賠償金寄越せゴラァ!!!part2

ダンジョン第98層 王宮 王座の間



俺は運営が来る時を玉座に座り待っていた。


俺をこんな訳のわからないゲームに強制参加させ、餓死寸前にまで追い込んだクソ運営のスタッフとの初対面。


玉座の間は近衛隊を筆頭に厳戒態勢にて警備中だ。


正直言って顔面をぶん殴って制裁したいが、そもそも俺の力は全て運営が与えた物だ。不快な思いをさせたらあのクソ運営はペナルティとして力の没収や弱体化をしてくる可能性がある。



非常に、非常に遺憾ながら俺はおもてなしの用意をしてある。


言わば接待のようなものだ。運営スタッフをもてなしていい思いをさせ、可能な限り情報を引き出して豪華な報酬をもらい、さっさと帰ってもらう。



ああー、何で俺がこんなことをしなきゃならんのだ。

とりあえず接待は『暴食の魔王』による豪華料理を食べさせて、『接待の達人 サラリーマン櫻井』にその他諸々を任せるがそれでも最低限俺も何かしなくちゃならない。



はぁ〜〜。














…来た。


ついに来た。玉座の間の中央に膨大な魔力が集まりだし、警備中のホムンクルスが身構える。



玉座の間中央の俺の前に虹色に輝く魔法陣が出現した。空間転移系の魔法陣だ。運営も魔法を使うらしい。





さぁ、ついに運営スタッフとのご対面だ。どんな奴らなんだろう?種族は?年齢は?数は?そもそも人なのか?


俺は魔法陣を注視し、いつ何が起きても問題ないように魔王装備で待ち構える。







…ん?


…なんか、魔法陣小さくない?


空間転移系の魔法陣は門のようなものだ。魔法陣が大きければ大きいほど、でかいものを転移させることができる。


だが目の前に出現した魔法陣は、人が出現するにはあまりにも小さい。大きさは俺の手のひらくらいの魔法陣だ。


まさか小人か?それとも俺の知る空間魔法とは全くの別物なのか?






ガタンッ







普段よく聞く音。





魔法陣から、一つのカプセルが落下した。



そして魔法陣はすっと消えた。残されたのは、コロコロと転がるカプセルが一つ。俺がいつもガチャから出している、あのカプセルと瓜二つ。





俺は猛烈に嫌な予感がしながら、カプセルを手に取り、開封する。






「どうもこんにちは!運営スタッフです!あっ、何かすごいいい匂いがしますね!もしかして僕のために用意してくれたんですか⁈」












「いただきまーす!!!」


俺はとりあえずこの運営スタッフ?が望んだから『暴食の魔王』特製の豪華料理を振る舞った。


見た目は俺より年上、スーツを着込んだ元気一杯の新卒社会人のように見える。


「あの、あなたが運営ですか?」


「あ、僕何も知らないんで聞くだけ無駄ですよ」



は?



「うまっ、うまっ。まじでここの料理美味しいですね!あ、おかわりもらっていいですか?」


「いいけど…」


「ありがとうございます!」


 

「それで、何も知らないというのは?」



「言った通りですよ。俺はついさっき、魔法陣からカプセルが排出された瞬間にこの世界に生まれたパシリです。運営のことは何も知りませんから、聞かないでくださいね」


パシリ?いやいや、そういうレベルではない!運営は面倒な業務を全てこいつに押し付けたのだ!


そうだよ!ガチャから出たホムンクルスだって運営が生み出した奴らだ!

人体錬成なんてお手のもの!仕事なんて面倒なことは全部作った奴らに任せればいい話じゃないか!



「…いや、何でお前みたいな若い奴が出てくるんだよ。もっとこう、礼儀がある奴を生み出せよ。運営って俺を舐めてるのか?」


「うーん、それはどうでしょうか」



俺の運営に対する不快感が挙がると、こいつは否定してきた。



「これは直感なんですけど、カプセルの中には色んな可能性があったと思います。僕が生まれる可能性、キャリアウーマンが生まれる可能性、ベテラン社員が生まれる可能性、そもそも人ではない可能性。運営がしたのは、ガチャカプセルにユニットが生まれるように操作したのと、今回の用事に関する知識の注入だけだと思います。僕がこういうふうに生成されたのは、完全にランダムだと思いますよ」


「ふーむ」


運営はガチャから排出されるアイテムに関与できないってことか?

