第6話 似た2人



 グレンの治療をしながら先ほどの話を思い出す。

 治癒系の魔法がない事も驚きだが、それよりも、この世界に黒髪と黒い瞳が存在しないという事だ。


 黒って自然界によくある色だと思うけどって、ここは異世界だった。

地球の当たり前が通用するわけがないか…


 この世界の神となるのであれば唯一感があっていいのかも知れないが、なんの功績もない得体の知れない黒髪の女がウロウロしていたら、見せもの小屋に売られてしまうかも知れない。


 いや…まぁ、ドラゴン落とせる力があるから、そんな目には合わないのは分かっているが悪目立ちはしたくない。


 黒髪の悪魔とか…魔獣の化身とか言われて、討伐される側になるのはごめん被る。

 神になったとは言うけれど、実際は人智を越える力が有るだけで、私本来の偽善者and自己肯定感の低さは相変わらず健在なわけで…

 自己肯定感高かったら、もっと神様っぽく堂々と自慢げに黒髪を靡かせて、颯爽と歩くくらいはできたかもしれないが


私には無理


 とは言え、この世界の国や街を見て回りたいので、当面はこの髪が見つからないようにしないと、髪の色も神の力で変えられるんだろうか?


 地球の神も古今東西、姿を変えられる神様多いし大丈夫だろう…多分…

それに、ちゃんとした神になる為の方針を決めないと、私としてはそれぞれの種族の話を聞きたいと思っている。


 気性というか性格の傾向とか知っておきたいし、何せ地球には人種は人間しかいないのにも関わらず戦争を繰り返し、同じ国の人間同士ですら殺し合いをするのだ。


本当にこの世界を救う事ができるんだろうか…


私って本当に…はぁ…


 そんな事を考えているうちに、グレンの治療が終わり傷も鎖の跡も綺麗さっぱりなくなった。


「治療はこんなものでしょうか?痛むところは有りますか?」


 かざしていた手を下ろして問いかけると、グレンは「うわぁ〜本当に治ってるー」と感激しながら、体を捻って自分の背中を見てみたり、腕を上げたりして他に傷がない確認している。


「大丈夫です。どこも痛くないし傷も治ってます。」


 怯えた表情の抜けた無邪気なグレンの顔が向けられる。

 普通にしてれば可愛系イケメンなんだけどな…こんな見た目なのに、遊び半分で人種を焼き殺しちゃうんだよな…


「それは良かったです。それで、グレンには少々…いえ、もうしばしお付き合い頂きたいのですが…ねっ?」


 そう笑顔で聞いてみる。と言うより強制感を醸し出す。

 このままグレンを返したら他のドラゴン達に、どんな話を風聴されるか分かったものではない。


 出来る限り!!この世界の敵でもないし、ドラゴンの敵ではないんですよー

世界を救いに来たんですよーと、折角なので刷り込んでおきたい。


「ぼっ…僕はそろそろ帰らないといけないので…これで…」


 と言って逃げ出そうとするグレンの首根っこを満面の笑みで引っ掴み、そのまま平原に来た時同様、飛ぶように走り馬車の向かった森へと向かう。


「グゥエッ!?何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?

ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」


 絶叫するグレンを無視して直走り、あっという間に森の淵に到着する。

 せっかく平原に出たと言うのに、1時間と経たずに森に戻ってきてしまった。

ただいまマイホーム…いや、マイフォレスト


「はぁ…はぁ…首がっ首がもげるかと思った…」


 到着してグレンを離した途端、四つん這いに倒れ込みゼーハァーしている。

 人の姿をしていても人間の武器なんかじゃ傷がつかないと自慢していたので、これ位いどうって事ないだろうと思ったがダメだったらしい。

 普通の子供相手だったら、絶対にこんな連れて行き方を思いつきもしないが、私はどうにもグレンを雑に扱ってしまうようだ。


「元がドラゴンなんですから、その位で如何にかならないでしょう」

「限度がありますよ!!!ゲホッ…」


 間髪入れず否定されてしまった。

スミマセン…次からは気をつけます。

本気で咽せているグレンの背中をさすってやり、持っていたお水を渡してやる。

そう言えば!と思い出し、お詫びがわりに便利鞄から森○キャラメルを一個取り出し紙を剥いてグレンに手渡す。


 何故これがカバンに!?と初めて見た時は思ったが、幼少期を思い出す懐かしい味に何度癒されたことか、そしてこれを食べきると御丁寧に新の一箱が追加されているのだ。

 自称召使の心配りに感謝、と心の中で手を合わせる。


「この茶色いのなんですか?」


 クンクンと匂いを嗅いで首を傾げる。

匂いを嗅ぐあたり動物感あるなーと言う目でグレンを見つつ、自分様にも一個取り出して口に放り込む


「それは砂糖菓子みたいな物です。舐めてもいいですし、噛んでも良いです。

喉が少しは落ち着くかもしれません」


 私が食べているのを確認してグレンも恐る恐る口に入れる。

そんなに警戒しなくても今更毒なんて盛りませんよ

可愛らしく口をモゴモゴさせている姿に、見た目よりも幼く見えるグレンが可愛らしく思えてくる。

 そして、みるみる顔が明るくなっていく


「何だこれ!!この砂糖菓子!!甘いけど不思議な味だ!

すごく美味い!!肉以外で美味しいと思ったの初めてだ!」


 キラキラした瞳でとても嬉しそうに語るグレン

そうだろう、そうだろう

キャラメルの中でも森○キャラメルは最高峰に美味しいのですよ


 無邪気なグレンが可愛らしくて、人種を焼いて追いかけますのが楽しい!とか言っていた邪悪な面を忘れ呑気にほのぼのしてしまう。


 っと、呑気にしている場合ではないここは魔獣のでる森だ。

油断は禁物!

それに、森へ入ったリリーちゃん達を探さねばならない。


 馬車の通った車輪の跡が残っているから探すには苦労はしないだろう。

そう思っていると、急な殺気にグレンと同時に振り返り森の奥に視線を向ければ、そこに立っていたのは見間違うことのない白銀の幼女、リリーちゃんなのだが…

 

 獲物でも見るような、いや…射殺すような目でこちらを見ている。


えっ…すごい怒ってらっしゃる?


戻ってくるの遅いから怒っちゃったかな…と心配していると、グレンが不意に立ち上がる。


「そこの火吹きトカゲ、タキナ様から今すぐ離れろ…」


 なるほど、いや、グレンはもう敵じゃないんですよーと、伝えようと口を開きかけたが


「タキナ様に愛想振り撒きやがって

その間抜け面の牙、一本ずつへし折って差し上げましょうか?」


 おぉーーっと…思っていたのと違いました!!

完全に目が逝っちゃってますよリリーちゃん!

しかも、首折れました!?

ってくらい首が真横に曲がってますけど、元が梟だからなの!?そうなの!?

それにしても、リリーちゃんまさかのヤンデレ属性ですかー??

主人への忠誠心が重い!!

それとも、ペットは飼い主に似るならぬ、召使は主人に似る的な感じですかー??


「はっ、チビが活きがるなよ、僕を誰だと思っている。

 ドラゴン最強と謳われたエンテイの孫だぞ、たかが主人のとなっ…ヘブッ」


 グレンの話の途中で、一瞬で距離を詰めた真顔のリリーちゃんの飛び蹴りが華麗に炸裂し、グレンの顔面に入る。


 全てがスローモーションの様に見えるのは気のせいか否か、吹っ飛ばされたグレンは平原に粉塵を撒き散らしながら転がり、平原に人型シャチホコが出来上がった。


ちょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!?

リリーちゃん!?

驚いていると今度はグレンから殺気が…


「クソガキガァーーー!!!」


 さすがは頑丈なドラゴン、あの強烈な飛び蹴りを貰ったにも関わらず鼻血を垂らしてはいるが、直ぐに飛び上がるように起き上がる…がっ

それと同時にリリーちゃんの追撃、右ストレートが容赦なくまたも顔面に入るかと思いきや、グレンが左手でその拳を掴む


「何度もやられるかクソチビ!」


 ニヤリと小馬鹿にするような笑みを浮かべるグレン、今度はグレンの右ストレートがリリーちゃんの顔面目掛けて繰り出されるが、リリーちゃんは左手でそれを止める。


 女の子相手に容赦なく顔面狙うなんて恐ろしい子!!!

