女子会

 ある日の晩、綺羅星達が部屋に集まっていた。


「第一回綺羅星女子会を始めまーす! いえーい!」


 クラッカーがあれば鳴らしていたであろうテンションのキャロルが、伸ばし始めた金の髪を揺らしながら宣言するには、綺羅星の女子会が行われるらしい。


「女子会って……えっと、なにをするんでしょうか?」


「知らん」


 ミラは戸惑ったような表情を浮かべながら、隣に座るヴァレリーに助けを求めたが、その答えは素っ気ないものだ。


「待てよ? 私はゼロゼロフォーだったんだから、ワンのキャロル、ツーのミラ、スリーのヴァレリーは姉という概念? 姉さんと呼んだ方がいいと思うか?」


「好きにすればいいじゃない」


「どうぞご勝手に」


 一方、全く女子会と関係ない疑問を覚えたアリシアも、真面目な表情でヘレナとケイティに問いかけたが、ぶっきらぼうな返事と興味なさそうな返事しか返ってこなかった。


「じゃあファイブのヘレナとシックスのケイティは私の妹という概念だな。今からアリシア姉さんと呼んでくれ」


「ちょっと! それは違うでしょうが!」


「嫌です」


 だが続けられたアリシアの言葉にヘレナは思いっきり顔を顰め、ケイティはああもう面倒くさいと言わんばかりに首を横に倒して拒否した。


「ぶー! 皆ノリわるーい! キャロルお姉ちゃんは悲しー!」


 キャロルは誰も取り合ってくれないことに憤慨して、口を膨らませながら抗議したが、アリシアの姉妹論は聞いていたらしく、ゼロゼロワンとして姉を名乗った。


「ちゃっかり姉を主張すんじゃないわよ!」


「えーんミラー。ヘレナが怒ったー」


「よ、よしよし?」


 憤慨していたのはどんどんと姉が増えるヘレナも同じだったらしく、短い青髪が怒りで逆立っているようだ。そんな彼女の抗議を受けたキャロルはミラに抱き着いたものの、困惑しているミラはどうすればいいか分からず、とりあえずキャロルの頭を撫でることにした。


「バカしかいないと思いませんかヴァレリー」


「そうだな末っ子」


「よーしその喧嘩買いました」


 あきれ果てたジト目で姉妹を見ていたケイティは、自分と同じく冷静沈着の様子を見せていたヴァレリーに同意を求めたが、まさかの裏切りに口元をへの字に歪めてしまう。


「えっへんえっへん。第一回の女子会の議題はジャック隊長のことに関して!」


「それを早く言え」


 キャロルがわざとらしい咳払いをして女子会とやらの議題を口にすると、目を瞑って寝ようとしたヴァレリーの瞼が持ち上がった。


「ねえねえヴァレリー。思ったんだけどなんて呼べばいいんだろ? やっぱり普通にジャック隊長? それとも隊長?」


「それを自分で決めるのも我々の個性の範疇だろう。キャロルが決めた呼び方をすればいいはずだ」


「確かに! つまりダーリンもありなんだね!」


「まあ……プライベートでならいいんじゃないか?」


 ジャックの呼び方について悩んでいたキャロルは、ヴァレリーのお墨付きでとんでもない呼称を思いつく。だがどこか呆れているヴァレリーも完全にそれを否定しない。


「キャロル達にいっちばん大事な物をくれたってことはそういうことだもんね!」


 そして続けられたキャロルの言葉には全員が頷いた。


 かつての彼女達にあったのは番号だけ。


 だが今や名の意味、祈りと願いの他に、知られざる感性で最も大事な物を感じ取っているのだ。その原因ともいえるジャックへのある意味執着は尋常でない。異常だ。


「夢っていうのでダーリンがいたから、一日ダーリンのことを考えたことになる!」


 キャロルが笑顔だ。


「あ、私もです」


 ミラもにこやかだ。


「トイレにシャワー、食事中と夢。ふむ。確かに一日中だ」


 ヴァレリーが頷く。


「私も姉さんたちと同じです」


 アリシアが平然と口にする。


「姉呼び続けるんかい」


 ヘレナは肯定しなかった。否定もしなかったが。


「まあ私もですが」


 少し捻くれた言動をしていたケイティすら頷く。


 彼女達しか知らないことだが、綺羅星はジャック以外の人間をはっきり認識していない。それは研究員にすらそうで、この人間は多分専用機専属、こっちは恐らく自分達の専属といった有様だ。


 だがこれがジャックなら全く話が変わる。彼が遠くにいても綺羅星は見間違わないし、その声を聞き逃すこともない。なにせ丸一日中、常にジャックのことを考えているのだから。


「ところで笑顔は問題ない?」


 キャロルが笑顔だ。


「はい。私はどうですか?」


 ミラもにこやかだ。


「問題ないと思われる」


 ヴァレリーが頷く。


「上手くできている表情でしょう」


 アリシアが平然と口にする。


「資料と同じような顔です」


 ヘレナは肯定しなかった。否定もしなかったが。


「全員問題ないと思われます」


 少し捻くれた言動をしていたケイティすら頷く。


 人によっては恐怖を覚えるやり取りが交わされていたが、それでも以前に述べた通り、彼女達が成長しているのは間違いなかった。


 なにせ、執着という感情を抱いているのだから。


「じゃあ次はダーリンの趣味を調査した結果報告ー! ……どうもなさそう」」


 キャロルの声と共に夜が更ける。


 それを人間達は知らなかった。

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