【長編・第二章完結】銀河大戦~オンラインゲームで優勝した結果、宇宙艦隊司令長官に任命されました~
羊光
第一章
ペスカトーレ①
釣野理華、彼女の家には大きな借金がある。
だから、大学への進学は諦めていた。
「防衛大学校?」
高校三年生になったばかりの頃、理華は進路案内の掲示板に張り出されていた『防衛大学校』の願書募集に気付く。
「えっ? 学生なのに公務員扱いでお金ももらえるの?」
理華は驚いた。
勉強も出来て、お金も貰える。
卒業後は自衛官にならないと学費を返還しないといけないが、自衛官になれば問題無い。
「それに自衛官になることは悪いことじゃないわ。このまま高卒で社会に出ても、厳しい現実が待っているはず。だったら、防衛大学校に行った方が私の将来にとってはプラスになる」
理華は防衛大学校へ進学することを決めた。
こんな理由で防衛大学校へ進学したなんて言ったら、世間からは批判を受けるかもしれない。
だとしても、理華にとっては最良の選択だった。
幸い、理華は勉強も運動も出来たので問題無く、受験に合格する。
入学後の勉強も順調にこなして、無事卒業し、自衛官になった。
理華は安定した暮らしを手に入れて、昇進も順調。
親の借金も少しずつだが減っている。
実家の状況を考えると結婚などは出来ない状況だが、それでも人並の生活は送れていた。
理華は自分の人生がこのまま何事もなく終わると思っていた。
しかし、それは今日の朝までのことだ。
「昇進の機会ですか?」
「ああ、そうだ。これから君にはある作戦に参加してもらう。その結果次第では一尉に昇進だ」
理華は仕事の途中でいきなり会議室へ呼ばれ、上官からそう告げられた。
上官と言っても、理華の知らない人だ。
村井一佐、と名乗っていたが、所属が分からない。
(作戦って何かしら? それに私はこの前、二尉に昇進したばかりなのに……)
「君には転属してもらう」
「転属ですか?」
「そうだ。今後、君は自衛隊外星人対策部、及び地球防衛軍、宇宙艦隊参謀部所属となる。地球防衛軍での階級は中尉だ」
「…………えっ? あの、もう一度、お聞きしてもよろしいですか?」
理華は聞き慣れない単語ばかりで飲み込むことが出来なかった。
「自衛隊特別外星人対策部、兼地球防衛軍、宇宙艦隊参謀部所属、だ」
今度はどうにか単語を聞き取れた。
しかし、理解はできない。
(外星人? 地球防衛軍? 宇宙艦隊? 一体何を言っているの?)
「ウルトラ○ンと一緒に怪獣の相手をすれば、いいんですか?」
理華は馬鹿馬鹿し過ぎて、軽口を叩いたが、上官は無反応だった。
神経質そうな村井一佐は無表情だった。
「笑い事じゃないんだ。我々は十年前から存亡の危機に直面している。…………まずはこれを見てくれ」
村井一佐は言いながら、スクリーンモニターを起動させる。
映ったのは艦隊戦の映像だ。
しかも、ただの艦隊じゃない。
戦いが行われているのは宇宙空間。
艦隊は宇宙艦隊だった。
「随分とリアルなCGですね」と理華は素直な感想を口にする。
「これはCGではない。四年前に行われた『地球防衛軍宇宙艦隊』対『銀河連邦軍宇宙艦隊』の戦いだ」
村井一佐は相変わらず真剣に説明するが、理香は冗談にしか聞こえなかった。
「君はまだ信じていないな。だったら、これはどうだ?」
村井一佐は何かの金属板を私の目の前に置く。
それが光り出すと立体映像が映し出された。
『諸君は今回も負けた。次が最後の機会だ。諸君が我々と対等の存在だと証明できなければ、諸君の未来は失われる。余は諸君らの奮戦に期待する』
英気と覇気に富んだ白髪の少女がそう宣言したところで立体映像は停止する。
「この子は何者ですか?」
「銀河連邦の終身執政官、だそうだ」
「終身執政官?」
「簡単に言ってしまえば、銀河の覇者だ」
