第29話 丸投げした


俺はやはり酷い人間だ。


怪我しているマリアとエルザの心配以上に『二人が俺の物』になってくれた。


それが嬉しい。


女の子が消えない傷を負って、一生おい続ける障害をおった。


それでもだ。


俺は彼女達には言えないが『外見は最低線で良い』


そういう人間だ。


これはあの日、頭が痛くなり、前世の記憶を思い出して、心からそう思うようになった。


前世での俺の最後はきっと寂しい物だった。


お金を稼ぎ、高級なマンションに住み、高級な家具で揃え、外車に乗っていたし、DCブランドのスーツに高級車を乗りましていた小金持ち。


そんな人間が、女を口説き倒して生活していた結果…最後に訪れたのは『孤独死』だった。


実に1000人を超える女を口説きやり続けた男の末路はそれだった。


俺は沢山の女と付き合い…抱いた。


ホスト並みに気遣い女を満足させていたが、その全ての付き合いは『薄っぺら』だった。


だから『体を許す』それ以上に俺を愛してくれた女は居なかった。


これは『俺の独りよがりで本当にモテていたわけでは無い』


本当にモテる奴は『人生を預ける』それを女からもぎ取った存在だ。


それに気がついた時はもう手遅れだった。


モデルを含み美女、美少女を抱き続けた俺が、最後に思い出した存在。


それは、美女達ではなく、小さい頃を一緒に過ごしたただの少女たちだった。


少女の姿以外に結婚して幸せになった彼女達の姿も思い出した。


なんて事は無い前の世界でも、この世界でも家族に恵まれなかった俺は結局『家族になってくれる存在』それが欲しかった。


それだけだ…


拗らせているが…多分、それが俺だ。


だから、俺には三人以上に大切に思える異性はいない。


後は、どうやって、この呪われた運命から逃げ出すか!


それだけだ。


『魔王と戦う勇者』


勇者パーティと言えばこの世界じゃ誉な事だが、実質は棺桶に片足を突っ込んだ状態だ。


『魔王を舐めちゃいけない』


魔王に勝てる存在など、恐らくは居ない。


確かに魔王の天敵は勇者だが、勝率は恐ろしく低い。


恐らく、天敵と言われながらも勝率は2割も無い。


これはあくまで『勇者』という大きな括りでの話だ。


ガイアだったら、多分もっと低い。


いや、マリアとエルザが負傷した今、連携も儘ならないから、限りなくゼロなのかも知れない。


どうした物か…まぁこれはすぐにどうこう出来ないな。


それより、今回のガイアの行動だ。


今回の全ての元凶は…恐らくエルフの秘薬だ。


◆◆◆


「どうだ?良かっただろう! あれならもう俺への想いは完全に消えた筈だ」


「確かにな! ただあれはやり過ぎだ。二人とも片手は使えないし、エルザに至ってはもう真面に歩く事も出来ない」


「馬鹿だな!それが目的なんだぜ! 彼奴らが使えなければ戦力の増強が出来るじゃねーか! これから先、欲しい存在に出会った時に『身請け』や『購入』が出来るじゃねーか! そう思わないか?」


