鍋
彼岸キョウカ
【お題:トキメキをもう一度】恋はトキメキ、愛は安心
結婚して3年も経つと、付き合っていた頃の胸の高鳴りや、24時間彼女の存在が頭の中を支配して何も手につかないなんてことは、無くなる。恋は愛に、トキメキは安心に変わった。
ここのところ、仕事が忙しくて百合とゆっくり過ごす時間がなかった。休日だって、1日寝てしまっていたし。
この生活が続いたらもうずっと百合とすれ違ってしまうのではないかと思って、結婚記念日は有給を取った。豪華なディナーも予約した。後は花束も用意しておこう。
『来月の20日、1日開けておいてほしい。デートに行こう。それと、ディナーも』
本当は直接伝えたいけど、話す時間もあまりないし、忘れたら困るのでLINEしておく。
『わかりました。楽しみにしております』
すぐに返事があって驚いた。やっぱり、寂しかったんだろうか。
『申し訳ありませんが、ディナーの用意は時間がかかると思いますので、デートは少し早めに帰りたいですわ』
『了解』
俺も、気合入れないとな。よし、まずは前日に定時で帰れるように仕事をこなしていかないと。
——————————
なんとか結婚記念日の前日は、定時で帰ることができた。家に帰って、百合とゆっくりできるのはとても嬉しい。が、忙しい期間が長すぎて何を話したら良いのかわからなくなる。昔は、どんな風に過ごしてたんだっけ。
最寄り駅を出ると、ケーキ屋が目に入った。そうだ、百合の大好きなモンブランを買って帰ろう。
「ただいま、百合」
「おかえりなさい、直也様」
ぱたぱたと迎えに来てくれる百合。久しぶりに見る光景に、胸があたたかくなる。
「これ、食後に食べよう」
「まぁ、モンブランですの? とても嬉しいです。ありがとうございます」
そっと箱を受け取った百合は、俺が言わなくても中身がわかる。まぁ、俺がモンブランしか買ってこないからだけど。
「百合、いつもありがとう。好きだよ」
箱をあまりに大事そうに抱えるから、思わず伝えてしまった。明日に取っておこうと思ったのに。
「ふふ……
付き合っていた頃はすぐに顔を真っ赤にして、慌てていたのにな。今は笑顔で返してくれる。顔は相変わらず、赤いけれども。
百合も俺みたいに、あの頃のトキメキを思い出してくれていたら良いな。
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