文明を喰らう者
油断した!
昨日ガチャから出た全自動たこ焼き製造機を使い、たこ焼きパーティを楽しんでいる最中に事件は起きた!
全自動たこ焼き製造機の使い方は、たこ焼き機が指定する材料、小麦粉やタコなどを製造機に投入し、あとは自動で調理、そして出来上がったたこ焼きを皿の上に置いてくれるのだ。
俺と少年A、そしてアナスタシア殿下三人はたこ焼きパーティーを楽しんでいたのだが、途中で材料であるタコが無くなってしまった。食べすぎたのだ。
まあ、タコなしたこ焼きにソースとマヨネーズ、あとはチーズでもかけて食べればいいと考え、俺達は全自動たこ焼き機が出すタコが不足しています!という警告を無視して、製造開始のボタンを押した。
●タコが不足しています!材料不足を解決するため、タコを召喚します!
そうして全自動たこ焼き機を中心として魔法陣が展開、超巨大タコが召喚されてしまったのだ。
もちろんタコ程度、俺たちの敵ではない。すぐに俺の左腕で串刺しにし、少年Aが丸焼きにした。
タコはその後、寿司やたこ焼き、お刺身へと調理され、ホムンクルス達によって完食された。
レア度はCだが、油断してはいけない。ガチャから出たのだ、何か意味不明な機能があるかもしれないのだ。
その後マッドサイエンティストにより、タコの召喚装置が製作された。
装置を起動すればタコが召喚されるので、敵陣に装置を投擲、その後召喚されたタコが縦横無尽に暴れ回るという生物兵器として運用されている。
今日のログインボーナスは5連ガチャコイン!
ガタンッ
C『ナマハゲ仮装セット』
C『打製石器』
C『接待の達人 サラリーマン 櫻井』
C『カツラ』
UC『ドアノブ』
ガラクタと共に、スーツ姿の一人の男が現れた。
初老の男性だ。白く長いひげをはやし、上品なスーツを身に纏っている
その男の目は閉じているかのように細く、ニコニコと微笑んでいる。その微笑みからは、ただ者ではないことがわかる。
「君が山田くんか!会えるのを楽しみにしていたよ!握手してもいいかな?」
俺はその勢いに負けて、握手する。櫻井は本当に嬉しそうだ。
「俺のことを知っているのか?」
「そりゃあもう!私は君の大ファンだからね。いつも楽しく動画見させてもらっているよ!」
動画。つまり俺がガチャを引く光景をこのおっさんは見ていたということか。
…このオッサン、何者だ?
「あんた、何なんだ?俺の動画を見れるってことは、権力者か何か?」
「いやあ?私はどこにでもいる、ただのサラリーマンさ」
「いやいや、じゃあ何で俺の動画が見られるんだよ。動画は結構な金持ちか権力者じゃないと見れないはずだぞ」
「あぁー、すまないねぇ。実は色々と記憶が封印されているんだ。おじさん、重要なことは何ひとつ覚えていないんだ。ごめんね?」
その後、俺は櫻井に対して多くの質問を投げかけたが、その多くがわからないと答えるだけだった。
聞き出せたのは、櫻井が俺のファンであること、動画を見ていたこと、どこかの会社の営業課に所属していたこと、それだけだった。
俺はこのサラリーマンを前線に派遣した。接待する相手がいないのだ。人手も足りていないし、頑張って働いてくれ。
「ええっ⁈おじさん、銃なんて持ったことないよ⁈」
「最初はみんなそうだよ。とりあえずドロップアイテムの回収をお願いね」
「ドロップアイテム!いやぁ、胸が高鳴るねぇ!どんな不思議な物があるんだろう!」
…このおっさんは記憶を消された、権力者だと予想する。俺の大ファンで運営に無理を言って、ガチャの景品として割り込んだのだ。
記憶が制限されているのは、情報を漏らすことを防ぐためだろう。
それでは、今日の無料ガチャ!
ガタンッ
SR『蠱毒と滅亡の杯』
出現したのは、神秘的で、しかし不気味なオーラを放つ黄金の杯だった。
鑑定!
●蠱毒と滅亡の杯
蠱毒とは、閉鎖された空間での殺し合い、勝ち残った者を有効に活用するという呪術です。しかしその非効率さに疑問を感じませんか?
そこで使うのがこの「蠱毒と滅亡の杯」なのです!この杯を都市などに設置することで、エリア内の戦闘や災害によって発生し失われるエネルギーを集約し、そして文明の崩壊を加速させることができます。
この杯によってエネルギーが集まると、そこからは極上の酒が生み出されます。文明の薫りがする美酒が、あなたの手に!
