第18話 兄と妹の感情

 「お兄ちゃん、彼女さんじゃないの?」


 陽菜が悲しそうな表情で聞いてくる。


 「そんなんじゃねえよ。陽菜には関係ねえだろ」


 「えっと、その。お兄ちゃん」


 陽菜が何かを良いたそうに見てくる。


 「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」


 「えっと、あのね。陽菜ね、お兄ちゃんが大好き」


 この大好きという言葉を聞くと調子が狂いそうになる。ふと巧の方を見ると巧の携帯がこちらを向いている。


 「何してんだよ」


 「別に何も。良いから続けて。それで仁は陽菜ちゃんのこと好きなのか」


 巧の携帯を取り上げ画面を確認する。すると案の定、さっきの光景は録画されていた。


 「はい、削除」


 「あ、酷い。せっかくの禁断愛の行方はと思ったのに」


 巧が冗談を言うようにそう言ってくる。きっと巧も気がついている。陽菜が俺に対し兄妹愛以上の感情を抱いていることを。だからあえて雰囲気を壊すようなことをしたのだろう。


 「おい陽菜、頭のおかしい奴がいるから、そう言う事言うなよ」


 「えっと、じゃあ、巧さんが居なければ良いの?」


 陽菜が上目遣いでそう言ってくる。俺は頭を少し強く搔き、そうじゃないだろとつっこみを入れた。


 「だって、せっかくお兄ちゃんが毎日帰ってくるお家に居るのに、言わないなんて事出来ないよ。陽菜だって、またいつお兄ちゃんの元を離れることになるかわからないし。きっと陽菜一人の時にお母さんに会って帰ってきなさいって言われたら逆らえない。だって、お母さんは陽菜にとってただ一人のお母さんだから」


 「それもそうだよな。うん、俺は良いと思うぞ。陽菜ちゃん、もう邪魔しないからいつでもラブアピールしちゃえ」


 一体巧はどっちの味方なのか。陽菜に好意を持たれてもそれには答えられないことぐらい知ってるくせに。


 「陽菜、我が儘言ってんじゃねえぞ。だいたいな、兄妹間でそんなに好きとかそう言う言葉は言わないもんだ。普通妹は兄貴を何処か下に見て、生意気な口をきいて。それで仲が悪いもんなんだよ。今のこの関係性は普通は気持ち悪いもんなんだ」


 陽菜は悲しそうな表情で涙を流した。


 「俺は妹の陽菜が好きなだけでそれ以上もそれ以下もねえ。俺は俺で外で女作ってっからお前も早く男作れ。そうだな、巧とかはどうだ。年上だし、付き合ったりしたら友達に自慢出来るぞ」


 「おいおい俺のタイプは聞いてくれないのかよ」


 俺は鼻で笑いお前、陽菜のこと可愛いとかいってたじゃねえか。良かったな、今なら兄貴公認だぞと言った。


 「可愛いと付き合いてえは違うっつうの。仁だって美咲ちゃんとそう言う関係でも付き合いてえって思ったことねえだろ」


 確かに可愛いや抱きたいという感情と付き合いたいという感情は別物だ。例外はあるだろうが、ほぼ違うだろう。


 「とにかく、陽菜が俺の事を兄貴として好きで居てくれるなら嬉しいけどそうじゃないなら嬉しくねえんだよ」


 「うん、わかった。陽菜、もう言わないから、お兄ちゃん、嫌いにならないで」


 陽菜は大粒の涙を流しながら言った。俺は陽菜に、ああ、なんねえよと返した。


 それから数日が経ち、晴の紹介でコンビニのバイトを始めた。


 「ああ、もう。何で店長はこんな使えないバイトばっかり雇うのかね。言われたことしか出来ないなんて、そんな仕事、猿でも出来るっての」


 「それな。ほんとあり得ないわ」


 晴の言っていた通り、腹が立つ先輩バイトが居た。そもそもそんな事を言われる筋合いはない。それはバイトを始めたばかりの頃、嫌みを言っている今の先輩に、言われたことだけやっていれば良いからと言われたからだ。


 俺も何度か自分で考えて動こうとした。だけどその度に余計な事しないでと言われてしまった。


 「ほんとむかつくよね。こっちが弱いふりしてるだけだって言うのに。僕、ああいう人嫌い。しかも一人はバイトリーダーだからめっちゃくちゃやりずらいしさ」


 「片割れ女だしって」


 昼休み晴と一緒に外で休憩を取っている時にそんな愚痴を話していた。


 「あれ、女の方、あのバイトリーダーに惚れてるだろ」


 「じんじんもそう思った。僕も」


 晴と意見が一致した。晴はその後にむしろ付き合ってると思うな、僕は。だって、この前裏でいちゃついてるの見ちゃったもんと続けた。


 「くそ、バイト中にいちゃつきやがって。写真撮って店長に報告してやろうか」


 「あはは、それ良いかも。やろやろ」


 晴は楽しそうにそう話すと目を輝かせた。


 「じんじんが来てくれて僕、幸せだな。今までは僕一人だったから味方が居ない状態で正直、色々辛かったんだ。悔しいと言う感情と戦うのがね。もう少しで破裂して殺っちゃう所だったよ。そう考えると、お友達は大切だね」


 缶珈琲を飲みながらそう話す晴は本当に安心しきった顔をしていた。


 晴の言う通り、仲間は必要だ。晴がいざとなったら自分が義母を殺してあげると言ってくれたから、俺はあの家で父親が実の息子よりあの義母を取ったのをあまり悲しくならなった。


 「でもあれだね、この関係性って何だか傷を舐め合ってるようで、情けなくて気持ち悪いね」


 「言えてるな。気持ちわりい」


 晴と俺は顔を見合わせて笑い合った。


ー続くー

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