 頭一つ分ほどグレンの身長が高いため、リリーちゃんが形成不利なはずなのだが、両者の掴み合いは力が拮抗しているのか、互いの真ん中あたりで動きをとめ両者の腕が震えている。


「上等ですよ媚売りクソトカゲ、手加減してやってるのにつけ上がりやがって!!

炎の吐き過ぎで脳みそ炭ですかぁ?」


「それはこっちの台詞だ!調子に乗るなよクソチビ!!!

お前こそ身長と同じでお頭も小さいのか?

ドラゴンの姿になればお前なんて瞬殺なんだよ」


 両者の煽り合戦が止まらない…

その上、両者とも完全に目が獲物を狩る魔物のそれだ。

ギシギシと骨だか筋肉だかが軋む音すら聞こえてくる

一体どれだけの腕力なんだ2人とも、特にリリーちゃん!!その見た目で!?


って、いやいや、呆気に取られている場合ではない。

このままだと収拾がつかなくなる。


「ハイハイハイ!!両者ともそこまでですよ!!」


今更ながら慌てて2人の首根っこを掴んで思い切り引き離す。


「グエッ!!」「フギャッ!!」


 本日2度目のグレンのグエッ

2人ともほんとゴメンて、恐る恐る両者の首根っこから手を離す。

 離した瞬間に再度掴みかかりに行かないか不安だが、ゼェーハー言っているが殴りかかりそうにもないので一安心だ。

 しかし、睨み殺さん勢いの両者に頭を抱えたくなる。


「2人とも落ち着いて下さい。

リリーちゃん、流石にあの不意打ちはいかがなものかと思いますよ」


 ため息をついてリリーちゃんを見れば、ショック!!を体現したかの様な顔をしている。


「何故ですか!?このクソトカゲはタキナ様に尻尾振って取り入ろうとしていたのですよ!?

 何処のドラゴンの骨とも分からないようなクソトカゲがっ!!

タキナ様の隣に立つだけでも不敬罪で斬首に値します!!

タキナ様を守るのはタキナ様の、タキナ様だけの、タキナ様の為の僕であるリリーの役目です!!」


 重いよ!!!リリーちゃんが、ものすごい重いことを言っているが、両手を胸の前で組んで、うるうるした瞳で見上げてくるその破壊的な可愛さに、思わず胸を締め付けられる。


 そうですねーリリーちゃんは何も悪くないですねーと、頭をナデナデしてあげたくなってしまう衝動に駆られるのも束の間


「おい!!クソチビっ!!ドラゴンの骨だと!?なんの例えか知らないが、馬鹿にされていることはわかるぞ!!」


すかさずグレンが吠えると、うるうるの瞳が瞬時に獲物を見る目に変わりグレンを射抜く


「やめなさい!

それ以上、罵り合うなら…2人が抱きしめ合いながら、ゴメンナサイを100回言い合う刑に処しますよ」


両者とも悪寒でも走ったのかブルリと震え上がり


「「スミマセン」」


意外と息が合うじゃないかこの2人、兄妹の様に揃ってシュン…としている2人の姿に笑ってしまいそうになる。


 鼻血を拭く様にとグレンにティッシュを渡しながらリリーちゃんに向き直る。


「物分かりが良くて大変素晴らしいです。

がっ、リリーちゃんから手ならぬ足を出したのでグレンに謝ってあげて下さい」


リリーちゃん2度目のショック顔


「タキナ様そんな…」


ぐっ…そんな捨てられた子犬のような目で見ないでくださいリリーちゃん


「私はリリーちゃんを1番信頼していますし、そんな信頼のおけるリリーちゃんが私を守ってくれるのは大変嬉しいです。

 ですがっ!こちらの理由も聞かずに急に攻撃を仕掛けるのは、今後の事を考えれば許すことはできませんしグレンにとっては理不尽な飛び蹴りだったんですから」


リリーちゃんに言い聞かせるよう目線を合わせて語りかけると


「タキナ様に1番信頼されている。

1番信頼、リリーが1番…」


 何やら小声でブツブツ言い始めるリリーちゃん、ほんの小1時間ほどで一体リリーちゃんに何が起きたと言うのか!?

こんな子でしたっけリリーちゃん!!?

