ま、見てる側としても楽しかったよ。視聴者もそうだろ?」


《楽しかった!》

《ヒヤヒヤしたけどね~》

《えりと優しい》

《爽快感マックス!》

《最初の距離やばかった♡》

《こんな配信も良い》


 事故には変わりないが、視聴者は確実に湧いた。

 それはコメント欄と20万人という同時接続数が表している。


「な? お前らよくやったよ」


「ワフ!」

「ムニャ!」

「キュル!」

「プク!」


 怒ってないのが分かると、四匹は嬉しそうな声を上げる。

 

《てかえりと、この四匹を止めるのか》

《正直もう止まらないと思った》

《楽しかったけど心配ではあった》

《暴走気味だったしなあ》

《止められるのやすひろぐらいだと思ってたけど》

《さすがだ》


「ん?」


 そのコメント欄に懐疑な顔を見せるえりと。


「何言ってんだ。最初からここで止めるつもりだったよ」


《え?》

《最初から?》

《まじ?》

《どういうこと?》

《こうなるの読んでたってこと?》

《確かに事前に設置してないと間に合わないよな》


 動揺するコメント欄に「ったく」と溜息をついた後、えりとは説明した。


「この俺が配信のセキュリティを簡単に渡すわけねえだろ。面白そうだったからココアがボタンを押した時に配信を許可したんだよ」


《まじかw》

《参りました》

《その上でここで止めるのまで想定してたのか》

《さすえり》

《こりゃ勝てんw》

《手の平の上すぎるww》

《なろう系エンジニア》


「そういうこった。じゃお前ら、最後に挨拶しろ」


「ワフ~」

「ムニャ~」

「キュル~」

「プク~」


 バイバーイと手を振り、配信を終えた。

 やすひろのチャンネルはまた一つ伝説を作り、一日中トレンドを埋め尽くしましたとさ。





 一方その頃、会議を終えたやすひろ。


「なんでトレンド入り!?」


 何も知らない所で勝手にバズっていたという。





───────────────────────

SS(ショートストーリー)1発目でした!

決まった予定はありませんが、これからも何本か出せたらと思います。

こんな感じで好き勝手に日常を書きます笑。


「こういうのが見たい!」等のコメントがあれば、もしかしたら書くかもしれません。

これからものんびりゆる〜いSSをお楽しみ下さい!

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