第20話 大切な妹
「おい仁。美咲ちゃんと犯るなとは言わねえけど場所と状況を考えろ」
「うるせえな、美咲が来ちまったんだから仕方ねえだろ」
巧の前を通り過ぎようとすると俺の肩を掴んできた。
「お前な、美咲ちゃんの声聞こえてたぞ。陽菜ちゃん、その時、便所に行ってすぐに青白い顔して戻ってきた。何考えてるんだよ」
「別に何も考えてねえよ。それに、俺と陽菜は兄妹なんだぞ。あいつも九条と犯りまくってんだろうよ。だったら俺だって何処の女と犯っても関係ねえだろ」
俺の言葉に巧が思いっきり殴ってきた。
「いってえな。何すんだよ」
「何するじゃねえ。てめえがあまりにもふざけたこと言ってんからいけねえんだろうが。陽菜ちゃんが九条と犯りまくってるだあ。てめえはそんなに自分の義理の妹を尻軽女にしてえのかよ」
そうではない。別に陽菜を美咲みたいにしたいわけではない。ただ、九条と体の関係があるならそれはそれで良いことだと思った。
「くそが、別に良いじゃねえかよ。陽菜がどいつとしたって俺が何人の女としたって。お前には関係ねえ事だろ。お前は奈々と犯りまくってんだから」
巧がまた殴ってきて体が倒れてしまった。そして馬乗りになって殴られる。
「くそがくそが、止めろっての」
「俺が目を覚まさせてやる」
そう言うとまた顔を殴られて口の中に鉄の味が広がる。そんな騒ぎを聞きつけた陽菜達がやってきて巧を止めた。
「た、巧さん。やめて。お兄ちゃんを叩かないで。お願いだから。奈々さん、止めさせて」
陽菜が心配そうに叫ぶ。奈々が巧の体を押さえて、もうやめなよ、巧くんと言った。
「うるせえ、こいつむかつくんだよ」
「俺だってむかつく。本当の事を言っただけで殴りやがって」
巧を殴り飛ばし口に入った血液を吐き出した。
「もう、うちに来んな。てめえの顔なんか見たくもねえ」
「待って下さい。お兄さん、ごめんなさい」
九条が口を開いた。
「僕、陽菜さんとは付き合ってません。付き合っているふりをしていたんです。陽菜さんから相談を受けて。お兄さんと陽菜さんは義理なんですよね。だから陽菜さん、その事でとても悩んでいて。力になりたくて。だから付き合っているふりを見せたらお兄さんがやきもちを焼いて陽菜さんに振り向くんじゃないかって」
「ありゃ、九条くん。その事は内緒のはずだろ。何で話しちまうんだよ」
九条は、だってお兄さんと一之瀬さんがこんな形で仲違いしちゃうなんて見ていられなくてと言った。
「それに一之瀬さんがお兄さんに怒ったのは陽菜さんの為ですよね」
「それまでばらすなよ。あほ」
巧は鼻で笑う。
「巧がそこまで怒った理由はわかった。けど、俺は陽菜とどうこうなるつもりないし。何度も言うけど義理とは言え俺と陽菜は兄妹だ。戸籍上のな。だから駄目なんだよ。それに、俺にとっての陽菜は、大切な妹だ。その妹に手を出せる訳ねえだろうが」
「へえ、じゃあ、仁は陽菜ちゃんが妹じゃなくなったら手を出すんだな。変態」
巧に言われて確かに俺の言葉はそう言う意味に受け取れるとも思った。
「陽菜ちゃん、お兄ちゃんに襲われないように気をつけなよ。今はまだ平気だろうけど」
「もう巧くんったら、二人を応援してるのか、そうじゃないのかどっちなのよ」
奈々につっこみを入れられて巧は気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「馬鹿お前、けなしながら応援してるんだよ」
「何話まとめてんだよ。もううぜえから帰れよ」
巧と奈々、九条は陽菜に頑張ってねと言って帰っていった。
「お兄ちゃん、騙しててごめんね」
自分で吐き出した血液をティッシュで拭き取っていると陽菜が声をかけてきた。
「別に。そんな事どうでも良い」
「お兄ちゃん、あのね」
陽菜は何かを言いかけてやめると、何でも無いと言って俺の側を離れた。そんな態度を気にしないふりをして、拭き終わると台所で口をすすぎ、冷蔵庫から麦茶を煎れて陽菜から離れたところに腰掛けた。
何処か気まずさを感じていた。今までのように過ごしていれば良いのだけど、それが出来ずに居た。
「おい」
「何、お兄ちゃん」
陽菜が俺の顔を少し恥ずかしそうに見てくる。
そんなあからさまに意識してますみたいな顔してみてくるな。
「お前は俺の妹なんだからな。それに、仮に妹じゃなくても中学生に手を出すような真似もしねえから。って、何俺こんな事言ってんだ。馬鹿野郎か。とにかく陽菜は変な気を起こさないで違う奴にしとけ」
俺は煙草を取り出し火を付けてふかし始める。そして買ってあった週刊漫画を手に取り読み始める。
ー続くー
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