リリーちゃんがちょっと怖いなタキナ


「分かりました。

 ちゃんとクソトカゲに謝罪します」


勢いよく右手を挙手し選手宣誓よろしくグレンに向き直ると


「サキホドハ トツゼン トビゲリヲシテ ゴメンナサイ」


おぉーっと、快く受け入れてくれたかと思ったが、驚くほど感情のこもらない棒読みだぁーー!!


「ハッ、クソチ「グレン…」」


 明らかにリリーちゃんを罵る言葉が続きそうだったので、怒りを滲ませんた笑顔でグレンを見る


「ハイッ…アナタヲ ユルシマス」


 こちらも負けず劣らずの無感情の棒読み…完全なるその場限りの形式的な謝罪だが、まぁ、無いよりはマシでしょう…私の自己満足ですけど…

 なんとも言えないこの場の雰囲気に、平原の風だけが爽やかにないでいく


しばしの沈黙の後、私の盛大なため息ではなく深呼吸をして早速本題に入る。


「さて、取り敢えず謝罪は終わりましたのでここからが本題です。

リリーちゃんが助けた皆さんは何方にいらっしゃいますか?

お話を色々と伺いたいのですが?」


リリーちゃんに視線をやると


「あの者達は森にある池の淵に結界を張り、待機させています。」


 先程のヤンデレリリーちゃんとは別人のように、お仕事モードに切り替わったキリッとしたリリーちゃんが淡々と答える。

 さすがリリーちゃんできる子だ…


「では、早速そちらに向かいましょう案内してもらえますか」


「勿論です!」


 元気よく返事をするリリーちゃんにニマニマしそうになる。

可愛いのぉー


「あのー、僕って一体何のためにここに連れて来られたんですかね?」


 おずおずと手を挙げて様子を伺うグレン、そう言えば、ちょっと付き合え的な事を言っただけでした。

 とはいえ、言いにくいじゃない。君を返すと都合が悪いのだよ

とか、完全に悪役のセリフじゃないですか、色々話を聞きたいという理由もあるんですよ


 この世界の事はリリーちゃんが網羅しているとはいえ、私が実際知りたいのは知識としての話より、感情のこもった情報を聞きたいのだ。 

 幸にしてドラゴン、ドラゴノイド、エルフの3種族が揃っている。

 獣人と人間が居ないが、まぁ、1種族単体から話を聞くよりは偏りすぎた情報にはならないだろうと思う。


 それに、グレンが君達を追いかける事は有りませんよという話と、私がいればドラゴンと話し合いの余地あるよと言う説明もしたい。

 がっ…死ぬかも知れない逃亡劇の後なので、ドラゴノイドとエルフの精神面を考慮しつつになるだろう。


「グレンにはドラゴノイドとエルフの皆さんへの謝罪、そして世界情勢について知っている事があれば話して頂きたいと思いまして」


 今話したことも事実考えていた事だし、決して思いつきで言ったわけではない。


 うん…口止めが終わるまでと言う話はひた隠しておく、そう答えるとグレンの顔があからさまに嫌そうに歪む

やっぱり子供だなすぐ顔に出ちゃうのね。

 リリーちゃんもリリーちゃんで、あからさまにザマァーと言う顔をしている。

 分かりやすすぎる2人は見た目通りの精神年齢のようだ。


「グレンもドラゴンとしての面子も有るでしょうし、まだまだ子供に近い年齢かと思いますので、その辺は考慮するつもりでいますよ」


逃げていたあの面子の中に死者が出ていないことを願おう。


「…はい…」


 色々と不満がある様だが諦めたのか、グレンの小さい返事が返ってきた。

諦めろ少年、これ以上悪いようにはしないから


 神様の次の仕事は和解ですかね…

私の事とか、リリーちゃんの事とか聞かれるだろうから説明しないといけないし、私もちと気が重いです。


「では、移動しましょうか」


 自分にも言い聞かせるように暗い森へと足を向ける。

 すぐさま先導するようにリリちゃんが私の少し前を歩き、私が後ろを振り向けば後ろから抜け殻のような顔をしたグレンが付いてくる。

 

 きっと内心、何で僕がこんなめに…くらいに思っているんだろうなと苦笑いしながら見てしまう。

 

 さてさて、私にとってもグレンにとっても、ちょっとした試練ですね。

前に進む以外の道はなし、やるしかない!!

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