第50話 相談
そんなある日の夜勤終わり、晴に誘われて巧が待つファミレスに向かった。
「よう、怪我人。具合はどうだ」
「怪我人言うな。もう良くなってるっつうの」
席に着き、珈琲を頼む。
「そんで、何だよ」
「いんや、何って事はねえんだけどさ。仁は結婚して良かったか」
突然の巧の問いに、晴がそりゃ良いに決まってるよね。あんな可愛いお嫁さんだもんと言った。
「まあ、そうなんだろうけどよ。聞いてみたくなってな」
巧は煙草に火を付け吸い始める。
「結婚して良かったかは、まあ、そうだな。良かったっちゃあ良かったかな」
「何でそんなに曖昧なの、じんじん」
晴が少し不思議そうに聞いてくる。
「だってさ、陽菜は元々家族みたいなもんだったし。俺にとっては居て当たり前だし、今更居ない生活とか考えられねえし」
陽菜は義理の妹だったから居て当たり前だと思っていた。付き合ったのも、結婚したのも、悪い言い方をすると延長線上みたいなもので。お互いに意識してしまうのも、大切だと思うのも、結婚も全て元からそうなるように決まっていたのかもしれない。
「そうか、そうだよな。仁の意見じゃ参考にならねえか。はあ、晴。お前、早く結婚しろよ。美咲ちゃんとはまだ続いてんだろ」
「何さ、突然。僕の所も特殊だから結婚は見込みなさそうだよ。相変わらずみいちゃんは僕以外ともするし、一人に決めるなんて無理なんだよ」
晴は少し寂しそうに笑う。
「何だよ、じゃあ、幸せなのは仁だけか。羨ましいぜ、くそう、この既婚者が」
巧は大きく溜息をつく。
何だ、この空気は。
「何かあったのかよ」
「ああ、やっと聞いてくれた。あのさ、奈々がな、結婚してえって言い出して。俺だってしたいとは思ってるけど、今じゃねえなって。貯金もそんな貯まってねえし、結婚式資金だってねえし、指輪買うぐらいしか金ねえし。結婚したら奈々は仕事辞めるとか言い出すし」
煙草を吸い終わった巧は灰皿に入れると、また新しいものを吸い始めた。
「面倒くせえ奴だな。そんなの、奈々の言う通りにしときゃあ良いだろうよ。俺だって、陽菜と結婚した時はそんなに貯金無かったぞ。むしろ、入る金より、出て行く金の方が掛かるからな。というか、中退の俺なんかより、大卒のお前の方が良い金貰ってんだろ。それなのに、けちけちしてんじゃねえよ。結婚式だって、安くしようと思えば出来るだろうし、その時に絶対しなくちゃいけないってもんじゃねえだろ。籍だけ入れて後からしたって問題ねえんだからよ」
「きゃあ、じんじん、男らしい。ねえ、じんじん。僕にもなんか言って」
巧は俺の言葉に、それもそうだけどよと言ってまだ悩んでいる。
「はあ、まじで面倒くせえな。人の相談に乗るなんて柄じゃねえんだよ。晴は美咲とどうなりてえんだ」
「そう言いつつも乗ってくれるじんじん、僕大好き。うんと、僕はね、美咲ちゃんを独り占めしたくなっちゃったんだ。だけどね、さっきも言った通り、美咲ちゃんは僕一人じゃ満足しないから、悩んでるの。このまま僕の物にならないなら、諦めた方が良いかなって」
確かに美咲の性格が変わらない限りは結婚には向かないだろうな。結婚しても結局、浮気する。わかりきっていることだ。
「美咲の性格を全て受け入れて結婚を申し込むか、それが嫌なら別れちまえ。このまま見込みねえのに付き合ってても時間の無駄だろ」
「受け入れるか。僕にそれが出来るかな。独り占めしたいけど」
今までだってそれをしてきたわけだから、出来るだろうなと思った。
「なら、体はともかく、中身を掴んどけよ。中身つかんときゃ、そのうち美咲もお前が相手で良かったって思うかもしれねえだろうが。それに、外にどれだけ男を作っても最終的にはお前の元に戻ってくんじゃね」
「ううん、確かにそうかも。流石じんじん。何か既婚者は言うことが違うな」
晴は納得したようで、そうしてみると続けた。
「なあ、仁。俺はまだ終わってねえんだけど。何でこうも女と男の結婚観って違うんだろうな」
「うぜえ。もういい加減うぜえわ。自分で解決しろよ。俺に頼るな」
巧は、そんな、ここの会計出すから乗ってくれよと頼み込んできた。
「ああもう、本当にうぜえ。おい、巧。今奈々は仕事中か」
「違う、今は家に居ると思うけど」
巧の言葉を聞いて、携帯貸せというと巧が取りだした携帯を奪い取り、奈々に電話をかける。
ー続くー
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