第4話 初仕事

 

 薄暗かった森を抜けると見渡す限りの大平原!!

やっと森以外の場所だーー!!!!

心の中で号泣する。

この世界に来てから早2週間、未だ最初の街にも辿り着けていない

ポンコツ神見習いのタキナです。


はい…。


 力に慣れる為には訓練が必要だと、リリー先生のごもっともな意見により来る日も来る日も魔獣と戦う日々!

 そして戦う度にぶっ壊れハイになってしまうジェットコースターのような自分の情緒に限界を感じ、そろそろ森を出ましょうかと提案したところ


「力もスムーズに使えるようになりましたし、そうですね。

そろそろ先へ進みましょう。

 何があっても、このリリーが命に変えてタキナ様をお守りいたしますので、ご安心くださいね!」


 と、幼女の自信たっぷりな命張る発言に目眩がしつつも、無事に森から出る許可が降りたのだ。


 日差しが降り注ぐ緑の大地、地平線まで良く見える。

草原からの風がとても心地良く、自分は植物だったのかと思うくらいその日差しと、風を全身で受け止めるように両手を広げて大きく伸びをする。


 日本と言う高温多湿な土地に住んでいると「今日みたいな気温と湿度の日がずっと続けば良いのにー」と言う日は滅多にない。


 その上、春も秋も花粉症を煩う人間にとっては花粉に怯えず窓を開けて快適に過ごせる日など、さらに稀であろう。


 だがしかし、今!この!私の立つ異世界の快適な気温と湿度!!

なんて素晴らしい。さっきまで鬱蒼としげる森の中に居たから余計かもしれないが、今日はここでキャンプしたい。

 そんな事を思いながら


「空が広い!良い眺めー」


深く深呼吸をしながら呑気にそう言うと


「タキナ様、ドラゴンです」


 リリーちゃんの凛とした声が響き指を指す。

森から出た途端にドラゴンですと!?

快適ですー!と喜んでいたのも束の間、すでに森に戻りたい…

指された方角を見てみると、遠くの空を真っ赤なドラゴンが悠然と飛んでいる。


 ほほーあれがドラゴンか、アニメとかに出てくるまんま、時々火を吹いて何かを追いかけている?

 よく目を凝らしてみてみると、西部劇で出てきそうな屋根付き荷台を積んだ馬車が爆走している。


「ドラゴンって、よく人を襲うんですか?」


「いえ、通常は襲いません

人間を何十人と食べるより、大型魔獣を1頭狩った方がお腹が膨れますので、人側からドラゴンに手を出したか…

もしくは凶暴化しているのかもしれませんね」


「なるほど」


 ふーむと考え込むと、スッと手を振って目の前に鏡を作り出す。

できたらいいなと思って、最近作り出した魔法…いや神力の鏡で馬車を拡大して映し出す。


「乗っているのはドラゴノイドとエルフ、見たところドラゴンは若い個体の様ですね」


一緒に鏡を覗き込むリリーちゃんに言われて、改めて荷台に乗る人達を見る。


「追われてる人達はドラゴンに手を出すような出立ちではないですし…

この方達を助けましょう」


ドラゴンはこの世界でも最強種、いくら自分が神レベルと言っても使いこなすにはまだかかりそうだが、若いドラゴン相手ならなんとか…なるかもしれない…がっ…凶暴化かっ…不安は拭えない。

 しかし、襲われているところを見てしまったからには


怖いから森に帰りましょう!


と言うのも寝覚がわるい。

 

 何より私はこの世界の神(予定)となるのだ。

 この世界の住人を救わずして何が神か…正直、自分がどういった神になりたいか具体的なイメージはできていない。

と言うか考える暇がなかった。

 

 けれど、私が生前勝手に思い描いてきた神様は、困っている善良な人々に人智を超える力で救済の手を差し伸べてくれる。

それが神様なんじゃないかと思っていた。

たった数週間で調子に乗りすぎとは思うけれど…けど…やるしかない!

グッと己の拳を握りしめる。




「リリーちゃんは万が一攻撃が抜けた場合に備えて、馬車の方達に付いて守ってあげてください」


「承知致しました」


 リリーちゃんの言葉によろしくお願いしますね。

と、返事をして力をこめた足で大地を蹴る

一歩で数十メートルを一気に飛び越える様に走る

走ると言うより最早飛ぶだろうか、浮遊系の力は絶賛練習中のため身体能力にものを言わせて直走る。


 神様っぽく翼を使いたいところだが、私には難易度が高い

いい年して天使の羽コスプレとか…痛い!痛過ぎるよ!