欲望に忠実なのは解る。


だが、これは…


「確かに、その通りだが、 その戦力には今回手に入れたエルフやダークエルフは入っているのか?」


「いや、彼奴らは戦えない。だが、エルフには弓使いや精霊術の使い手がいるし、他にも戦力増強という話で幾らでも仲間が増やせるだろう」


「マリア達はどうするんだよ…」


「リヒト…お前が率いる別動隊で良いんじゃねーか? そうすれば宿も別に出来るし良い事づくめだ」


まさか、計算づくという事だったのか。


だが、ガイアから3人を完全に切り離せるのは良い事だ。


「そうだな、それで良い。だったら、教会に二人の怪我を報告して戦力外扱いにして、新たなメンバー募集。そういう報告で良いのか?」


これで後はリダをどうするかだな。


「任せるぜ!ただ、俺が暴力を振るったなんて報告はするなよ!」


そんな事流石に言えないな。


「そんな事は出来ないから、戦いで負傷した事にする」


「そうだな」


「それで、悪いがティア達3人と少し話をさせて貰って良いか?」


「なんでだ?」


「ガイアは勇者なんだぜ。色々とこれからの注意事項の説明だ。下の事情もあるしな時間はとらせないから頼むよ」


「それなら仕方ねーから良いぜ」


これで大まかな事情が解かるだろう。


◆◆◆


「ティア、ラクリア、ラルム、何か言いたい事があるんじゃないか?」


俺は笑顔で殺気を向けて話した。


俺だってそこそこの強者だ、殺気を向ければ怯むはずだ。


だが、相手は長い年月を生きるエルフ、さほど動揺していない。


「さて、何の事でしょうか? 私達は何もしていませんよ、ねぇラクリア、ラルム!」


「なにやら怒っているようですが、どうしたと言うのですか?」


「そうですよ!その顔怖いですよ」


まぁしらばっくれるよな。


「そうか、それなら良い。仕方ないから教会の『異端審問官』に依頼するから良いよ。悪かったな!なにもしていないなら大丈夫だよな? 内々に済ませたかったが仕方が無い」


「「「異端審問官」」」


勇者達を狂信する者が担当するから、まぁ恐らく殺されるな。


「どう考えてもガイアの様子が可笑しいし。この間は聖女であるマリア様や剣聖であるエルザ様に暴力を振るった。その結果二人はもう戦えなくなってしまったんだ。俺はこれを調査している。俺の推理では『エルフの秘薬』が関わっていると思っていたんだが、後は異端審問官に任せるとするよ…無実なら大丈夫だ。だが、もし原因が君達にあった場合は楽に死ねると思うなよ…それじゃ」


「待って下さい」


「楽に死ねない…」


「嘘でしょう…まさか拷問の上殺されるの…」


明らかに動揺している。


やはりな。


「待てとは?どう言う事だ!」


「「「実は…」」」


観念したのかポツリポツリと話し始めた。


どうやら『エルフの秘薬』は興奮剤で欲望に忠実になるそうだ。


「ほう、それで?」


「そんな事になるなんて思わなかったんです! 興奮させて、その私達に夢中にさせて、身請けして貰いたかった。それだけなんです!」


「本当にそれだけか? ティアはこう言っているが、絶対にこれだけじゃ無いよな? 今なら俺で留めるけど? 後から出てきたら大変な事になるぞ!」


「あの…実は…」


「ごめんなさい…」


秘薬だけしか使っていないそれは本当だが…それはかなり危ない物で『薬』を使いながら抱かれて、言葉を暗示の様に使う物だった。


『自分達しか愛せないようにする』とっておきの方法だったらしい。


だが、可笑しい。


ガイアは『この三人だけじゃなく他のエルフも欲しがっている』


「だが、それは可笑しい! ガイアは君達三人だけじゃなく他にもエルフを欲しがっているんだぞ」


「それが、どうやら不完全だったみたいで」


秘薬を使い、快感を与え、言葉による暗示で自分に夢中にさせる。


それが、彼女達が今回行っていた方法だが…彼女達の本を見ると虫食いだらけで、かなり欠落していた。


確かにこれじゃ上手くいかないのも解る。


「大昔の物で完全じゃ無かったみたいで…その…あっちもマグロ状態で自分からはありませんでした…」


失敗したそう言う事か?


しかし、異世界にも『マグロ』なんて言葉あるんだな。


「それならもう良いよ!俺は口外しない。ただ、これは全部君たちの責任だから、ガイアの事は頼んだ!暴走した時に宥めるのも、性的な事も全部責任もって行ってくれ。いいか、せ.き.に.んを持てよ! 暴走して表にでたら大変な事になるからな」


「「「解りました」」」


つけ込むようで悪いが、ガイアの事は3人に丸投げで良いよな。







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