ただし、ご注意ください。この杯による文明滅亡加速機能は、既に末期状態に達した国家や文明、都市などに対してのみ効果を発揮します。
それ以外ではこの杯は単なるエネルギー収集装置として機能するだけです。
文明丸ごとお酒に変えた一品。どんな味なのか非常に気になります。
ほほう。文明崩壊を加速させるねぇ。
この魔のダンジョンは、ただ魔物が大量にいるだけではない。暗黒騎士団や暗黒魔術師団といった、組織化された勢力が複数存在する。
おそらくダンジョン内には、ダンジョン国家やダンジョン文明のような物が存在する可能性が高い。
そして、今ダンジョンはスライムにより崩壊の危機にある。この杯は、崩壊を加速させてくれるだろう。
俺は魔のダンジョンの第1層にこの杯を設置した。
すると、魔術に関して素人の俺でも、この杯に力が集まってきていることがわかる。もう既に、ダンジョン内で何かが起きているのだ。
杯の中を覗いてみると、一滴だけだが酒が発生しているのが見てわかる。
いやぁ、『魔のダンジョン』はいったいどんな味がするんだろう。
楽しみだなぁ。
社畜死神は、この杯に魂が集まってくるので、魂の取得作業が大分楽になったと話していた。
当然ながら、杯から魂を採取するため杯の酒の質は落ちるだろう。
だがまぁ別にいい。社畜死神は集めた魂は全て保管してあるそうだ。
魂は有用な資源としていつか、使い道が見つかるだろう。
魔のダンジョン 第48層 神聖エルフェニア帝国 大森林
第384村 村長視点
「押せ押せ押せ押せ押せ!」
「踏ん張れッ」
ダークエルフたちは必死に扉を押さえている。外の扉には魔物たちが体をぶつけ、衝突音と魔物の雄叫びが響き渡る。
突如として、第384村に大量の魔物の波が押し寄せた。
魔物たちは農園の薬草や花などを次々と食い荒らし、その勢いは収まることを知らず、村を襲い始めた。
魔物達はどれも痩せ細っており、皆必死だった。
ダンジョン内の魔物は、魔力を餌とするはず。薬草など食べる必要なんてないはずなのに。いったいなぜ。
農園の警備部隊である数百人のダークエルフ兵たちは戦いに挑んだが、一瞬のうちに波に飲み込まれてしまった。
村を覆う壁はあっさり突破され、我が城にも魔物が押し寄せた。外で戦っていた城兵も壊滅。
残るはこの広間だけだ。広間では多くの衛兵達が扉を必死に押さえているが、時間の問題だろう。
つい先程まで、村の中には地獄の光景が広がっていた。至る所でエルフたちが魔物に蹂躙され、絶叫が響き渡る。
もはや、絶叫の声すら聞こえない。私たち以外はほとんど全滅したのだろうか。
扉を押さえるダークエルフ達の身体からは汗が滴り落ち、筋肉は限界に近づいている。
「村長!まだ司令官様に援軍要請をしないのですか?」
私、村長にはダンジョンシステムの操作権限をいくつか与えられている。その一つが緊急コール。48層の司令官や領主様に直接通信ができるのだ。
だが。
「司令官に緊急事態を知らせるためには、村の幹部の過半数以上の賛成が必要なのだ………」
幸い、この建物は村長に与えられた小さな城。この城には襲撃時に多くの幹部が集まっていた。
しかし足りない。あと一人の賛成が必要だ。
「村長!権限が私に譲渡されたので承認します」
権限は、死亡時に事前に登録していた序列に従い、次の序列の者に譲渡される。
目の前の近衛兵は、衛兵隊長権限序列30位。つまり、それ以上の者は、全滅したとのこと。
…こいつ以上の衛兵は、全滅したのか。
だが、ついに援軍を要請できる!
私は同胞の死を喜んでしまった。申し訳ないが、今はそれどころではないのだ。
すぐにシステムウィンドウを開き、緊急連絡コマンドを選択する。
●緊急連絡
ためらわず押す。
「司令官様!第384村の村長です!突如として魔物が襲来しました!え、援軍を…⁈」
●エラー!現在通信を行うことができません。ダンジョン内の通信システムに深刻なエラーが発生した恐れがあります。
「エラー⁈馬鹿なッ!」
ダンジョンシステムは、ダンジョンマスターを生み出した創造主自ら作り出した物。そんな万能の物がエラーなんて、初めて見たし聞いたことがない。
「村長!もう限界です!」
扉が吹き飛ばされ、大量の魔物が城内に流れ込んでいく。
扉を抑えていた兵士は剣を振り回し、何体かの魔物を切り伏せるが、すぐに魔物に飲み込まれる。
「クソッ!総員抜剣!帝国に栄光あれ!」
もはや我々にできるのは、少しでも魔物を殺すことだけ。
どうか、我々の仇を打ってくれ。
●定時連絡。こちら第384村 異常なし。繰り返す、異常なし。
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