だから、俺が手に入れたスキルも事前に規制やテストができなかった結果、こうなったということなのか?



…いや、じゃあこいつの礼儀がないのって、俺の運が悪いだけじゃないか!!!




「あ、補償の前に、今回のエリア報酬のことを話しますね」


そうだ.今回こいつが来たのは、俺の急な能力制限の補償だけじゃない。俺が攻略したエリアの報酬を渡すためだ。



「…えーとですね。一応確認なんですけど、報酬減らしても大丈夫ですか?」


「は?」 


は?


「報酬ですよ報酬ー、まず第一に、報酬を可能な限り削減しないといけないんですよ」


「え、お前謝罪に来たんじゃないの⁈」


「え、それもそうですけど、本題は削減ですよ」


「えぇ…」


「報酬にも色々あります。エリア代表討伐報酬、エネミー討伐により入手できるMVP報酬、これらの報酬はイベント終了後に与えられます。問題なのはエリアを攻略した際に与えられるエリア報酬です。本来なら、一定の活躍を見せたエリア攻略参加者全員に功績値や順位を参考に分配されるはずでした」


「運営はですね、上位エリアの単独攻略なんて想定していなかったんですよ」


「まぁ、そうだろうな。現に第44エリアは、何人もの上位ランカーが攻略中だが未だ陥落していない」


「そうです、あのエリアの防御結界は凄いですからね。黄金球を落としても耐えるレベルです」



「各エリアには隠しパラメータとして、予想攻略戦力値ってものが決められているんですよ。この数値よりも多ければ報酬はランクダウンして、数値よりも少なければランクアップする。そして報酬を分配する。下位エリアならまだしも、45エリアはまずい。あそこの攻略戦力値は結構高かったはずです。それを山田さんはわずかな手勢で攻略してしまった」



こ、こいつ何も知らないとか言いながら、隠しパラメータとか知ってるじゃん!使い捨てでも運営スタッフというわけか!


おそらく他のユーザーはこのことを知らない。これはラッキーだ。俺は情報戦で一歩前に出たというわけだ。





「まぁそういうことです。山田さんが莫大な報酬を独り占めされると、バランスが崩壊してしまうんですよねぇ〜」


「だからまぁ、報酬の削減に納得してください」


「いや無理」


「そこを何とかお願いしますよ〜、あ、僕はユニットなので交渉後は僕は山田さんの支配下になるんで、養ってください。どうです?僕という報酬があるんだから何とか納得してくださいよ〜」


「お前戦えんの?」


「無理です。僕は非戦闘員なので。運営と交渉が必要になったら僕が代わりに交渉します。まぁまぁ有利に交渉できるとおもいますよ」


いや、俺は今交渉を有利にしたいんだが。



うーん、どうしようかな。なんかもう面倒だな。どうせクソ運営は俺の我儘なんて聞かないだろうし



「じゃあ全部くれよ」


「はい?全部ですか?」


「そう。面倒だから報酬と補償まとめて一つ。今まで俺が攻略したエリア、戦利品の回収がイベント期間内に終わりそうにないんだよ。だからもう面倒だから全部くれ」


「あ、それならいいですよ。じゃあイベント期間終了後に、攻略したエリアを山田さんの惑星に転移させますね。運営も面倒な手間が省けるから良いそうです」


「え、マジでいいの?」


「だって運営は適切な報酬を考えて生成する必要もなくなるし、ただ天使の領土をあげるだけ。運営は損しないじゃないですか。負担するのは天使世界だけ。コストも最小限で済みます。財布が傷みません。まぁ天使は領土が丸ごとなくなりますけど、運営は天使のことなんてどうでもいいとしか考えていませんから」


「うーん、クソ」


「僕もそう思います。うまうま」










さて、これから運営スタッフのこいつ(名前は久保田)をとりあえず魔王軍に編入させ、俺はガチャの時間と行こう。




では、無料ガチャ!



ガタンッ



⁈⁈⁈



金色のカプセルだ!SSRだ!やった!




なーにが出るかな?







