国家目標

臓器と人間が市場に流通したその日の夜、ついにロケットが完成し、打ち上げられた。



煙を吹き出しながら、巨大なロケット、『バハムート一号』が地上から打ち上げられた。


その竜の咆哮のようなエンジン音と共に、勢いよく上昇し、宙に舞い上がる。輝く炎が尾を引きながら、空へと高く高く舞い上がっていく様子に、このロケットを作りあげたマッドサイエンティストと生産系ホムンクルス、その他数多くの見学者の目を釘付けにし、興奮させる迫力満点の光景だった。



次第にロケットは遠ざかり、小さくなっていく。空の彼方へと進んでいく姿は、まるで夢のような幻想的な光景だ。



その打ち上げは、まさに山田ドラゴンガチャ王国の技術の結晶だった。






ロケットから分離した人工衛星から、我らの星の映像が送信された。


広大な宇宙の中に浮かぶその星は、ほとんどが海に覆われていた。オーストラリア大陸を一回り大きくしたような。綺麗な円。それだけ。この星の陸地はそだけ。だがそこにはまだ小さいが、文明の息吹を感じる光があった。高層ビルの明かりや道路の輝きが、陸地に生命と活気を表していた。






美しいと思った。これこそが、俺の国。俺の配下が築いた都市。


俺はその映像にうっとりとしながら、一つのことを思ってしまった。












なんか、物足りないなぁ。











いやまあ、仕方が無いことなのだが。最初の頃はショッピングモールの周辺に都市を造ろうとして計画し、次々とホムンクルスが住むビル群が建設された。範囲としては直径1キロほどの小さな都市。


その周辺は食料生産のための農地が広がっており、各地に小さな村が点在している。最近はダンジョン第6層にホムンクルスを送り続けていた。


つまり地上の発展は鈍化したのだ。人口が増えているのは、空からは分からないダンジョンの中。






だがしかし、理解は出来るが納得はできない。


うーん、何か手っ取り早くこの文明の光をもっと輝かせることはできないか。



光………明かり………明るい………炎………


何かあったかな。『決して消えない炎』は違うな。あれは消えないけど、燃え広がらない。



うーん。






あっ。


シームルグ。シームルグが生み出した植物の種の中に、燃える種があったはずだ。


シームルグは同じような燃える種子を何回も生み出しており、農家系ホムンクルスの報告では発芽した芽も燃えているのだとか。しかし燃え広がらず、熱くも無い。



これだと思った。











俺は倉庫に向かい、それと植物成長剤を持ち出す。

激しく燃えているが燃え広がらず、熱さを感じることのない魔法の種。




俺は猪鹿蝶にのり、全速力で飛ばす。目的地は大陸の端。もし何かがあっても大丈夫なように。





猪鹿蝶から降りて種を地面の上に置き、植物成長剤を一滴。



ぽとり。






種が発芽、急速に成長し、メキメキと音を立てながら大きな姿へと変貌していく。



あっと言う間に空高くへと伸びる巨大な樹木が姿を現し、その葉っぱなどは鮮やかに燃え盛っていた。


樹木は天をも貫くほどの高さにまで達し、何も無い周囲の景色を圧倒した。


さらに驚くべきことに、木の周囲には燃える川がいつの間にか出現し広がっていた。その川は水なのに炎に包まれて海へと流れていく。煌々と輝く樹木と共鳴しているかのようだった。





俺は人工衛星より観測された星を見る。


俺の予想通りその映像には先ほどまで存在しなかった、大きな光が映し出されていた。


樹は一際大きな光を放っているが、何故か出現した燃える川がまるで交通網のように衛星上から観測できる。






あぁ〜、文明の輝きだ!綺麗だなぁ!







いや、でもこれって文明の輝きって言えるのか?













朝起きてログインボーナスを確認する。今日のログインボーナスはスキル確定ガチャコイン。いつもの日課だ。

俺はもう面倒くさいので休んでいるが、結構な数のホムンクルスが未だにラジオ体操を頑張っている。朝も速いのによくやるものだ。











ガタンッ





R『スキル お残しは許しません!』



俺はスキル一覧を確認する。




●このスキルを習得すると、あらゆる食べ物に対する苦手意識が無くなり、さらに限界摂食量が増加して驚異的な量のご飯を食べることができます。また、万能消化酵素などが発生し、あらゆる物を食べて効率的に消化吸収できるようになります。例えばお酒が苦手な人がこのスキルを習得すると、お酒をどれだけ飲んでもアルコール中毒になる心配はありません。安全にお酒を味わい、栄養として分解し吸収することが可能です。







