第9話 勇者絶対主義者
宿に帰ってきた。
今頃ガイアはお楽しみ中だろう。
マリア達はエステを楽しんでいるだろうな…
ある意味純真なあいつ等に、こんな事をして良かったのか?
少し迷いはある。
だが『俺の気持ち』を他に置いておいても、一旦関係を壊してやるのが正しい気がした。
ガイアの様子を見ていると綺麗な女性に鼻を伸ばしている様子を良く目にする。
この世界、俺が生きた前世みたいにセクシーな恰好の女性も多い。
ミニスカを履いて太腿が良く見える冒険者。
セクシーな恰好の踊り子。
ガイアは胸より太腿やお尻が好きなのか、よくチラチラ見ている。
俺達の年齢は15歳前後…まだ若いとも取れるが、この世界では成人で農村部では結婚してヤリまくっていても可笑しくない。
都心部だと流石に少し事情は違うが、俺達が過ごした村の近くなら、そんな物だ。
村ではほとんどが農業や酪農などの仕事をしているから、跡取りが死活問題だから…まぁ夜は凄いな。
何しろ前世でいう『三年子無しは去れ』に近い考えもあるから、夜の営みは凄く激しい。
亡くなった俺の母親が俺を産んだのは16歳。
そう考えたら解ると思う。
『村で生活する』
それが前提なら、今のガイアで良い。
勇者パーティで無ければ複数婚は無理だから。マリア、リタ、エルザの中から1人を選んで結婚。
そして、子作りしながら畑を耕す生活。
それで人生は普通に終わりだ。
三人は『村限定なら美少女』だ。
村から出ない…それ限定なら。
『俺はキレイな嫁さん貰って幸せに暮らしました』
これは、幸せな生き方に違いないな。
だが、ガイアは勇者になって旅に出てしまった。
もう、この人生じゃ満足できない筈だ。
もし、勇者として魔王を倒したら…貴族の娘との婚約や場合によってはお姫様との結婚もありうる。
そうしたら、幼馴染の3人は、良くて側室、婚姻相手が嫉妬深ければ追い出されるだろう。
それを別にしても『田舎で幾ら可愛くても』言い方を変えれば都会じゃ普通だ。
美貌…それだけなら街で探すだけで三人以上に綺麗な子等山ほど居る。
『三人と同じ美貌』それだけで良いなら金貨10枚握りしめて奴隷商に行けば購入すら簡単だ。
中学でそこそこ可愛い子。
社会に出ればそれ以上に可愛い子は風俗にもキャバクラにも沢山居る。
更にその上、モデルや芸能人まで含めば尚更だ。
本当にガイアやマリア達がお互いに好きあっていて、築くハーレムなら『悲しいけど仕方が無い』
前世で言うなら『恋愛の敗者』として喜んで立ち去るよ。
だが、前世の記憶を取り戻した俺から見た4人は『そうは見えなかった』
だから俺は…畜生…なに考えているのか俺にも解んねーや。
◆◆◆
俺は通信水晶を使い連絡をする事にした。
ガイア達には話してないが、俺が教会や国との連絡役として、無理やり…いや渡された物だ。
個人的には凄く有難くない。
勇者に対して凄く過保護なロマーニ教皇やローアン大司教から、緊急時にしか使ってはいけない筈なのに何故か頻繁に連絡が来る。
この世界の宗教は女神イシュタスを中心にした一神教が主流で殆どの人間がこの宗教を信仰している。
尤もその中で細かく派閥が別れている。
今のロマーニ教皇やローアン大司教は『ナーロウ』という派閥で別名『勇者絶対主義』だ。
この派閥は凄く過激で簡単に言うなら『勇者は何をやっても許される』そういう考えに基づく。
これは大昔にいた名誉教皇ナーロウが、最悪の勇者と言われる存在の全てを許した事から始まった。
この名誉教皇は正に勇者という存在を盲愛していた。
『勇者は女神の使者であり、その生涯に置いて沢山の人間を救うのだから、何をしても許されるのだ…世界を救う存在が何をしようとそんな事は小さな事である』
それがナーロウの考え…勇者が人を殺しても、女を犯しても、物を奪っても全てを許した。
なかには勇者に靡かない女性が居た時には、恋人やその家族を殺し、精神まで壊して与えたという逸話もある。
尤も『そんな可笑しな勇者』は二度とは現れなかったから女神も何か考えたのかも知れない。
流石に当時ほどでは無くなった筈だが、その流れをくんでいる以上は勇者に甘い筈だ。
「どうかしたのかね! リヒト殿…勇者様絡みか! 早く…早く聞かせて欲しい!」
今日は教皇様でなくローアン大司教様のようだ。
俺は昨日の事について、これからの事についてローアン大司教に伝えた。
初めて通信水晶を使ったのだが…
『何を言われるか!そんな小さなお金、勇者様に使うなら幾ら使っても構いませんよ…ですが、教会からというと少し醜聞が気になりますね…そうですね、普通のお金とは別にこれからはリヒト殿のギルド口座をもう一つ作りまして、金貨1000枚(約1億円)入れておきましょう。その口座のお金は書類を作らずに勇者様達に使うなら自由に使っても構いません…目減りした分はすぐに入れますから常に1000枚ある状態を約束します…良いですか勇者様に尽くすのです、貴方が勇者様の為と言うのであれば、私も教皇様も幾らでも手を貸します…もし大きな問題が起きても免罪符片手に全て許される様にしますから、安心して下さい』
まじか?
これで昔に比べて薄まったのか?
充分、狂っている様な気がする。
宗教、怖っ。
『畏まりました…それで、そのお金は、その聖女様や賢者様、剣聖様には…』
『使って良い訳ないじゃないか? 聖女マリア様になら少しは良いですが、精々飲食に収めて下さい…賢者や剣聖は教会は知りません』
いや、飲食は通常のお金で賄えるだろう。
マリア達三人のお金は…ハァ~俺が稼いで出すしか無いんだな。
『畏まりました』
『良いですか? 勇者様絡みなら私も教皇様も苦労は惜しみません…何時でもご相談下さい』
そう話終えると通信水晶は切れた。
やっぱり…こんな環境じゃ、このハーレムパーティは成立しないな。
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