神の御力2

「くそ! なんて新型を作りやがった!」


 ラナリーザのパイロットが悪態を吐くが、微妙な勘違いが含まれていた。


 サプライズによる炎の嵐。メンテーナースの速度と火力。デュエルトの射撃無効。


 これはギリギリ常識の範囲で判断できる。初見でサプライズが吐き出す炎は弾丸のように見えるし、メンテナースは機体性能が途轍もなく高性能、デュエルトも特殊な装甲を用いていると思うだろう。


 そのためラナリーザ連邦のパイロット達はキラドウを神器搭載機ではなく、あくまで通常のガランドウの延長上で考えてしまった。


 だが続く三機も出鱈目だった。


「仕掛ける!」


 アリシアの言葉と共に騎士甲冑をそのまま機動兵器にしたかのような機体、


「デコイ!?」


「ホログラムか!?」


「こんな高精度の!?」


 一瞬で現れた他の七機のエイトナイトを見たラナリーザ連邦のパイロット達は、空間に投影されたホログラムによるデコイだと判断した。


 大きな間違いである。


 しかし、仕方のない間違いだ。


「だがなんだこの武器!? 弓だって!?」


「メイス!?」


「槍ぃ!?」


 その上でラナリーザ連邦のパイロットに驚愕を与えたのが、八機のエイトナイトの装備だ。


 片手剣と盾、両手剣、槍、メイス、斧、ハルバード、弓、弩。


 剣ならまだかろうじて分かるが、他の武器は機動兵器が持つ物とは思えない。そんな獲物を持ったエイトナイトが敵機に突撃を仕掛けた。


「コケ脅しのホログラムが! あ?」


 それを単なるホログラムだと判断した者が最後に見た光景は、弾丸よりも速く飛来した弓矢が、コックピットを貫通した瞬間だった。


「あれが本体だ!」


「ホログラムは無視しろ!」


 弓矢が弾丸よりも速いことは一旦置いておくと、当たったということはそれが実体を持つ機体ということになる。だから複数のジャストウォーが、弓矢を持つエイトナイトに迫りながら他のエイトナイトは無視した。


「え?」


 それが間違いなのだ。


 また別のパイロットが最後に見た光景は、メイスなどという古典武器がコックピットを粉砕しながら、中身である自らを圧し潰す直前の光景だった。


 そして別のパイロットは剣で、長剣で、槍で、斧で、ハルバードで、弩で撃ち取られていく。


「ホログラムじゃない!?」


「じゃあ他の機体はどこから出てきたんだ!?」


 正解が導き出された。


 一機で八機。それがエイトナイト。勿論能力はそれだけではないが、まず八倍の戦力を供給してくれる神器、八騎士の鎧の力であった。


 その間に、青き魔導士が力を溜め終わった。


「は?」


「空間ディスプレイ?」


 ポカンとした声を発したのはラナリーザ連邦側だけではなく、それを見ていたマルガ共和国側もである。


 青いマントを頭からすっぽり被っている機体、ブルーマジックの前に浮かぶ三十メートルはあろうかという円。それはまるで魔法陣のように複雑な文字が光り輝き、幾人かは空間投影されたディスプレイのようなものかと錯覚した。


 しかし……言葉通りだ。


「ぶっ飛べ!」


 ブルーマジックのパイロット、ヘレナの声と共に円から目が潰れかねないほどの光と共に横に特大の雷が奔り、複数のジャストウォーだけではなく、前線で砲撃をしていた駆逐艦までもが火球となる。


 言葉通り魔法陣なのだ。


「なにがあったあぁ!?」


「ビームではありません!」


「エネルギーの分類不明! 敵の新兵器です!」


「解析機が反応しません!」


 火球となった駆逐艦の隣にいた艦は、その攻撃の種類が分からず大混乱に陥りながらなんとか原因を突き止めようとした。しかし、魔法などという訳の分からない攻撃なのだから、初見で正解を導き出せるはずがない。


