第33話 昔の男

 「高校はどうだ?」


 「え、ああ、うん。楽しいよ」


 陽菜の様子がどこか変だ。


 「そうか。友達は出来たのか?」


 「まあまあかな。最近はクラスが一緒だから、九条くんとばかり一緒に居るよ。そしたらね、付き合ってるとか噂されてちょっとした迷惑なの」


 学校内で異性とばかり一緒に居ればそうなるだろう。


 さっき感じた違和感はそれか?


 「他に変わったことはねえか?」


 「何だか今日のお兄ちゃん、お父さんみたい。特にないけど、先輩にね、あの人が居るの。だから、少し怖いかな」


 陽菜が不安そうに俯いた。陽菜の言うあの人とは、きっと陽菜を犯そうとした昔の男だ。


 「そうか。そいつに何かされなかったか?」


 「うん、学校では、九条くんが近くに居てくれて、だから平気。でも、それでもその人ね、陽菜を見ると近寄ってくるの」


 陽菜の頭を撫でて、もし何かされそうになったら、先生に言って助けて貰えと言った。


 「わからない。怖くて動けないかも」


 「それなら大声出せよ。それに、されたら俺に教えろ。お仕置きしてやる」


 俺の言葉に陽菜はやっと笑った。


 「お兄ちゃんのお仕置きは怖いよ。また喧嘩するつもりでしょ。陽菜が無理矢理されそうになった時も、お兄ちゃんが助けてくれたよね。あの人、きっとお兄ちゃんの顔、忘れてないよ」


 あの時は確か、九条が街でぶらついている俺を見つけて知らせに来た。頭に血が上った俺は陽菜の中学に乗り込み、馬乗りになって殴りつけていた。そしてその後、理由が理由だけに高校を一週間の停学になった。


 「そんな事もあったな。んじゃ、俺の名前出せよ。また私に手を出すと怖いお兄ちゃんが襲いに来るって」


 「うん、九条くんが何度かお兄ちゃんの名前を出したんだけど、効果ないんだ。なんかね、今は、あいつより強くなったから怖くないって」


 俺より強くなったね。それなら、またやってやっても良いなと心の中で思いながらにやついた。


 「お兄ちゃん、顔が怖いよ」


 「今度、うちに連れてこいよ。俺がちゃんと年上として話を付けてやる」


 陽菜は不安そうな表情になった。


 「でもお兄ちゃん。また、あんな事したら駄目だよ」


 「大丈夫だ。向こうがふっかけてこねえ限りは手を出さねえよ。それに、ここで暴れたりしたら近所迷惑だろうが。ちょっと口で説教するだけ」


 またにやつくと陽菜は、信用出来ないから、その時は巧さん呼ぼうと言った。


 「信用ねえのな、俺」


 「うん、だって、今までが今までだし」


 どんな状況でも口より先に行動に出ていた。それを知っている陽菜ならそう思うのも仕方ないか。


ー続くー

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