第52話 雑なあやし方

 「ああ、もう寝ちゃった」


 「お前ら、起こすんじゃねえぞ」


 二人をリビングに残し、陽菜の所に行く。


 「おい、終わったから手伝う」


 「え、ああ、うん。ありがとう」


 二人で台所に立ち料理をする。


 「仁は料理が上手くなってきたね。手伝ってくれるからかな」


 「馬鹿野郎。そんなことねえよ。ただ俺は、お前が悠人の世話、頑張ってんの知ってるから、俺が出来ることしてやっても良いかと思ってな」


 陽菜は俺の言葉に嬉しそうに頷いた。


 「いつも悪いな。たいしたことをしてやれなくて。俺が学歴ねえからそんなに金持って来れねえし」


 「陽菜は、仁と悠くんが居るだけで幸せだよ。お金が足りないとは思ったことないし、仁がお休みの時は、何処かに連れて行って貰えてるし」


 陽菜とそんな会話をしていると後ろから視線を感じた。振り向くと巧と晴が見ている。


 「何見てんだよ」


 「いや、別に。仁も陽菜ちゃんとならそんな顔すんだなって」


 巧と晴が笑う。


 「うぜえな、見てんじゃねえし。陽菜の昼飯、食わせねえぞ」


 「見んのやめますよ。晴、大人しく待ってようぜ」


 本当に、この二人は良い奴なんだが少し行動がうるさい。


 三十分後、料理を作り終わり机に並べる。そして食べ始め、悠人が泣き始めた。


 「どうしたんだろ」


 陽菜が立ち上がり俺はそれを止める。


 「良い、俺が行く。おい、どうした。何か臭えな」


 悠人を抱き上げ寝室に連れて行き、汚れているものを取り替えて戻る。


 「ほら寝ろ、さっさと寝ろ」


 「陽菜ちゃん、あんなあやし方で良いの?」


 巧の後に晴は、僕は好きだなと笑っている。


 「良いんです。どれだけ雑でもやってくれるって事に意味があると思うから。それに陽菜も、晴さんと同じで好きなんです。ああやって仁があやしているところ見るのが」


 「寝たか、寝たのか。よし、寝たな。起きんじゃねえぞ」


 悠人を寝かしつけ、椅子に腰掛けて昼食を食べていくと巧が少し不安そうに見てきた。


 「仁、お前さ。悠人くんあやす時ぐらい、もうちょっとなんとかなんねえのかよ」


 「なんとかってなんだよ」


 巧は腕を組み、うなり始める。


 「だからさ、悠人くんのあやし方が雑なんだよな。もっと、こう」


 「仕方ねえだろ。餓鬼のあやし方なんか知らねえんだよ。知らねえなりにやってんだから黙っとけ」


 巧はまだ何かを言いたそうな顔をしている。


 「悠人くんが話すようになった時が心配だな。お前がそんなんじゃ」


 「別に俺も陽菜もそれは心配してねえよ。男なんだから、弱々しいよりましだろ」


 巧は、まあ、それもそうかと半ば強引に納得していた。


 「でも、悠人くんって、顔はどちらかというと全面的にお母さん似だよね。将来、男の人にもてそう」


 「いやいや、晴みたいに年上からもてるかもしんないぞ。ま、仁みたいに三つも年下を食うような人間にはならねえだろうな」


 二人の会話を聞いて改めて悠人の方を見る。ここからでは顔までは見られないが、確かに陽菜に似てるなと思った。


 「良かったな、陽菜」


 「ええ、良いのかな。陽菜に似て」


 陽菜は困惑している。


 「良いに決まってんだろ。俺なんかに似るより陽菜に似た方が良い」


 「性格は無理だと思う」


 晴が口を籠もらせるように言った。


 「うっせえ。性格は良いんだよ。確かにちょっとはやべえと思ってはいるけど、弱いよりは良い」


 「じゃあ、僕、悠人くんがもう少し大きくなったら、じんじんの武勇伝聞かせてあげようっと」


 晴の後に俺も混ざると巧が続く。


 「武勇伝なんかねえし。余計なこと教えんじゃねえぞ」


 「仁の、武勇伝なら陽菜も知ってるよ。仁は、命がけで陽菜と悠くんをお母さんから守ってくれたり、助けてくれたりしてくれたもん」


 何だ、この空気は。恥ずかしくなってきた。早く二人を帰してしまおう。


 「陽菜までやめろ。俺はたいした事してねえ普通の人間だ。むしろ、底辺に近い人間だ。ご馳走さん。お前らも食い終わったろ。帰れ」


 二人を立たせて玄関に連れて行く。


 「もう来んなよ。お前らが来るとろくな事言わねえから」


 「そんな、じんじん酷いよう。陽菜ちゃん、悠人くん、また来るからね。ばいばい」


 二人を追い出し扉を閉めると溜息をつく。


 「仁、良かったの。二人を追い出しちゃって」


 「良いんだよ。お前も聞いただろ。懲りもせずまた来るって。たく、面倒くせえ奴ら」


 そう言いつつも巧と晴には色々と感謝している。本人達には死んでも言わないけど、二人がいなければきっと俺はこの世に居ないだろう。大勢と喧嘩になった時も、巧と晴が一緒に戦ってくれたから何とか勝てた。暴言吐くし、すぐに喧嘩になる俺みたいなどうしようもない人間と、いつまでも友達として接してくれている。本当に、心の広い奴らだ。


ー続くー

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