せめて神々しさ抜群の翼も似合うスタイルand絶世の美女ならまだしも、出るところも出てない顔もチンチクリンな私だぞ!!


無理です。


 あっという間に馬車の100mほど前に躍り出る。

私が出てきた森の方角を指差せば、気づいたエルフの馭者が手綱を捌いて指差した方角の森に向わせる。

 このパニックになりそうな状況で迷わずに即対応とは素晴らしい決断力、後方について来ていたリリーちゃんはヒラリと飛び上がって荷台の屋根に乗った。

 追撃しようとドラゴンも方向を変えようとする。


「お前の相手は私です」


 ドラゴンの頭上から氷の槍を雨のように勢い良く降らせると、翼の被膜を数本の槍が貫通して、体に刺さった槍の痛みにもがきながらドランゴンが墜落する。


 体の奥底から湧き上がる高揚感、いかんいかん蓋をして抑えなければ…歯を食いしばりつつも口角が上がる。

 相変わらず力を使う度、この感情に呑まれてしまう

痛みに堪えるように立ち上がるドラゴンと目が合う


今まで戦った魔獣は全部この氷の槍で一撃だったのに


あぁ……素敵…ドラゴンって強い…もっと戦いたい!!!


 ねっとりとした殺意を滲ませ、ドラゴンの目を見据えて黒刀を具現化し、手に構える。

 

 その瞬間、慌てる様にドラゴンが翼をバタつかせながら勢い良く空へと戻り、方向転換して元来た方向に飛び去ろうとする。


 はっ?逃げる?敵前逃亡!?

ドラゴンって強くて気高い種じゃないの?


「逃がすかぁぁぁぁ!!

タイマン張らんかいゴラァァァ!!!!」


 そう叫ぶと同時に、地上から黒い鎖が飛び出しドラゴンの体と翼に巻きつく、空を引っ張るように手を振れば、鎖が地面に引きこまれて地上にドラゴンを引きづり落とす。

 意地でも逃げるつもりのドラゴンが地面でもがきながらも、こちらを向いた瞬間に炎のブレスを吐くが瞬時に透明なシールドを展開し炎を防ぐ、このドラゴンのブレスが弱いだけなのか?神レベル故にどの攻撃もシールドの前では通らないのか検討が必要か…

 

 そんな事を考えながらドラゴンとの距離を詰めていく、ギリギリと締め付けられ鎖で動けないにも関わらず1ミリでも距離を取りたいドラゴンが、必死に私に向かって炎を吐くが私の歩調は緩まない。


「フフッ」


私に怯えて必死にもがくドラゴンの姿が愉快でたまらない。


「さぁ、どうしてくれようか」


 今の私は大変機嫌が良い。

 作り出した刀を手遊びの如く楽しげに1回転させ、ニヤリと笑う私の顔はさぞ悪人面であろう。

 

 先程まで何度となく吐いていたブレスをピタリと止め、ビクリと固まったドラゴンがガタガタと震え出した。

 

すると、突然真っ白な光の塊になり小さくなったかと思うと


「いいいいい命だけは!!

 おおおおおおおお許しくださいぃぃぃぃ」


上擦った叫び声と共に現れたには、土下座をした真っ赤な髪と茶色い角をした少年だった。

 少年と言っても歳は小学生くらいだろうか?

にしても、この世界にも存在したのか土下座…思わぬ展開に呆気に取られる。


ん?


ドラゴンはドラゴンじゃないの?

実のところドラゴノイドなの?

と言うか、私はこんな少年をボコボコにしてたの…?

背中に冷や汗が流れる。

この力使うとハイになるのをなんとかしたい

精神力の鍛え方をGoogle先生に質問したい。

盛大なため息をついて刀と鎖を消すと


「顔を上げてください。

てっきり凶暴化しているドラゴンだと思っていたのですが、様子を見るに違うようですね」


 顔を上げた少年の目は空にように澄んだ綺麗な青い目をしていた

そして容姿端麗!!羨ましい!!


「そっ…その…僕を見て怖がって逃げ回るあいつらを追いかけるのが楽しくて、何時も人間とかエルフにちょっかいかけて燃やしてて…えへへっ」


ハイ、ギルティー

えへへじゃねーよクソガキ!!


