第35話 復讐

 翌日、工事の夜間バイトに向かう。


 「竜崎、これ運んで」


 「はい」


 この夜間バイトはコンビニの時給よりもずっと高い。これで陽菜の学費を払えているぐらいだ。


 午前零時頃、休憩時間になり、陽菜が作ってくれた弁当を食べ始める。


 「お、竜崎はまた愛妻弁当か」


 「だから、違うって言ってるじゃないですか。妹です」


 バイトの先輩にからかうように声をかけられる。


 「はは、そうかそうか。しかし良いな。竜崎には美味そうな弁当を作れる妹さんが居て。俺の母ちゃんは料理下手だからなかなか作ってくれんよ」


 「うちの妹も見た目より、美味くないっすよ」


 先輩は俺の弁当から、かにかまの入った卵焼きを一口食べると、いやいやうちの母ちゃんのよりは美味いってと言ってくれた。


 「そうっすか」


 「竜崎、お前に客だぞ」


 そんな事を言いながら食べていると呼ばれてしまった。


 「ちょっとすみません」


 先輩に一言そう言って向かう。するとそこにはアイラブ美由紀の入れ墨男が舎弟を連れて立っていた。


 「んだよ、お前らかよ。てかさ、お前らも暇だよな。こんな時間に俺みたいな小物に、いつまでもつきまとってさ。いい加減やめれば良いのに」


 大きな溜息をつき、面倒くさそうな顔で相手を見る。


 「くそ餓鬼。この前はよくも俺の可愛い舎弟をやってくれたな。しかも俺のこの入れ墨、笑ってくれたそうじゃねえか」


 「いや、だってさ、そんな入れ墨するほど惚れてる女に振られたんだろ。笑うなっつう方が無理があるわ」


 また思い出して笑ってしまう。


 「くそ餓鬼」


 「ああ、待て待て。今俺、仕事中だからお前らみたいに暇じゃねえんだわ。だからさ、構って欲しいなら終わるまで待ってろや。ま、終わるのは朝方だから後、五時間ぐらいあるけどな」


 鼻で笑い現場に戻ろうとした時、背中に鈍い痛みが走った。振り返ろうとは思ったがそれが出来ずに倒れてしまった。作業着が生暖かく濡れているのを感じる。


 あれ、俺、まさか、刺された?


 挑発したから?


 嘘、だろ?


 なかなか自分が置かれている状況が掴めない。体が動かない。意識が遠のく。


 「この野郎」


 遠のく意識の中、自分の体が蹴り飛ばされているのを感じる。


 ちょっと待てよ。


 俺が今、死んだら陽菜はどうなる?


 またあの狂った家に帰るしかなくなる。また、狂った義母に玩具のように遊ばれる。そして、今度は捨てるように殺されてしまうかもしれない。


 こんな事なら当分は陽菜一人で生活出来るだけの保険を自分にかけておけばよかった。


 自分の事よりも陽菜の事だけが気がかりだった。この際、体の痛さとか、自分がこの後どうなるとかそんな事はどうでも良い。ただ、自分がいなくなった後の陽菜が心配だ。


 そしてそんな事も考えられなくなり意識を失った。


 意識を取り戻した時、何故か白い天井が見えた。


 「あ、起きやがった」


 ゆっくりと横を見ると巧が見ていた。


 「陽菜は?」


 「何だよ、意識取り戻してすぐに陽菜ちゃんの心配かよ。陽菜ちゃんは母親の元に戻った」


 巧の言葉に体を動かそうとして、上手く動かせずにベッドから落ちた。


 「やめとけ。その体じゃ行けねえよ」


 「陽菜が連れ去られた時、お前は黙ってみてたのか」


 巧を睨むと俺の肩を抱きかかえベッドに座らせた。


 「違う。俺だって。陽菜ちゃんを行かせたくはなかった。だけど、仁が刺されたって陽菜ちゃんから連絡が来た時にはもう遅かった。何か、お前の両親、離婚調停入ってんだって。それで陽菜ちゃん、母親に呼ばれて行っちゃったんだよ」


 巧は悔しそうにそう言うと椅子に腰掛ける。


 「だから、ちゃんと治してから陽菜ちゃんを迎えに行け。俺はとりあえず先生呼んでくるから」


 医者を呼びに巧は病室を出て行き、俺は溜息をつく。


 「失礼しますよ」


 医者が中に入ってきて色々と聞かれた。それに答えて、刺された傷はそこまで深くなく、明日から歩く訓練を始めますと言われた。


 それから二週間は病院のリハビリを受け、なんとか歩けるまで回復した。退院してすぐに実家に向かった。退院する時に晴が付き合おうかと言ってくれたがそれを断った。


ー続くー

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