………残念ながら、使い道の無いスキルだ。俺には嫌いな食べ物なんてないし、お酒だって飲めるのだ。

欲しい人にとっては喉から手が出るほど欲しいだろうが、俺には無用の長物だ。




そこで俺は考えた。このスキルをどうにかして役に立たせることは出来ないかと。



俺は考えた末、スキルのとある一文に着目した。『あらゆる物を食べて効率的に消化吸収できるようになります』



あらゆる物。そう、食材だけでは無く、あらゆる物。俺は土を黄金に変えて食べてみた。




バキバキバキバキ。



俺がカメラを使って体を改造し手に入れた龍の歯は非常に堅い。何だって砕くのだ。

ホムンクルス達が俺を「えぇ………」と言う、ドン引きした表情で俺を見る。






ゴックン。





味のしない飴だな。














それでは、今日の無料ガチャ!







ガタンッ







来た、金色のカプセルだ!SSR!








SSR『ワールドクエスト』




突如として火薬が爆発する音が聞こえ、俺はショッピングモールの外に出る。


花火が打ち上がる中、空には俺が展開できるシステムウィンドウとは比較にならないくらい大きなシステムウィンドウが展開され、そこにはこう書かれてあった。



 




クエスト1

【降臨大征 オロチ】の撃破

難易度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

報酬  新大陸【冒険大陸】の獲得



クエスト2

【殺人鬼 ジェイド】の逮捕 

難易度 ⭐︎

報酬  ユニット【4番打者】の獲得  



クエスト3

【名もなき聖剣】の獲得

難易度 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

報酬  【首都防衛司令部 極秘資料】の獲得







鑑定!




●ワールドクエスト


ワールドクエストは、そのクエストの受注者が所属する陣営または星系すべての生命体が挑む、超高難易度クエストです。

当然ながらクエストの達成は非常に困難であり、最低難易度であってもクエスト達成は困難であり時間と金などの資源を費やすことになります。

しかしクエストの難易度に比例して報酬は豪華になっていきます。頑張ってクエストクリアを目指しましょう。

尚、クエストは不定期で追加されていきます。






突如として発生したワールドクエスト。


まず思ったのは、なんだこのクエスト1の難易度!星いくつあるんだ⁉



えーと、1,2,3………25‼他のクエストが1と5なんだぞ‼


鑑定では、最低難易度でもかなり難しいらしい。なのに25‼どれだけ難しいんだ‼


名前や撃破という文からして、おそらくは魔物などの生き物なんだろう。


まずいぞ、一刻も早く倒さなければ俺の王国に甚大な被害を与える可能性がある。


俺はすぐにオロチ撃破のために精鋭中の精鋭で構成されたホムンクルス近衛隊を呼び出し彼らがいつでも戦えるように準備させた。


そして人工衛星と足の速い偵察隊を放つ。第一目標はオロチの発見。それと同時に殺人鬼と聖剣も探させる。


難易度は1だが殺人鬼も放ってはけないし、聖剣はおそらく強力な武器だ。なんとしてでも回収したい。

報酬の4番打者と資料はよく分からないが、報酬は豪華らしい。期待はしよう。


この大陸は狭く、基本的に平らな土地が続く。すぐにでも見つかるだろう。














だめだった。


そもそもオロチとか殺人鬼とか聖剣がどこにいるかがわからない。見つからないのだ。


このワールドクエストの説明文では、『所属する陣営または星系』とある。この一文から考えるにこのワールドミッションはこの大陸だけじゃなくて、海底とか宇宙とかも含む可能性が高い。


流石は高難易度。そもそも見つけることが困難というわけか。




しかし無理だなこれは。今のところ達成の見込みが無い。放置。




















ダンジョン第97層 行政層



先進魔法技術局 分析官 視点





「はあ、はあ、はあ」


足が痛い。胸が苦しい。傷が開く。


だが、足を止めるわけにはいかない。一刻も早く、あれを見ることが出来る、高い場所に行かなければ。








天空に高くそびえる摩天楼に囲まれた、極限まで発展した大都会、ダンジョン第97層。行政層。


つい先ほどまでは、輝く光に包まれた街並みに数多くの企業や行政施設が立ち並び、活気と忙しさが溢れていた。





だが、突如として繁栄は終わりを告げた。


爆発音と共に周囲のビルをふきとばして、それは現れた。




冷たい金属が輝く、機械仕掛けの純白の蛇。







蛇は無慈悲に都市を蹂躙し、建物を押し潰し道路を粉々に砕いた。その巨大な体は摩天楼すらも軽々と超え、咆哮のような轟音が響き渡り、大都会は一瞬にして混乱と破壊の渦に巻き込まれた。




