第16話 四面壁囲 4
フラッシュモブでの告白劇が終わった後、私は細貝君や今回協力してくれた人達と一緒に軽い打ち上げをしていた。もちろん細貝君の配信グループ「グランブルドッグ」のメンバーも全員揃っていた。
「いや~大成功だったな。今日は良い画が撮れたよ」
メンバーの一人である木田君がそう言うと別のメンバーの水島くんが同調した。
「よかったな~ケン! 断られてたらお蔵入りだったぞこの企画」
「ほんとだよ。結構準備に時間掛けたからな。OKしてくれてありがとねネオンちゃん」
もう一人のメンバー森下君の言葉に苦笑いしながら私は答えた。
「ええ……まぁはい」
すると私の隣に座っていた細貝君がビールジョッキを持ちながら言った。
「まぁまぁ、今日は配信
するとおめでとーの声があちこちから聞こえてきた。結局あの後、私はお友達からよろしく、という言葉を細貝君に伝えられずにいた。この打ち上げが終わったら一応言っておこうかと、私はその時考えていた。
少し酔ってきたのだろうか、細貝君は顔を赤くしながら結構私に密着してきた。
「そういやネオンちゃん。今回のフラッシュモブの動画、うちらのチャンネルにアップするけど顔とか出しても平気かな?」
私はグラスを口に付けながら少し迷う素振りをした。
「ん~どうしよっかな……」
すると水島君が突然立ち上がりテーブルに手を突いて頭を下げた。
「できれば顔出しはOKしてくれ! やっぱ視聴者はネオンちゃんの顔見たいと思うんだよね。今回の主役だし」
他の二人にも頭を下げてお願いされた。たぶんOKすれば付き合う事はなしにはできないだろう。でも私にも多少の打算はあった。
そして私はこの時初めて、自分も歌い手として配信チャンネルを持っている事を伝えた。細貝君は驚きながらすぐさま私のチャンネルを検索した。
「おーほんとだ! 歌うまいじゃんネオンちゃん! じゃあこういうのどうだろう?
今日のフラッシュモブの
彼の提案に他のメンバーも笑顔で頷いていた。そしてすぐさまこの場でコメントを撮る事になりお店の許可を貰っていた。
私と細貝君が2ショットで並び、森下君がカメラを回し始めた。
「え~改めまして、今回めでたくお付き合いさせて頂くことになりましたネオンちゃんです! イェイ!」
細貝君が私を紹介すると、周りからパチパチ、ヒューヒューと拍手と歓声が聞こえてきた。私は少し緊張しながらカメラレンズを見た。
「みなさん初めましてネオンです。えっと……今回細貝君とお付き合いさせて頂く事になりました」
「もーネオンちゃん! ケンって呼んでよぉ」
細貝君の言葉に周りはワッと爆笑する。それから細貝君が私との馴れ初めのようなものをしばらく語り、最後に私のチャンネルを紹介して撮影は終わった。
途中キスコールが巻き起こったが、私があまりにも恥ずかしがったため、なんとかそれは回避できた。
結局私は細貝君と正式にお付き合いするという形に収まってしまった。
そして動画がアップされた次の日、自分のチャンネルを見てみると登録者数が一気に二万人も増えていた。多少は増えると思っていた私の予想を遥かに上回っていた。
グランブルドッグのチャンネルを見てみると動画の再生回数がすでに五十万を越えている。流石大手配信者だ。素直に凄いと思う私と、それ程の人に見られたという現実にプレッシャーとも恐怖とも取れる感情が生まれた。
動画のコメントには祝福の言葉や私をかわいいと褒めちぎる言葉。そして辛辣なコメントもちらほら見られた。
この反応はある程度予測出来た。細貝君は人気配信グループのリーダーだ。そんな彼が公に彼女を作ったとなればファン達は黙ってないだろう。
私の方の動画のコメント欄はもっとひどいものだった。半分くらいは批判的な言葉や私の容姿を罵るもので、それに対しても視聴者同士が争っていた。いわゆる炎上というやつだろう。
今更ながら私は後悔していた。と同時に純粋に私の歌が好きで登録してくれてた人達に申し訳ない気もしていた。
実際、安易な道を選んだ私は、彼の事がそれ程好きな訳でもないのに付き合い始めたのだ。もちろんその思いを知る人はいないが売名と感じる人も中にはいるだろう。
私が一人で何度も溜息を吐いていると細貝君からL1NEが届いた。
『おはよう♪ 動画の反響はどうだった?』
「はぁ……困った事になってますよ……」
そんな事が言えるはずもなく、自分の気持ちとは裏腹な言葉で返事を返す。
『おはよ~登録者数めっちゃ増えててびっくり! やっぱりケンくんの影響力はすごいね!』
『ネオンがかわいいってのもあるじゃないかな ♡ 今回の動画はかなり好評だったよ! またうちの動画に出てほしいんだけど大丈夫かな?』
「えー! マジか……」
確かに登録者が増えてほしいと切に願ってはいた。でもいざこういう形で増えた時果たしてそれが正解だったのかと疑問に思えてくる。
そもそも彼は本気で私とお付き合いをしたいのだろうか? 動画のネタとして告白してきたのではないかという猜疑心も生まれてきた。でも現状、何をどうすればいいのか私にはわからない。当たり障りのない返事をして私はベッドに横になった。
「はぁ~今日はストレス発散でカラオケでも行こうかな。そういやあの店員さん、同じ大学だったなんて知らなかったな」
眼鏡返してもらわなきゃと一人で呟き、夜に備えて私は眠りについた。
おれは彼女からの返事を読んでからベッドの上でうーんと体を伸ばした。
おれの横では
「わ~ネオンのチャンネル、登録者数すごい増えてるじゃん。彼女焦ってるんじゃない?」
クスクス笑いながら麻貴は言った。彼女は丸本音遠とはクラスが一緒で自称友達でもある。実は今回の件はおれと麻貴が考えた企画だった。
弱小配信者をどこまで育て上げれるか。
丸本音遠が歌い手として配信している事をおれは麻貴に聞いて知っていた。
はっきり言って動画はどれもつまらない。顔出しもしていないし中途半端だ。
たいした覚悟もないのに配信者をやっている事におれは少しイラついていた。
そんなおれに麻貴がこう言った。
「だったらケンが彼女をプロデュースしてあげたら?」
その言葉はすごく魅力的だった。俺達のチャンネルも最近は横ばい状態だ。ここらでひとつ起爆剤になるような企画が欲しいとこだった。
他のメンバーにも本当の事は秘密にし、おれは企画を進めた。結果はご覧の通り大成功。一夜にして彼女も有名になり、これからもっと伸びていくだろう。おれも次々に新しい企画が思いついていた。
「でも眼鏡しないとあんな可愛かったてのは、ぶっちゃけ意外だったな」
「ちょっと~本気で惚れたりしないでよぉ」
おれの言葉に麻貴がぶーたれる。こいつも別に彼女ではないからどうでもいいんだが……麻貴を乱雑に抱いた後、おれは裸のまま眠りに落ちた。
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第16話を読んで頂きありがとうございます。
クズばかり出てきてすみません……
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