おっと、いけない素面なのに

イラッとした雰囲気が少年に伝わったのか


「ヒィッ!!ゴメンナサイ!!」


 また土下座の体制に戻る少年、彼からすれば幼稚園児が蟻を踏みつぶして遊ぶような、あんな感覚なのかもしれない。

このドラゴン幼児じゃないけど…それにしても、私の知っているドラゴンはプライドが山よりも高く、知識に富む器のでかいイメージなのだが、所詮は我が世界のファンタジードラゴン…

この世界のドラゴンは皆な情けない感じなのだろうか…


「ドラゴンが人型になれるとは知りませんでしたよ」


「そっ…そのー、ドラゴンは人型に姿を変えられるのですが皆は、下等種族に変身するなど弱くなるようで胸糞悪い!と言って人型にならないだけです。」


頭を地面につけたまま話す少年


 プライドが高いのは正解だったようだ。

人型になれるのは恐らく自称召使の言っていた他の種族と仲良く過ごす。の一貫で用意した能力なのかもしれない。


「なるほど、そう言えば貴方の名前を聞いていませんでしたね。お名前は?」


若干の間が空き、恐る恐る顔を上げた少年は


「僕…名前を言った後に殺されますか…グスッ…」


ついに泣き出したよこのドラゴン…そう言えば命を助けるとは断言していなかった。


「殺しませんよ、先ほども言いましたが凶暴化していないなら殺しません。

 ただ…今後も自分より弱い種族を悪戯に追いかけまわす行為をするのであれば、命を取るとまでは申しませんが相応の報いを受けて頂きます」


一度消した鎖を地面からニョロニョロと出して見せれば


「やりません!!2度としません!

あと、僕の名前はグレンです!!ゴメンナサイ!!」


 子供相手にと思うがしかし、中身は人種を遊び半分で殺すドラゴンだ。

弱い人間の子供とは訳が違う…がっ、脅し過ぎも考えものかと鎖を引っ込める


「分かりましたグレン、貴方のその言葉を信じましょう。」


「ありがどうございまずぅ…ズビッ…」


 一瞬顔を上げたが、また地面に勢いよく額をぶつけるグレン、分かったからもう止めて欲しい。

 

 正直子供に土下座させているのは心苦しい

腐った私の心にも少しの良心くらいはある。


「顔を上げてください。それと傷を見せてください先ほど私の攻撃で怪我をしたでしょう」


「あいっ…ズビッ…」


 泣いて鼻水を垂らしながら顔を上げるグレンにティッシュを数枚渡して、顔を拭きなさいと伝えると、おずおずとティッシュを手に取る。


 腰のカバンに入っていたポケットテイッシュだが使うと補充される。

腰に付いていた便利鞄のアイテムの一つだ。


 細やかな気遣いありがとう自称召使!グレンは良く見ると、白い半袖シャツにグレーの短パンのような服装で、その腕には痛々しい生傷と鎖の跡がついている。


 事情が事情だったが虐待の様で非常にまずい…事案だ。

警察沙汰です。

 

 痛い思いさせてゴメンナサイと謝罪しつつ、使えたら神様っぽいと思って学んだ治癒の力を使う


「んなっ!?」


突然慄くグレンに一旦治療の手を止める


「どうかしました?」


「あの、先程から思っていたのですが貴方様は何者なんですか?

見た目は人間だけど人間じゃない…魔精霊を使わずに力を使ってるし、ドラゴンの鱗を簡単に貫通する攻撃なんて見た事ない。

 それに治癒の力を使う持つ者なんて聞いた事ないです。

あと、黒髪に黒い瞳なんて多分どの種族にもいませんよ」


んっ?


 魔精霊使わずに力行使してるとか分かっちゃうんだすごいなー

からの、治癒の力を持つ者が存在しないだと?

どこの異世界にもヒーラーが居るのはお約束なのでは?

なにより、黒髪に黒い瞳が居ない?今更ながらフードを被ると、動揺なんて何一つしてませんよーを装おう


「私の名はタキナ、この世界の者ではありません

 この世界が滅びに向かうのを止める為この地に降り立ちました。」


 このセリフちょっと神様っぽくないですか?

救世主ぽくないですか?

そう思いながら改めて治療を再開する


「壮大な話し過ぎて…理解するのに時間がかかりそうです…」


「デスヨネー」


 私も異世界転生先で神になれって言われた時はそうだった

その気持ちめっちゃ分かります。

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