第24話 勇者の要望 中編
さてと、今度は冒険者ギルドだな。
「デルモンド商会から押収したお金が届いていますか?」
「はい、届いております!こちらが目録になります!」
大した事無いな。
押収した金額が金貨7800枚(約7億8千万)
それに屋敷や金品や商品の価値が金貨2000枚(約2億円)
約10億円か、お金持ちと聞いたから100億とか持っているかと思っていたが…この世界だとこんな物か。
このお金はあくまで『差し押さえ』だから教会にお金を渡さなくちゃならない。
5パーセントの報酬については、あらかじめローアン大司教に話を通しておいたから問題は無い。
『商人と癒着している衛兵』前世で言うなら悪徳警官。
今の俺達にとっては必要な人材だ。
「それで、これを徴収してきた衛兵を呼んで貰えるかな?」
「依頼料は銀貨2枚になります」
この世界にはスマホが無い。
人を探したり呼んでもらうのにもお金が掛かる。
特定の衛兵を呼ぶのに詰所に行っても意味は無いからな。
「お願いします」
冒険者によって、すぐに衛兵は呼ばれてきた。
「これはリヒト殿、呼んで頂いたという事は褒賞の事ですか?」
此処に居る衛兵は10人余りだ。
代表して話をするという事は彼が纏め役なのだろう。
「勿論、そうだよ!約束の金貨490枚(約4千900万円)だ、分け方は任せるよ。これは正式な報奨金だから、こちらの書類にサインと受け取りサインをして欲しい」
「本当に貰えるのですか? 我々はてっきりあれは方便で…本当は罰があるのかと思っていました…」
そりゃそうだ『癒着』の現場を押さえられたのに、逆に褒賞が貰える。
普通に考えたら罠だ…そう思うよな。
「約束は約束だしな…それに君達にはお願いがあるから、今回はこんな形にしたんだ」
「これ程の報酬で我々に頼む事とは何かあるのですか」
「俺はこの街で『勇者パーティに羽を伸ばして貰おう』そう思っている…もし醜聞とかが広まりそうになったら、君達に手を打って貰おうと思ってね…」
「そう言う事ですか?」
「そう言う事だよ?話が早くて良いね…どうだ?!」
「ふぅ、現場を押さえられた我々に断れるわけないでしょう…お金なんて渡さなくても、命令すれば良かったのではないですか?」
「そんな事しても反感買うだけだろう? だったらしっかり甘い汁を吸って貰った方が良い…それに君達の事は今の書類を見て貰えば解るが教会関係者に連絡がいく…『聖女に無礼を働いた者』を断罪した人間としてな、名誉な事だろう?」
「教会に…」
「そうだよ…そうだ、君達に挨拶したいそうだ…俺がこれを持っているのは内緒にしてくれ」
『聖女の様の事、大義でした…これからもその気持ちを忘れずにいて下さい! このローアン感謝いたしますぞ』
「「「「「「「「「「なっ…ありがたき…」」」」」」」」」」
衛兵たちが何か言う前に水晶の通信は切れた。
ローアン大司教は聖教国のナンバー2だ。
そんな人間に感謝の言葉を掛けられたのだから、驚くよな。
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
この世界は一神教。
だから、下手な国王より権力はあるし尊敬もされている。
「君たちの手柄は大げさに伝えたから『教皇様』も知っている。これからも頑張ってくれよ」
此処迄すれば『何でもしてくれる悪徳警官』の完成だ。
こんな物で良いだろう。
◆◆◆
問題は此処からだ。
衛兵への報酬を受け渡したあと、俺はギルドの個室を借りて交渉する為に通信水晶を使った。
正直言って頭が痛い。
『おや、リヒト殿、またなにかご用意ですか?』
教皇でなくて良かった。
ローアン大司教だ。
『実は、ガイアが…その愛人を囲いたいと言われまして…』
『愛人ですか?良いですよ…その位の事なら私に相談なくリヒト殿の判断で構いませんよ。信頼していますからね』
『相手が普通の人間ならそうなのですが…相手が実は『エルフ』なんです』
『耳長ですか! それは困りましたね…』
エルフは人権は普通にあるが亜人扱い。
女神よりも精霊を信仰する彼女達を彼らは嫌っている。
如何に勇者と言えと、今回は難しいかもな。
『はい、困っております…ですがかなり入れ込んでおりまして最初は『側室』とまで言われたのですが、どうにか『愛人』の話にしました』
『それで、そのエルフの身元は、どんな女性なのでしょうか?』
『娼婦です』
『そうですか…今暫くお待ちください』
流石のローアン大司教も困るよな。
暫く待たされた。
『いま、教皇様と話がつきまして『愛人』でなく『物』として扱うように…という事です』
『物ですか?』
『はい、勇者が欲しがったから買い与える…ただそれだけです…要らなくなったら処分するように…以上です』
しかし、凄いな勇者絶対主義。
教会が嫌う亜人でも勇者相手なら認めるんだ。
尤も扱いは犬猫以下だが…まぁ良い。
ガイアが要らないと言ったらお金を渡し自由にしてやれば良い。
『処分』なのだから、その判断は俺で良いだろう。
『解りました』
取り敢えず、これでどうにかなるな。
俺はお金を降ろし、娼館に向かった。
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