くたびれた錬金術師の俺、8年ぶりに再会した美少女聖女様と同棲を始める。甘々すぎてダメ人間にされそうだ。

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 くたびれた錬金術師

「はあ……終わらないな」


深夜、アメトリア商会の錬金術工房。

俺は冒険者ギルドから発注のあったポーションを作っていた。

納期が迫っていたが、急に同僚の錬金術師が退職してしまい、俺ひとりでやる羽目になった。

錬金術師になってまだ2年目の俺には、重すぎる業務だ。


「アルフォンス、大丈夫か?」


俺の錬金術の師匠、イスミ先生がエールを持ってきた。

長い黒髪のドレッドヘアが少々イカつい印象を与えるが、実はすごく優しい女性。

アメトリア商会では、俺の上司でもある。


「イスミ先生、まだ仕事中ですよ」

「勤務時間はとっくに過ぎてるだろう。酒を飲まんとやってられないよ」


イスミ先生は商会の錬金術師をまとめる≪術師長≫だ。

上に立つ者としていろいろ苦労があるみたいだ。

でも、さすがに職場でエールはマズイだろう。


「やっと書類仕事が終わってな。手伝うよ」

「ありがとうございます」


イスミ先生が手伝ってくれるなら有難い。

これで日の出前には帰れそうだ。


「なあ……アルフォンス。どうして私は結婚できないのだと思う?」

「え……?おっと!」


突然の答えにくい質問に、俺は思わずフラスコを落としそうになる。


「アルフォンス。私は本気で悩んでいる。こないだ王都で開かれたパーティーに言ったのだが、誰も私に花束をくれなかったのだ。どうしてだ?私のどこが悪い?」


最近、王都で未婚の男女を集めたお見合いパーティーが流行っている。

男女でお酒を飲んだり食事をしたりして、最後に交際したい人に花束を渡す。

どうやらイスミ先生は、誰からも花束をもらえなかったらしい。


「……うーん、男たちに見る目がないからじゃないですか?」

「そうだよな!私の周りにいい男がいないのが悪いのだ!」


本当は男も潰す酒豪であることと、ちょぴっりめんどくさい性格が災いしているんだと思う。

……が、上司にそんな本音を言えるわけもなく。


「アルフォンスは彼女いないのか?」

「いませんよ……そんなの」

「だよな。今のアルフォンスは、まるでくたびれたオッサンだ」


毎日、錬金術工房で深夜まで残業していたら、彼女なんて作る暇がない。

それに、俺はまだ25歳なのに「くたびれたオッサン」だとは……

まあ確かに疲れているけどさ。


「本当に彼女がいないのなら、私はどうだ?」

「……酔ってますね?」

「バレたか……よし!さっさと仕事を終わらせよう」


◇◇◇


「起きなさい!もうお昼よ!」

「ううん……か、母さん!」


昨日は結局、早朝に帰宅した。

なんとかポーション150個をギルドに納品できた。


「今日は来るって言ってたでしょ?」

「そうだった。ごめんごめん」


故郷の村から王都に上京してきた俺は、王都の東にある魔術師地区に住んでいる。

魔術師地区は、田舎から出てきた魔術師や錬金術師が住むエリアだ。

家賃が安く、市場に近くて、一人で暮らすにはピッタリの場所だ。

俺も魔術師地区の一角に部屋を借りていた。


「今日は大事な話があるのよ。アルフォンス、トリーシャちゃん覚えてる?」

「覚えてるよ。昔、一緒によく遊んだから」


トリーシャ・ホーエン。

故郷の村で、8年前に別れた年下の幼馴染だ。

俺とは9歳年が離れているから、今、16歳だ。


「トリーシャちゃんね、聖女に選ばれて王都に来ることになったの。それで来週、あんたに会いたいって」

「俺に?」

「そうなの。あんたにどうしても会いたいんだって」

「でも、どうして?」

「えーと、それは……ま、直接本人から聞いてあげて」


なぜか母さんはニヤニヤしていた。


「市場で買い物して帰るから、またね!」

「え?もう帰るの?まだ話が——」

「バイバイ!末永くお幸せにね!」


末永くお幸せにね——

いったいどういう意味だろう?


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