蛇に対してはこちらもやられっぱなしという訳では無い。先ほどからひっきりなしに重魔法師団の攻撃が続いているが、全くと言っていいほどに効き目はない。



私はこの大都市を一望できる山に建てられた展望台にたどり着き、蛇を観測する。



機械の蛇の周辺は連続的な大爆発と共に、魔法の炎が舞い上がる。第97層はダンジョン最終層まであと一つ。


至る所に防衛設備が存在し、また97層を守護する大勢の兵士達が勤めている。


この層の全て魔術師が結集し、全方位からさまざまな魔法を蛇に向けて放っていく。しかし、蛇はそれに動じず、口から光線を吐き出した。




何千もの魔術師で構成された部隊が紙のように吹き飛ばされた。たった一発で、何千もの魔法使いが命を落としたのだ。その破壊力はあまりにも恐ろしい。


しかもこの光線は蛇にとっては通常兵装の一つに過ぎないらしく、冷却時間や魔力装填時間も必要としないらしい。何発も連射を行い、そのたびに魔術師の命が失われる。



それでも攻撃は続く。







無駄だ無駄だ!攻撃なんて意味ないよ!あれは無理だ。生物としての、格が違いすぎる!


なんだあれは、この世界の物では無い異質さ、圧倒的理不尽。


そう、文明の系統が全く違うのだ。分析官の僕でもあの蛇の構造がまるで理解できない。まるであの新人ダンジョンマスターのようだ。


今分かるのはあれがゴーレムの亜種のような物であること、自立可動型であることだけだ。


僕はリュックサックにいれた計測装置を取り出し、分析を続ける。





僕は通信端末を起動して上司に連絡する。一刻も早く、分析結果を送らなければ



「あ、もしもし?まだ生きてますか」


「おい、何をしている。早くお前もシェルターに」



その瞬間、蛇の背中から無数の光の矢が放たれた。まるで雨のように降り注ぎ、先ほどまでの攻撃のお返しとばかりに全方位に降り注いでいく。その光の矢は、分析官である僕でも圧倒するほどの速さと威力を持ち、防衛設備や魔術師団に降り注ぐ。


矢は魔法障壁や装甲を容赦なく貫き、防衛砲台や魔術結界は一瞬で破壊され、魔術師たちは断末魔を上げる。



その壊滅した設備の中に、上司が逃げ込んでいたシェルターもあった。




私は絶望に暮れる。シェルターは最高レベルの装甲で守られていたはずなのに。




蛇に対しての魔法攻撃は終了した。先ほどの攻撃で全滅したのだ。








違う、まだ終わっていない。


空の彼方より、彼らは来た。


悪魔や堕天使などで構成される航空兵団。彼らは全速力で飛来し、蛇に対して攻撃を放っていく。







だが蛇の背中からは幾千万もの光の光線が放たれ、こちらの飛行可能な兵士たちが虫のように打ち落とされていった。


悪魔や堕天使たちは空を舞い回避しようとするが光線はジグザグに追尾していく。蛇の光線により堕天使の翼が燃え尽き、悪魔の邪悪な羽根が灰と化した。

航空兵団は一瞬にして全滅。穴だらけになって、流れ星のように落ちていく。





しかし攻撃は終わらない。


今度は地上戦力だ。全方位より重装魔剣師団が蛇に向けて進軍する。


魔剣を装備した兵士たちが蛇に向かって突進する。そのほとんどは近づく前に死に、なんとか蛇にたどり着いた兵士は一斉に刃を振り下ろし、蛇の装甲を貫こうとしたたが、かすり傷がついただけだった。


そして蛇が身震いするたびに、数え切れないほどの兵士たちが踏み潰されて命を落としていく。







魔のダンジョンの精鋭たちが、こんなにも簡単に打ち倒されていく。



だがこれは無駄死にではない。全てが囮なんだ。






第97層司令官。『賢人ネロ』が扱う魔法は重力魔法。その魔法で戦争ごと圧縮し潰してきた、ダンジョンマスターの側近の一人。歴戦の猛者。




ダンジョンマスターの側近である賢人ネロが時空間を圧縮する超重力魔法を放った。


全てはこの一発のため。蛇に悟られないよう、逃げられないように皆突撃したんだ。







だが無駄だった。


ネロの重力魔法は機械の蛇の強力なシールドによって阻まれた。蛇は切り札であるこちらの攻撃を容易にしのぎ、まるでお返しとばかりに口から光線を放った。








こりゃ無理だ。僕は一目散に逃げ出すのだった。

















――――――――――――――――――――─

本作をご覧いただき、ありがとうございます。


評価は目次の下よりできますので、まだの方は是非。


小説家になろうやハーメルン、アルファポリスでも掲載しておりますので、そちらでもぜひ評価をよろしくお願いします。


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