現状についての考察と美男美女
神剣アイギスは花の女神の力が宿っている。
それが理由なのか突き刺された剣の根本から花が何本も咲き、色とりどりの花弁がこの真っ白い部屋に咲き誇る。
もはや驚くまい。今更この程度の超常現象に「ああ、そうなんだ」としか思わない自分の心の成長に感嘆する。
いやな成長だ。
しかし花。俺は飢えを凌ぐため花の蜜を啜った。流石は花の女神、蜜は溢れんばかりに満ちており非常に甘く、カロリーも豊富であると考える。うまい、しかし流石に限度がある。ドロドロとしているため水を飲みながら胃に送った。
花の蜜を啜るなんて小学生ぶりだ。
システムメッセージを見ると2件新着があった。
一つはログインボーナス。
今日のログインボーナスは家電引換券だった。
これで文明的な生活を送れというわけか。
しかし俺はだまされんぞ。どうせ家電をもらっても電気がないから動けませんとか、そんなオチだろう。
使用方法はチケットを破り欲しい家電製品の名前を言うらしい。
俺はチケットを破り、電気布団が欲しいと叫んだ。
そして上からたたまれた電気布団が降ってきた。これで寝袋生活ともおさらば。
…少し調べてみるとどういう理屈なのか、コードがコンセントに繋がってないにも関わらず温かくなりだした。それなら冷蔵庫をもらえばよかった。
そしてもう一つのメッセージ。
●現在ユーザー間でゲームの進捗状況に非常に大きく差が開いており、不公平だとのご意見が対応チームに殺到しています。
これを受けて我々運営開発チームは協議の結果、戦力差是正のためランキング下位のユーザーの方に対して緊急の補償対応を行うことを決定しました。ランキング上位のユーザーの方にはご理解をお願いします。
ユーザーおよび視聴者の方にご迷惑をおかけすることをお詫び申し上げます。
ユニット確定コインがプレゼントボックスに追加されました。
このメッセージから推測できることは多い。
まず、俺と同じように監禁された人間は大勢いるということ。そして俺たちは何らかのゲームをさせられている。そのゲームがいったい何なのかは不明だが、まだ監禁七日目にも関わらず非常にゲームの進捗状況に差が出ており、視聴者から批判が殺到しているらしい。
視聴者、調べてみた限り監視カメラのようなものはなかったが、何らかの超技術で配信しているのだろう。
俺を監禁した奴らは運営開発チーム、対応チームと最低でも2チーム存在するようだ。まあここまで大掛かりなゲームだ、結構大規模な組織が関わっているのだろう。
重要なのがクレームが殺到しているという点だ、その理由が戦力差。クレームに対して慌てて対応を行うということは、2つの可能性が考えられる。
まず、本当に差が開いている。戦力差ということは戦闘能力の差。
俺は使えない、アイギスをみる。本来はこのアイギスを使って俺は戦力を整え、将来的には何か、他のユーザーと殺し合いをさせられるのか?
いやな可能性だ。確かに俺の武器はどう考えても戦闘向きではない旗。銃なんかを引いたユーザーとの差は圧倒的だろう。
いや、武器が出るだけいい方なのかもしれない。未だに素手で、餓死しているユーザーもいるかもしれないのだ。
二つは視聴者がかなりのVIPということ。
こんな技術や施設をゲームのために使えるんだ。
かなりの有力者であると思われる。そのため、彼らの意見を無視するわけにもいかず不本意ながら補償を行った。
ここで一つの考えが浮かんだ。視聴者に気に入られよう。
滑稽な道化を装い視聴者の関心を買い、お気に入りになる。もしお気に入りの俺が死にかけたら同情し助けてくれるかもしれないからだ。
…ランキングというのはまずい。視聴者の多くは上位争いに目を向け、そして最下位争いなんて関心を持たないだろう。持つものは性格の悪いやつだけ。
そしてこのゲームがソーシャルゲームなどをモデルとしているのならば、ランキング上位者にはゲームを有利に進める報酬があるはず。この報酬によりさらに差が開いてしまう。
…ペナルティだってあるかもしれない。ランキング下位には罰ゲームとか。
さて、考えはこのくらいにしてガチャを回そう。
恒例の無料ガチャ。
ガタンッ
UC『麻雀セット』
現れたのは麻雀セット。それも一つではない。4セットだ。
椅子4つと机1つ。机の上には機械で麻雀ができる装置が取り付けられている。それが4セット。触ってみると動いた、これも電気毛布と同じ、謎のエネルギーで動いているのだろう。
しかし人生ゲームと違って麻雀は一人でできない。4セットもあるだけ無駄だ。
そして本日の目玉、ユニット確定コイン。
見た目は茶色のコイン。表にはデフォルメされた人が3人立っているマークが刻まれており、裏は人間の顔文字、それも笑顔が描かれている。
用語一覧
『ユニット』
ユーザーを支える生命体。あなたの命令に絶対服従。
つまり生き物が出てくるということ。
食糧事情が悪化するかもしれないが、視聴者を喜ばすため、そして現状を打開するため!
ガタンッ
C『ホムンクルス1ダース』
後ろを振り向くと彼らはいた。
美男美女の集団だった。
男6人、女6人。1ダース、つまり12人、人をダースで数えるな。
アルビノなのか肌や髪が白く、しかし瞳は真っ赤。端正な顔立ちで全員が瘦せていて、しかし男性は筋肉質で、女性は小柄だが出るとこはでている。
恰好はこれまた白く、マントやブーツ、そして洋風の白い服を着ている。ズボンだったりスカートだったり千差万別。
彼らは微動だにせず、俺をじっと見ている。
「あー、とりあえず自己紹介をしてくれ」
彼らはお互い困ったように目を交差させ、ジェスチャーをしてきた。口の前にバツマーク。
もしかして話せないの?ええ、嘘ーーーーー。
話せないが文字は読めるらしく、皆で説明書を見ながら麻雀をオールナイトで何時間も遊んだ。
7日ぶりのコミュニケーションは寂しさで苦しかった俺の心を癒した。
彼らは感情はあるらしく、表情にはほとんど出さないが楽しんでいた。
あと普通に強かった。なぜ一回目で負けた、俺は経験者で彼らは初心者なはずなのに。
用語一覧
『ランキング』
視聴者の投票によって決められる、どのユーザーが【編集済】となるか【編集済】ランキング。
一体なんのランキングなのか不明。しかし補償が貰えているということは俺はランキングの下位に位置しているのだろう。
『対応チーム』
ユーザーや視聴者の対応を行うチーム。
『麻雀セット』
椅子4つ机一つ機械式麻雀1つ、それが4セット。説明書付き。
謎のエネルギーにより稼働。自動計算機能付き。
リーチになると人を焦らすBGMがかかり、ロンやツモ、高得点の役をそろえると様々な演出が発生する。
国士無双の際はクラッカーが弾けスポットライトが充てられた。
『ホムンクルス1ダース』
白い肌、赤い瞳のホムンクルス、男女12名。
ホムンクルスは欧州の錬金術師パラケルススが作り出した人造生命体。しかし体は小さくフラスコから出ると死んでしまうらしい。
パラケルススのホムンクルスとは別物であると考えられる。
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