第56話 特別な感性
『やすひろ!!』
「やすひろさん!!」
えりとと美月ちゃんの声が聞こえる中、伸びてきた触手に捉えられて俺の視界は暗転した。
でも、大丈夫だよ。
「ほあー、結構気持ち良いな。ぷにぷにだし」
『やすひろ!?』
伸びてきた触手に飲み込まれ、呟いた独り言にえりとが反応した。
美月ちゃんも、ちょっと驚かせちゃったかな。
『おい! 大丈夫なのか!』
「うん。全然よゆー」
『でも、お前……!』
周りを見渡せば、少し暗めの灰色。
ここはおそらく触手の内部だろう。
俺は触手に吸い込まれたわけだ。
外から見たスライムさんは七色に輝いていたけど、内部は光ってるわけじゃないんだな。
目がチカチカしなくていいや。
『説明しろよ!』
「んー、そうだなあ」
正直、直観でしかなかった。
けど、実際に触手に飲み込まれてそれが確信に変わった。
「スライムさんとの交渉は決裂していないよ」
『なに?』
「きっとこいつは、話し合う気持ちになったんだ』
『本気で言ってんのか……?』
「うん」
だって、あの時の声色。
えりとは交渉決裂の怒った声に聞こえたみたいだけど、俺はそうは聞こえなかった。
むしろ「聞いてくれてありがとう」と歓喜の声に聞こえたんだ。
「じゃあちょっと待ってて。そろそろ解放されると思うから」
『は??』
「だよな? スライムさん」
「ポヨォ……!」
俺がスライムさんに話しかけると、触手から解放された。
ぷにぷにした空間から解放され、地面に着地する。
「ほっ」
「え、やすひろさん!?」
「美月ちゃん。驚かせちゃったかな」
「だ、大丈夫だったんですか!?」
触手から出てくると、裏で状況を見守っていたはずの美月ちゃんが寄って来ていた。
心配して表に出てきてくれたのかもしれない。
「大丈夫だよ。それより──」
俺はスライムさんの方を振り返る。
「ちゃんとコピーできた?」
「できたよ!」
スライムさんが返事をしてくれた。
ちゃんとした人間の言葉だ。
「ええ!?」
『はあ!?』
えりとと美月ちゃんはびっくり大仰天。
そりゃそうだ、今まで「ポヨオオ!」という声しか上げなかったスライムさんが、急に話し始めたのだから。
けど俺は、こうなることを確信してた。
「俺を触手で取り込んだのは、人語をコピーする為だよね」
「そうなんだ。びっくりさせちゃってたらごめんね」
「いや」
俺は首を横に振る。
「俺は分かってたよ。悪いスライムさんじゃないってね」
「本当に!」
「もちろん。うちのペット達もそうじゃないかな」
俺はペット達の方を向いた。
「ワフ」
「ムニャ」
「キュル」
「プク」
「ぽよっ!」
みんな、同意するように良い返事を返してくれる。
俺が一歩踏み出しても止めなかったのは、ペット達もスライムさんと俺の意図に気づいていたからだろうな。
『じゃ、じゃあ、こいつは人語を話すためにやすひろを一旦取り込んだだけ、ってことなのか?』
「そういうこと」
『まじかよ……』
ぽよちゃんは、
それがインフィニティスライムの特性なのだとしたら、目の前のスライムさんも同じことが出来るだろう。
そして、俺が話しかけた時、スライムさんから敵意は感じなかった。
これは、長らくペット達と深く触れ合ってきたからこそ
「それじゃあ、教えてくれる? 君たちがフェンリルと争う理由」
「うん……」
超がつくほどの巨体をしている割には、子どものような話し方のスライムさん。
そんなスライムさんは、申し訳なさそうに話し始めた。
「最初は、羨ましかっただけなんだ」
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