「今度は銀河の覇者ですか……」
まるで映画の設定だ、と理華は思ってしまう。
(確かに英気と覇気は感じるわ。でも、こんな十代半ばくらいの少女が…………)
「君が何を想像しているかを予想できるが、見た目に騙されるな。彼女は二百歳を超えている」
「二百歳!?」
「今、映し出されている姿は精巧な機械の身体らしい。彼女の体は遥か昔に永久保存状態だ。そして、脳だけを動かして、機械の身体で銀河の統一という覇業をやり遂げた。銀河を統一したのは百年五十年ほど前らしい。まだ日本が明治維新だのと言っていた頃だな」
とんでもない時間間隔の話だ。
しかし、まだ信じられない。
「私の話がまだ信じられないなら、その映像に触ってみるといい」
「えっ? はい……」
理華は言われた通りに映像へ手を近づける。
映像に触れることなんて出来ないと思った。
「!!?」
しかし、立体映像の白髪の覇者に触れることが出来てしまった。
「映像に質量を持たせる技術らしい。これが地球では不可能な技術だと理解してもらえたかな?」
ここまでの村井一佐の真剣な口調と、艦隊戦の映像、さらにオーバーテクノロジー。
理華は全てを飲む込むことにし、「はい」と答える。
「…………ですが、これだけの技術を持つ相手とどうやって戦うのですか? それに先ほどの映像を見る限り、地球にも宇宙艦隊があるのですか?」
「宇宙戦艦の技術に関しては銀河連邦から提供された。彼らの目的は侵略ではない。現在の宇宙はそのような時代が終わったらしい。映像の中でも言っていたが、我々が対等な知的生命体かを判断する。それが銀河の覇者の目的。その証明条件が艦隊決戦で、銀河連邦に勝つことだ」
「私たちに戦う手段を提供した上で、そんなことを…………! 馬鹿げています。生命をなんだと思っているんですか…………!?」
理華は少しだけ声を荒げる。
「人は誰も死んでいない」
「えっ?」
「この艦隊戦、というのは現在、銀河で最も人気のある競技だ。私たちが野球やサッカーに熱中するように、銀河ではこの艦隊戦が盛んに行われている。よく見るといい」
村井一佐に言われ、理華は改めて映像を見た。
「確かにビームやミサイルが当たっても艦は沈んでいませんね…………」
「全て競技弾が使われている。これはゲームなんだよ。銀河の覇者は我々に、宇宙で戦う為の技術を提供した。世間には秘匿されているが、すでに人類は太陽系全域に活動圏を伸ばしている。豊富な資源を使い、宇宙艦隊を設立させ、銀河連邦が提案したゲームに二度挑んだ。そして。敗北してしまった。次が最後のチャンス、一年後の戦いに人類の存亡がかかっているんだ」
「もし、次、負けたら、どうするんですか? 侵略者と戦う用意はあるのですか?」
理華の言葉に対して、村井一佐は苦笑した。
「人類と銀河連邦の戦力比がどれくらいだと思う?」
その言い方からするに絶望的な戦力差があるのだろう。
「アメリカと日本、くらいでしょうか?」
「違うな。アメリカと一つの村が戦うようなものだ」
「…………それが過大表現で無ければ、絶望ですね」
「その通りだ。人類が生き残るには銀河の覇者と艦隊戦を行い、勝ち、存在を認めてもらう他に無い」
「…………ですが、分かりません。私よりも階級が上の者はいくらでもいるじゃありませんか?」
「階級も、年齢も、身分も、国籍も関係ない。勝たなければならない。その為に人類の総力で当たる。君はその候補に選ばれた」
「候補に選ばれた? それに人類の総力、とはどういうことですか? 全世界の人間にこのことを公表すれば、必ず混乱しますよ」
「方法はこれだ」
村井一佐はスクリーンモニターの映像を変えた。
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