第25話 ソファトと手合わせ ~二合目・打ち合い~
「はぁ、ついムキになっちゃった。私の方が年上なのに」
水を飲み、呼吸を整えながら少し離れたところで座り込んでいるラトゥを見る。
戦闘系の血統技能を持たず、武器どころか直接的に攻撃できる技能も使わずに私と打ち合った二歳年下の男の子。立ち回りを見る限りそこまで長い間鍛錬した様子は無いのに恐怖を感じていなかった。最初は私の槍に圧倒されていたはずなのに、いつの間にかそれも消え、ついムキになって繰り出した“
「例え手合わせだって当たれば痛いし、当たり所が悪ければ怪我じゃすまないって分かってないの?」
平民の私に血統技能は無いけれど戦闘技術は彼よりももっと小さいころから磨いてきたし、魔物とだって何度か戦ったこともある。それでも戦いに慣れるなんてことなく、師範は強いし魔物は容赦ないから、いつだって戦うのは怖かった。
「やっぱり男の子だから?怖いもの知らずって、相手する側からすると厄介ね」
最後の一撃に全く反応できていなかったはずなのに、今もニコニコと笑いながら胡坐をかき、ゆったりと揺れる尻尾が表すように気を張らずに何かを考えている様子のラトゥを見ていると、諦めに近い感情が湧いてきてついため息が出てしまう。
それでも悪い気はせず、自然と口角が上がっているのを自覚しながら彼へと近づいて行く。
「ラトゥさん、そろそろ続けられますか?」
「え?」
私に話しかけられて初めて接近に気が付いたのか、目をせわしなく瞬かせながら見上げてくる彼は、驚いた様子で次の言葉を発せないでいた。
「どうしました?まだ休憩が必要ですか?」
「あ、いや、もう大丈夫。ただ」
「ただ?」
「口調がまた他人行儀に戻ってしまったな、と思って」
心がざわつく。
そういえば軽口を言い合っていた時はかなり砕けた話し方、それこそ仲間たちと話すくらいの感覚だったか。何なら、気分は今もそのくらい気楽だ。
気を付けないと。
「丁寧な話し方に慣れていないので、気が高ぶると剝がれてしまうんです。申し訳ありません」
「気にしてないよ。ソファトの腕なら将来貴族と関わる地位に着けそうだし、今のうちからその話し方に慣れておくといいかもね」
貴族と関わる、ね。望むところだ。
「……そうします」
「それじゃあ、続きやろっか」
そう言いながら立ち上がったラトゥは先程の開始位置へと歩いて行った。
「例え嫌と言われたって関わり続けてやる」
ラトゥの後に続いて私も歩き出す。
一歩踏み占める度に私の中の気楽だったものは重みを増していき、それに合わせて口元も引き絞られていった。
──────────
「くっ!重いしはっやいなぁ、もぉ!!」
「っ!はぁ!!」
二回目の手合わせが始まってから数分、一回目の気楽さが嘘だったかのように密度の高い打ち合いが繰り広げられている。というのも、ソファトの繰り出す突きの量が減り、その一つ一つがかなり危うい一撃になったからだ。
さっきまでは一突き目でこちらの体勢を崩し、二突き目、三突き目で仕留めるという戦い方だった。しかし今はがらりと変わって一撃で仕留めようとしてきている。
「ぅ危なっ!!はぁ、はぁ、陸上での動きにだいぶ慣れてきたみたいだね」
「しっ!!」
ソファト達、
それなら
「“
「いっつぅ!!??」
水が無いなら生み出せばいい、水が周りに無ければ本領発揮できないなら纏えばいい。“水属性”を駆使すれば、どこでも彼らの海になる。
“
「どんな集中力だっ!」
「戦闘中に操作に集中なんてしない、最初からラトゥの事だけです、よっ!!」
「うっれしくないっ!!」
こちとらこれ以上に火力を上げる手段は無いうえに、当たれば一発アウトの通常攻撃と超速回避難の槍でどんどんお手上げ状態になってるっていうのに!
「それでも避けてるっ!さっさと諦めたらどうですかっ!?」
「たしかに打開策は無いけ、どっ!」
「とか言ってっ!さっきから水が減ってるんだけ、どっ!?」
「なっ!?気づいてたの、かっ!?」
「やっぱり、ねっ!!“
「うわっ!?」
この状況で唯一できることは、ソファトの槍に纏わりついている水を僕の火属性で蒸発させることくらいだった。気が付かれないように、回避しながら少しずつ削っていたのに、普通にばれていたとは。動揺してかなり距離を取ってしまった。
「当然です、少し減るだけでも突きの速さとか変わるんですから」
「あぁ、それはばれるね」
ってことは水を蒸発させるためには一気に熱さないといけないわけか。
「まあ、水が減ったとしてもまた足せばいいし、水温を上げようとしてもこっちで下げれば相殺できますけど」
「むむむ……」
「さぁ、どうします?」
勝気に笑ったソファトが構えを取る。
彼女の手元に目を向けると、纏っている水が槍を抑え込むように動いているので繰り出されるのは“
「やるしかない、かな」
「へぇ?逃げる気はないと?」
「まぁね」
今までの半身で片方の手を前に出す構えをやめ、正面を向いて両の手の平を相手に突き出して攻撃を待つ。
「カウンター、面白い」
「いつでもどうぞ?」
「では遠慮なく……“
彼女が地を蹴ってから槍が届くまでの時間が抜け落ちたと錯覚するほどの速度で迫る超速の突き。
それをぎりぎりで認識した瞬間両手で槍を力いっぱい掴み、それと同時に視界が煙で覆われた。
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