第12話 七人の異能者

「昨晩池袋駅で発生した連続爆発事件は依然として実行犯の所在は掴めておらず、警視庁は何らかの事故の可能性も視野に入れ捜査を継続しており……」


「ボマーは馬鹿すぎた。先走りやがって」


 暗い部屋に置かれたテレビが室内を照らしている。


 世の中の全てが気に食わないとでも言いたそうな顔をした青年が、スマートフォンを操作しながらテレビに目を向けてつぶやいた。


 先日立て続けに起こった爆破事件、通り魔事件、毒ガス事件でテレビもネットも大騒ぎだ。


 時系列的には通り魔事件が最初だった。


 呼応するようにどこかの異能者が毒ガス事件を起こし、目立ちたがり屋のボマーはここぞとばかりに隠れ家を飛び出して凶行に及んだのだ。


 その後ボマーからは連絡もなく隠れ家にも帰ってこない。死神に殺されたのだろうと青年はボマーの存在を切り捨てた。


「あの胡散臭い死神とやらの言う通りだ。『能力を使う前に頭を使え』ってな」


 青年は独り言を続ける。彼に能力を与えた死神は去り際にそう助言していった。


「だが、俺たちは思い切り馬鹿をやる。めちゃくちゃにしてやる。全部」


 青年は「死神」の権能譲渡とやらに同行を願い出て、仲間を探した。


 容赦なく人を殺せて、そしてそれだけでは満足できない馬鹿を。


 彼らに立ちふさがるのであれば警察だろうが自衛隊だろうがみんな殺すつもりだった。


 そして、死神。世界を管理するという彼らを殺すとこの世はどうなるのかを見てみたかったのだ。


 彼に能力を与えたその死神は、青年の考えを聞くと嬉しそうに笑ったのだった。




「準備ができましたよ。リーダー」


 隠れ家に入ってきたのはマイスター。血濡れの手には拳銃が握られている。


 ちぎれたひもがぶら下がっていることから、警官から奪ってきたものであることが伺える。


 リーダーと呼ばれた青年が立ち上がった。集めた仲間は能力こそ強力だが馬鹿ばかりなのでいつ誰が死ぬかわからない。なので能力から連想したコードネームを付けた。名前を覚えるだけ無駄だからだ。


「複製は?」


「たった今。強化もしておきました」


 マイスターの両手から次々と拳銃が生まれ、床でぶつかり合ってガチャガチャと音を立てた。


「上出来だ。今日中に動く」


 リーダー、マイスター、スナイパー、シールド、アサシン、ドクター。そして死んだボマー


 この全員が死ぬまで精一杯多くの命を奪うつもりだった。


 死神をたくさん殺して世界がどう狂うのかを見届けたかった。


 拳銃をバッグに詰め込むと、リーダーはマイスターと共に隠れ家を後にしたのだった。


「さあ、馬鹿をやりに行くぞ」




 隠れ家にしていたマンションのエントランスを二人が出ると、ざっと三十人ほどの警察官に包囲されていた。


 白昼堂々交番に乗り込んで、警官を殺害し拳銃を奪ったマイスターが即座に通報されたからである。


「ゆっくりと両手を挙げて、地面に伏せろ!」


 拳銃を構えた警官の一人が叫ぶと、マイスターは勢いよく腕を振る。袖に仕込んだ拳銃が飛び出す。が、手のひらをすり抜けて地面を滑っていった。


「制圧しろー!」


 拳銃を取り落としたのを確認した警官たちが一斉に押し寄せてくる。


「馬鹿か、お前」


「まあ。そうですね」


 すると警官たちの背後から銃声が響いた。精密な射撃で次々と警官の頭部が撃ち抜かれる。その隙を見逃さず、リーダーも拳銃を取り出して、警官に向かって撃つ。


 突然前後から襲われた警官たちは、一瞬どちらを先に制圧すべきか混乱する。


 しかし、その間にも後方からの射撃で警官が倒れていく。優先順位を後方の銃撃犯に変更した警官たち。


 五人の警官がリーダー確保の為に盾を構えて突撃して、残りは後方に対応する。


 止むことの無い銃撃から数人の警官がパトカーの陰に隠れ、ホルスターから拳銃を抜き弾切れを待つが、一向にその瞬間は訪れない。


 スナイパーの拳銃は能力による強化の影響で弾切れが起こらないからだ。今や威力も射程も狙撃銃並みに強化がされた拳銃になっている。


 パトカーのガソリンタンクが狙い撃ちされ、燃料がアスファルトに漏れていく。


 引火を警戒して隣の車両の陰に移ろうとした警官たちは、車両と車両のわずかな隙間から狙撃され、倒れていく。


「やるな。スナイパー」


 そうつぶやいたリーダーはベルトの鞘からサバイバルナイフを取り出す。


 盾を構えた警官の一人に飛び掛かったリーダーは盾ごと警官の頭部を貫いた。


 残りの警官は盾でリーダーを押しつぶそうとするが、マイスターが即席で作り出した煙幕弾が炸裂しリーダーを見失う。


 後はリーダーによる一方的な蹂躙だった。視界を奪われた人間など異能者の相手にはならない。


 しかし物陰に潜んでいた警官が、震える手でリーダーを狙い撃とうとする。


 その視線にリーダーは気付いていたが、あえて無視した。


 その方向にアサシンの気配を確認したからだ。アサシンが後方からナイフで警官の首をかき切る。


 彼は影から影へ移動することのできる異能者で、マイスターが複製した拳銃を包囲網を抜けスナイパーに渡したのもアサシンだった。


 ものの数分もしないうちに銃声はしなくなった。


「ちょうどいい。もらっていこうぜ」


「今キーを作りますよ」


 リーダーがパトカーに乗り込み、マイスターが助手席に座った。


 もう一台のパトカーにはスナイパーとアサシンが乗り込み、リーダーの運転するパトカーを追って走り出した。


 マンションの前には死体の山と血だまりだけが残され、遅れてやってきた死神が舌打ちする。


「これくらいやれば死神も俺たちを追ってくるはずだ。シールドとドクターを拾ったら、次の段階に行くぞ」


 これによって彼ら「カタストロフィ」は破滅への第一歩を踏み出した。自らが望んだ破滅に。



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