第48話 決別 no.2
「こいつ、携帯持ってねえんですか」
俺が持っていた鞄を開けると携帯を取り出し履歴をあさり始めた。
「やめろ、勝手に、触ってんじゃねえぞ」
「あ、あった」
携帯を元義母の所に渡した。
「おびき寄せるか」
「そうね、今ならあの子も来ると思うわ。この子が一緒ですもの」
元義母は陽菜に電話をかけ始めた。
「陽菜、久しぶりね。お母さんよ。今ね、仁くんと一緒に居るの。貴方も来なさい。そうね、どうせなら声を聞かせてあげるわ」
携帯を持って俺の元に来る。
「ほら、陽菜よ。声を聞かせてあげなさい」
下手なことは言えない。心配させるようなことを言ったらきっと陽菜は来る。
「陽菜、今日は帰るの遅くなりそうだから」
「どうして、お母さんが仁の携帯で陽菜に電話をかけてくるの」
誤魔化さないと。
「ああ、今日な、たまたま会ったんだよ。それで、電話してえって言うから、貸したんだ。くそ婆、じゃなかった。あの女、随分変わっててさ、優しくて穏やかになってたよ」
「今、何処に居るの」
陽菜が心配そうな声を出している。
「俺の会社近くの喫茶店。大丈夫、心配しなくて良い。ちゃんと遅くなっても帰るから。だから、悠人のこと、頼む。くそ親父が来たら金でもせびれば良いから。まあ、せびらなくても勝手に置いてくだろうけどな」
「何勝手なことばっかり話してんだよ」
蹴り飛ばされて体がまた少し動く。
「陽菜、仁を助けたいなら、こっちにいらっしゃい。場所を今教えるから、良いわね?」
「陽菜、来んな。俺なら平気だから、来るんじゃねえ。お前は悠人の母親だろ。ちゃんと面倒見ろ」
元義母は居場所を教えて通話を切ってしまった。
このままじゃ、陽菜が来る。なんとかしないと陽菜まで何されるわからない。この女は何一つ変わってはいなかった。あの時のまま狂っている。
「てめえ、陽菜になんかしたら皆殺しにしてやる」
「その状態でよくもまあ、言えるな。大丈夫だ。陽菜ちゃんには恵美子の代わりに俺の子を孕んで貰うだけだから。恵美子も年だからな。子供はもう無理なんだよ。それでも俺達は子供が欲しい。だから、恵美子と血の繋がった娘の陽菜ちゃんなら、その資格があると思ってな。そうだな。お前が死んだらついでにお前の餓鬼も貰ってやるから心配しなくて良い。お前の餓鬼だ。きっと根性座ってる大人に育つだろうよ」
そんな事を言われて喜べというのか。自分が死んだ後も面倒見るからと言われて。喜べるはずがない。こんな奴らに大切な二人を渡すぐらいなら、あのくそ親父に渡した方がまだましだ。
「さ、陽菜ちゃんが来るまでの間、もう少しこの若造を可愛がってやれ」
また殴られ初め、どれぐらい経ったかわからないほどになっていた頃、陽菜がやってきてしまった。
「仁、大丈夫」
「馬鹿野郎。何で来んだよ」
陽菜が駆け寄ってくる。
「陽菜ちゃん、先に行ったら危ないって言ったでしょ」
「そうだぞ。まあ、もう、警察呼んだから平気だけど」
陽菜の後に巧と晴が来た。そうか、陽菜の奴、二人を呼んで来たのか。
「ありゃ、じんじん。災難だったね。大丈夫かな。どうする、たっくん。じんじんの敵、殺っちゃおうか」
「やめとけ。ここで俺達まで手を出したら捕まるぞ」
晴が満面の笑みで巧に言うと冷静にそう返されていた。
「ううん。確かにそうかもね。それにしても、散々だね。昨日は首刺されるし、今日は夜勤明けなのにこんなのって」
晴が縛っていた縄を外してくれた。
「ああ、まあな。悪い、こんな時にあれだけど、もう疲れて力出ねえや。寝かせて」
静かに目を閉じる。警察が来たのか騒がしい。体が持ち上げられる感覚がある。そこで意識を失った。
ー続くー
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