 これこそが装備した者に魔法の力を与える神器、青き絨毯を装備したブルーマジックの力だった。


「とっとと死んでください」


 ケイティが愛機であるステルスミラーの力を稼働させる。名は欺瞞工作だ。ステルスミラーにレーダーを誤魔化したり、ましてや透明化する力は今現在ない。


 その力とは。


「行け」


 黒い鏡を隙間なく纏ったかのようなステルスミラーの周りで、同じような黒い鏡片が十個ほど現れると、その鏡片……とはいっても一つ一つが五メートルはあるが、とにかく先が鋭く尖った鏡片がジャストウォーに突進する。


「今度はなんだ!?」


 次から次へと訳の分からないことが起こっているジャストウォーのパイロットは、高速で飛来する鏡片を避けるため回避運動を行った。


「ミサイルか!?」


「フレアを使え!」


 だが鏡片は回避しようとするジャストダイバーを追い続けたため、パイロット達はミサイルの類と思いフレアを放って熱赤外線を誤魔化そうとした。


「くそがあああああああああ!」


 行動も無駄であり断末魔も無駄であった。


 鏡片はフレアの熱ではなく、しっかりとジャスウォーを捉えて離さずコックピットに突っ込み、パイロットごと貫通して再び空を舞う。


「新型のミサイルだ!」


 またしてもジャストウォーのパイロット達の間で誤認が起こる。


 ステルスミラーが装備している神器、鏡の弾丸はケイティの認識している敵に突撃する凶器である。しかも原理不明な推進力で動き、単純な推進装置のミサイルに比べて運動性が段違いで自由自在な機動を行う。


 つまり、なぜかケイティの認識に応じて攻撃する思念誘導兵器とでもいうべき兵装であり、フレアやジャミングなどに防がれない代物である。


 そんなものが十も戦場を飛び回り、次々とジャストウォーを貫いていく。


 あまりにも酷すぎる初見殺しのオンパレードと冗談のような性能。


 六機のキラドウは戦場を蹂躙していった。


「閣下! 約四十機が墜とされました!」


「そ、そ、そんな馬鹿な話があるか!」


 まだ両軍が肩慣らしの筈の段階で四十機もの損害が発生したことに、ラナリーザ連邦の指揮官であるミラーは真っ青な顔で叫んだ。


 だが現実は否定しようがない。


「敵部隊来ます!」


「迎撃しろおおおおおおお!」


 六つの星を従えた凶星が、一直線にミラーの搭乗艦である旗艦に襲来することは。


「死ね!」


「仕留める!」


「はあ」


 キャロルとアリシアが吠え、ケイティが面倒そうに溜息を吐く。


 特にジャックがなにかを言うこともなく、対複数戦を念頭に作られたサプライズ、エイトナイト、ステルスミラーが旗艦の直掩機に攻撃を仕掛けた。


「エンジンを潰します」


「……」


「もういっぱぁつ!」


 その隙間を縫うようにメンテナースが旗艦の裏に回り込みエンジン部分を攻撃。デュエルトはブルーマジックの大出力魔法と共に突っ込んだ。


「そ、そん!?」


 ミラーが最後に見た光景は、彼のいるブリッジを手刀で貫こうとしているデュエルトの手と、その後ろで、子の狩りを見守る親のように佇むブラックジョークの姿であった。


「き、旗艦が墜落します!」


「そんなことは分かっている!」


 その様子を見ていたラナリーザ連邦軍が混乱した。


 ブリッジを潰された程度で戦艦は堕ちないが、最弱点部分と言えるエンジン部分の誘爆と魔法による爆発が合わさったこと、艦内の指揮系統が完全に麻痺したことで旗艦は効果的な対処ができず、爆炎を上げながら地表に墜落していく。


 そして次の順位の者が指揮を引き継げと簡単に言うなかれ。戦闘の真っ最中に頭がいない状況で指揮権を引き継ぐには簡単ではない。どうしても混乱が巻き起こる。


「上位の戦艦を優先して叩く。指揮系統を引き継がせるな」


 それを見逃すジャックではない。


 戦場で再び七つに輝く推進装置の輝き。


 なんとか頭を生やそうとした軍という名のヒュドラはその途端に叩き潰されてしまい、軍全体が混乱して……壊滅した。



 ◆

 後書き

 タイトル変えようと思ってます。月末に後書きに掲載します。

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