第3話

 5月上旬の転校。高校二年とすでに1ヶ月の固まった環境に加わるのはいささか緊張する。


 わけではなく、初配信に緊張していた。


 先生に呼ばれるのを待って、廊下で立ちながら胸を手で押さえる。


 誰も見てくれなかったらどうしよう。うまくいかなかったらどうしよう。いや、くよくよしていても始まらない。


 配信開始だ。


 人がくるまで少し待って、ええ!? 視聴者数34人!? 昨日の34倍!


 初配信でこれは多い方では、じゃなくて、早く喋らないと。


「あー、おはようございます。今から転校の挨拶が始まります」


 <きたw

 <きた草

 <おはよう。本当にか、草


 小声で話したけれど、聞こえてるみたい。マイクはいい感じに調節してくれるみたいだな。


 でもそれより。


「え、何で笑ってるんですか?」


 <何でもないよ、いい感じのアクセサリー見つかった?


「ああ、はい。鍵穴があるブローチです。使用の形跡があるので、もう片方があると思われます」


 <wwwwww

 <草

 <わろける

 <いくらだった?


 何で笑っているかわからないが、質問に答えよう。


「リサイクルショップで54円でした」


 <ごみじゃんw

 <やっすw

 <ちゃんと思い出がある風に見せるんだぞ?


「ああ、はい勿論……と先生に呼ばれたので、行ってきますね。これからはコメント見てる余裕ないかもしれないので、レスポンスは期待しないでください」


 <いてらw

 <死んでこい

 <俺まで恥ずかしくなってきた


 何だろう、このノリ。でも楽しんでくれてるならいいか。


「それでは花ノ木くん、挨拶をしてください」


 先生にそう言われたので、俺は一旦窓の外を見る。


 <『懐かしいなあ、この風景』って顔してるwwwwwwww

 <なお、縁もゆかりもありません

 <やばいやつで草


「はじめまして。花ノ木日翔といいます。もしかしたら、はじめまして、ではないかもしれませんね」


 <昔この町にいた感出してるけど、100%はじめましてで草

 <この人、詳しく聞かれたらどう答えるんだろ?

 <恥ずかしくて俺の顔が熱いんだけど


「あ。ブローチが」


 <わざとらしく落としてて草

 <頑張って見せようとしてて泣ける


 これで見てもらえたかな。大切そうに拾い上げて、と。


 <昨日買った54円を大切そうにしてて草

 <馬鹿すぎwww


 よし。一応コメント通りの事は全部やった。これで、ヒロインが現れてくれるはず。


 と周りを見てみると、しらーっとしている。


「あの、よろしくお願いします」


 ぱちぱちと微かな拍手に送られて、先生に指示された席に向かう。


 <ものすごいしらけてて草

 <反応ゼロが当たり前すぎてわろた

 <何人かこんなやついたっけって顔してるもじわる


 ああうん。さすがに俺も馬鹿じゃない。ワンチャンにかけてやってたけど、途中からさすがに察してた。


 多分だけど、これ、幼馴染みがいる人がやるやつだ。アクセサリーも、片割れをその子が持っているということだろう。


 コメントの空気もわかった。幼馴染みがいないのに、いる風な行動してるのを見れば、俺だって指差して腹抱える。


 <感想は?


 声を出すわけにはいかないので、ノートに書く。


『超恥ずかしい。これ多分、幼馴染みがいる人のやつでしょ』


 <wwwwwwwwwwww

 <大草原

 <気づいちゃってて草


 泣きたい。


 <これは幼馴染みがいる主人公の定番なんだよなあ

 <昔いた街に帰ってきた主人公が、二つで一つの思い出のアクセサリーを見て、初恋の幼馴染みだと気づくってやつ

 <あるあるネタだよなあ


 そんなの、ラブコメなんて読まないから知らんよ……。


 って、え? 肩を叩かれたんだけど?


 見ると、隣の席の女子だった。


 <はぁ!? 美少女すぎんか!?

 <胸Dはあるぞ! えっど!

 <黒髪外はねボブかわええ

 <100年に一度ってレベルじゃねえぞ!

 <健康的な感じがいい! 青春キラキラ感すご!


 コメント欄が盛り上がってる。やっぱこの世界の美少女、美少女だよなあ。


「ねえ」


「あ、うん、何?」


「休み時間、ちょっと時間くれないかな? そのアクセサリーについて話があって」


 何でそんなこと言うんだ? アクセサリーについて、ってこれ、昨日54円で買ったやつだぞ? 


「ダメかな?」


「あぁ、全然いいよ」


 隣の席の女子は微笑んで前を向いた。


 <待って

 <これってもしかして?

 <本当は幼馴染みがいたのか?

 <騙したな!


 心外なので、俺はノートに新たに書く。


『騙してない。本気で知らない』


 <じゃあどういうこと?

 <もしかして、人間違えしてるんじゃあ

 <つまり、花ノ木くんを幼馴染みと誤解してる?


 え、マジ? 俺を幼馴染みと誤解してるの?


 でもだとしたら。


『だったら、物凄く気まずい』


 <wwwww

 <顔あっつくなってきて草

 <盛り上がってきたーーー!


 コメント欄の盛り上がりと反対に、俺は内心どうしようと頭を抱えた。


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