SSR『アカシックレコード』




この世界全ての過去、現在、未来ありとあらゆる情報がアーカーシャに記録されているという概念。

神智学の開祖ブラヴァツキー夫人の著書『シークレット・ドクトリン』に提唱された。








出現したのは、一つの本棚だった。


そびえ立つ巨大な本棚。その棚は俺の身長を超え、無数の分厚い本で埋め尽くされている。本の背表紙は様々な色彩と装丁でシンプルに飾られている。






アカシックレコードがガチャから出現して、マッドサイエンティストや研究者系のホムンクルスがワラワラと集まってきた。


どいつもこいつも研究を一時中断して集まってきたらしい。目がやばい、マジでやばい。何というか、クリスマスプレゼントを前にした子供みたいにやばい。


しかしこいつらはやばい目をしながらも、本を読もうとすることはなかった。




「さぁ、山田くん。君がこの本を最初に読むんだ」


「え、俺でいいの?」


「ああ。アカシックレコードは君が出した成果だ。世界の真理を知るのは最初に手に入れた君であるべきだ。我々は後から読もう」



なら遠慮はいらない。さて、アカシックレコードは何が書いてあるのやら。


俺は適当に本を取り出す。タイトルは…井上優馬の誕生から現在?


いや、井上優馬って誰だよ。


とりあえずページを開く。



2003年6月7日12時45分3秒、栃木県佐野市佐野中央病院にて井上優馬が誕生。体重3447g。母子共に健康。担当産科医山中吾郎医師。天気は曇り。母は井上樹子34歳、父は井上聡32歳。兄は井上春樹3歳




誰だこれ。



俺は適当にパラパラとページを捲る。そこには井上優馬のどうでもいい情報、というか日記が続いていた。


俺はどうしていいか分からず、本を戻す。次だ、次こそが何かすごい本かもしれない。



『とあるペンギンの日常』


中にはペンギンの日常が延々と綴られていた。


こ、これはもしや。



俺は他の本のタイトルも確認する。



『世界のドアの塗装色』

『飛び跳ねるカンガルーの数学』

『1995年イギリスの傘の流行』

『赤クレヨンの製造レシピ』

『東京都のとある喫茶店の帳簿一覧』




俺は何とも言えない顔になっていた。興味を抑えきれなかったマッドサイエンティストたちに本の閲覧許可を出す。



「な、なぁ、これ本当にアカシックレコードなのか?」


「そのはずだが…」


どうやらマッドサイエンティスト達も混乱しているようだ。





「ああ⁈、そうか、そういうことか⁈」


「何?何がわかったんですか?」




「アカシックレコードは確かに、ありとあらゆる情報が入っている!」


「恐らくこの本棚は、アカシックレコードに接続し、情報を本という形で引き出しているのだろう!」


「問題なのは、その膨大な情報集合体であるアカシックレコードから、望む知識を抽出する方法がないのだ!」


「この世界の情報のうち大半は、必要としないゴミ情報だ!我々が必要とする知識が抽出される可能性は極めて低い!」




「つまり、誰も必要としない本を出し続ける本棚って事?」


「確かに、確かに世界の全てが、この本棚にあるのにぃぃぃぃぃ⁈」



その後、アカシックレコードは24時間ごとに本棚の本を新しくし、それまであった本は外に積み重なる。



妙物管理機構は本を図書館へと収納、役に立ちそうな本が出れば報告するとのことだった。









今日のログインボーナスは楽器ガチャコイン。


さぁ、ガチャ!



ガタンッ



C『ホイッスル』





出現したのは、百円ショップで売っていそうな、真っ白いホイッスルだった。


そもそもホイッスルは楽器じゃないぞ!



・・・しかし、この安物に見えるアイテムは何か面倒な能力が付与されている可能性が高い。


確かめねば。とりあえず吹いてみよう。





ピュー、ピュピュピュピュピュ、ピュ〜








………何も起きない。うーーーん、何のホイッスルだこれは?


俺はしばらく適当に吹いたが、特に何も起きなかった。

仕方がないので、鑑定を行った。






●ホイッスル

何の効果もない普通のホイッスル。ガチャから出た物の中では珍しく普通です。個人的に思うのですが、Cより下のレアリティを作るべきだと思います。何か能力が付与された物とそうでない物の見分けがつきません。




本当だよ!鑑定は1日1回しかできないんだぞ!



なあ、何か見分ける方法無いかナビゲーター。




●しらん。何故俺に聞く?そういうことはブックメイカーに聞け

●はあ~、 ( ゜Д゜)! どうして私に聞くんですか!この役立たず!



それでもナビゲーターかお前ら。








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