第38話:メタ・アースでの騒ぎ

「やっぱり、かなりの騒ぎになってますね」


 特別公務課専用スペースの一室。モニターに映る情報番組の様子を冬樹と美希は眺めていた。内容は霊力に関すること。実際に名前が使われているわけではないが、メタ・アースで人の周りにオーラのようなものが見えるようになった人が急増したと話題になっていた。


 いつもなら、少人数のため秘密裏に動くことで防ぐことができていたが、何千人という大量虐殺が起こってしまっては防ぎようもない。


「今日はおそらく、このニュースで持ちきりだろうな。政府がどう動くか見ものだな」

「そんなに余裕こいてていいんですか? 美希さんも色々と対応があるんでしょ?」

「私はただ命令に従って動くだけだから、楽なものさ。昨日散々怒られたのに、こうしてまた学校をサボっては湊にまた怒られるぞ」


「大丈夫大丈夫。今回はちっとばかり大きな騒ぎになっているから学校をばっくれたとしても湊なら許してくれるでしょ」

「どうだかな……」

「にしても、これからどうなるんでしょうね? メタ・アースで異能力が使えるとわかったら何人かの人間は大いに振るうんじゃないですか?」


「だろうな。それを阻止するために我々が存在する。頻度が増えるだけでやることは今までと変わらんよ」

「その頻度が問題な気がするけどな……」

「まーた冬樹はオサボリちゃんしてるね!」


 美希と冬樹が話していると後ろのドアが開き、陽気な少女が声をかける。


「金森、桐崎……」

「ヤッホー」


 冬樹が振り向くと先ほどの陽気な彼女が手を顔へと持っていき、挨拶する。

 金髪ロングに赤色の瞳が光る。豊満な胸に、肉付きのいい桃が特徴的な彼女だ。金森 渚(かなもり なぎさ)。警視庁特別公務課のメンバーの一人だ。


「お久しぶりです」

 

 渚の横にいる少女がペコリと頭を下げる。焦げ茶のショートボブ。紫色の瞳が小さく光る。高校生にしては平均的なカップ数だが、横にいる渚のせいで小さく見える。全体的に華奢な容貌の持ち主だ。桐崎 玲奈(きりさき れいな)。彼女もまた警視庁特別公務課のメンバーの一人である。


「二人揃って一体何の用?」

「ちょっとまずい情報が入ってきたので、美希さんに報告をと思ってね」


 渚はそう言うと、パブリックレイヤーを表示する。


「情報を仕入れたのは私です。友人から不気味なサイトを検出したとのことで連絡を受けました」

「ちょいちょーい、いちいち詳細な内容伝えなくていいから」

「渚はいつも自分の手柄のように取り扱うので、正確に情報を伝えたまでですよ」


「ちぇー、玲奈のケチー」

「ケチじゃありません」

「それで、まずい情報とは何のことだ?」

「おっと、取り乱し失礼。これです!」


 渚は二人に近づいていくとパブリックレイヤーの画面を掲示した。二人は画面を覗く。

 

「オープンチャットか」

 

 オープンチャット。

 匿名性でやりとりを行うことができるチャットだ。互いに相手の情報を知らずにやりとりを行うことができるため、悪用されやすいものとなっている。

 

 冬樹と美希はチャットの内容に目を通す。

 一番最初の投稿のみがあり、それ以外の投稿はなかった。内容は以下のように書かれていた。


『ようこそ 再生者の皆さん

 

 皆さんはメタ・アースで霊力と呼ばれる力を手にしました。おそらく、今は自分の体周りに色のついた物が見えるのではないでしょうか。それこそが霊力です。霊力は使い方次第で相手を殺傷することができます。


 そこで皆さんに朗報のお知らせがあります。

 霊力を使い、一般人を一人殺すことで賞金100万円をプレゼント。動画を撮影しながら、相手を殺し、それを証拠として差し出せば賞金が得られます。


 皆さんからの動画を楽しみにしております』


「なるほど。再生者を増やすためには一番手っ取り早い方法だな。おそらく、昨日の大量虐殺の被害にあった全員に、このメッセージが行きあたっているに違いない」


 オープンチャットには何千人という人数が参加しており、大量虐殺の被害者数とほぼ一致していた。


「このアカウントの持ち主は?」

「残念ながら特定にはいたれず。勧誘の遭った人たちの特定はできますけど、数が多すぎてキリありません」

「現実的に考えて、もし罪に問われた場合の罰則には釣り合わない金額だな。メタ・アースとはいえ、殺人は立派な罪に問われる」


「でも、それはあくまで現実的に考えてですよね?」

「ああ。おそらくはこの中の数百人くらいはやるだろうな。実際に死ぬわけではないと言うのがハードルを低くしている。それに数千人もいれば、自分がやってもバレないだろうという愚かな思考の持ち主は一定数見られるだろう。メタ・アースのセキュリティを甘くみすぎている」

「問題はその数百人がまた大量に虐殺を測った場合、より加害者が増える可能性があると言うことですね」


「おそらく敵の目的は国中の人間を全て再生者にしようということだろう」

「一体何のために?」

「さあ。私は敵ではないからわからん。分かることといえば、これからメタ・アースは未曾有の危機に立たされると言うことくらいだ」


「相当面倒くさい事態になることは免れませんね」

「はあー。これからはしばらく学校に行けそうにありませんね」

「お前はいつも言ってないだろ」

「いつもではないですよ」


「とりあえず、お前たち三人は騒ぎが発生するまで準備をしておけ。いつでも出られるようにな」

「「「了解」」」


 美希はポケットから飴を取り出すと白い棒を掴み、口に入れる。苦しい世界のため、せめても口の中だけは甘くしておきたかった。

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