第122話

 その後、私たちは町を十分に楽しんだ。

 十歳の私からしてみれば近場の町ですら、新しい世界で……世界は広いんだな、私は視野が狭くなっていたんだなと改めて思った。


 今は婚約者を決めなくちゃってことばかりに気を取られて、しかも私が選ぶ側で、相手のことや今後のこと、自分の気持ち……そういうことばっかり考えて同じところをぐるぐるしていたんだなと思う。


 今日は兄様たちとただお店を回って、時々お店の人からおまけをもらってただ仲良しの兄弟ってだけで遊んで過ごしただけなんだけど随分と気持ちがほぐれた気がする。


(……私って頭でっかちなんだなあ)


 これは前世の記憶を持っている弊害なのか?

 ほとんどもう思い出せない過去に引きずられ続けているってのも癪に障る話だなあ。


 しかも毒親たちに苦しめられて碌でもない生活を送っていたって部分なのが特にね。


「ありがとう兄様たち」


「楽しめたなら良かった」


「俺たちも可愛い妹がいてくれたおかげでたんまりおまけをつけてもらったもんなあ」


 あちこち行く度に何かもらえたのは面白かった!

 兄様たちがかっこいいから、私が可愛いから、妹の面倒を見ているお兄ちゃんたちが偉いから、そんな感じだった。


(あの人たちの暮らしを守るのが、政治で。政治を行うのが国で。国のトップが、父様で)


 皇族である意味っていうのを、実感した気がした。

 もっと慰問とかで寄付金を偉い人に渡すだけじゃなくて、こうやって人々の暮らしを間近に見る機会を増やしていきたいな。


 そうしたら、私にもできることが見えてくるかもしれない。


(まだ私は十歳だし、公務らしい公務は……任せてもらえないけど)


 なんせ私の上には六人のそれはもう優秀な兄様たちがいるわけだからね!

 極小の治癒能力しかない皇女にできることかあ……前世のおかげで勉強方法を知っているってだけで、学んだことを生かす方法まではまだよくわかっていないのが現実。

 世知辛いね……。


「ねえ兄様たちは誰がいいと思う? この国の為に、誰を選ぶべきなのかな」


 そんなことをつい、聞いてしまった。

 なんのことかなんて言わなくても、すぐに兄様たちは理解したのだろう。


 緩く顔を見合わせてから、パル兄様が私を見た。

 その表情は、真面目そのものだ。


「ヴィルジニア」


 静かな声音。これは、兄様が皇子としての立場で言葉を発するときの顔。

 私は瞬間的にうつむきたくなったけど、堪えた。

 だってこれは、自分のせいだから。


「判断を俺たちに委ねるな」


「……はい」


「お前が悩んでいることはわかるし、誰かに決めてもらえればそれは楽なことだろう。だがそれではいつか後悔するだろう。自分で選ばなかったことに」


 ぐっと言葉に詰まる。その通りだ。

 私はこの期に及んで〝誰を選んだら国益になるのか〟を盾に兄様たちに判断を仰いでしまった。


 繋いだ手を、強く握る。

 私の力なんてたかがしれているから、兄様たちが痛がることはない。


 でも、強く握った。離されないように。

 そんなこと兄様たちはしないってわかっているのに。


「大丈夫だよ、ヴィルジニア。誰を選んだって国にとって損はない。気軽に……とは言えないけれどね、もし選んだ後で無理だと思っても大丈夫。俺たちがいるだろう?」


「……」


「そうだ。お前はいつだって俺たちや父上から与えられるものを受け取って、受け入れる。だから、たまにはお前が選んでいいんだ。選ばないってことを選択肢に入れてもいいぞ」


「余計悩む……」


 パル兄様がとんでもない選択肢を増やすせいで、余計に気持ちが沈んだ。


 候補となった彼らはみんな素敵な男性になるだろう。

 それこそ、皇女なんて地位がなかったら私なんて振り向いてもらえないくらいに、素敵な人たちになるに違いない。


 別に自分を卑下しているわけじゃない。


 彼らは、兄様たちに負けず劣らず優秀なのだ。

 今のところ可愛いだけが取り柄の皇女では、申し訳がない気がする。


「だけどもし、兄としてもの申していいなら一つだけ。ヴィルジニアのことを可愛いと褒めてくれる人がいいな」


「……カルカラ兄様?」


「そうだな、上っ面だけの言葉だと腹は立つが、思っているだけで言えないやつは論外だ。実際お前は可愛いからこんだけおまけももらえたし、行く先々で言われていただろ、将来は引く手数多だって」


「それはリップサービスって言うんだよ、兄様」


 お店の人の褒めてくれる言葉は七割くらいに聞いておけばいいんだよ!

 でも、そうかあ。

 可愛いは確かに可愛いもんなあ。


 それを利用しようとか、過剰に『私カワイイ!』ってしない限りは、これも立派な武器なのか。

 娘であること、妹であること、そこに可愛いをプラスしているから兄様たちから大事にされていると思っていたし、実際今も思っているけど彼らに対しても私の『可愛い』は有効なのだろうか。


(まあ連れて歩く伴侶としては悪くない素材ではある)


 今のところ自分を鏡で見ても、将来楽しみな程度には可愛いわけだし?

 スタイルに関しては助けて牛乳、よろしくお願いします。


 だとしたら、私は思っていた以上にネガティブになっていたってことでいいんだろうか。

 結局誰を選ぶかについてはまるで参考になってないけども。


「ありがとう、兄様たち」


「ああ。……ところで他の兄上たちにもお土産買ったけど、大丈夫かな」


「いいだろ、父上にも買ったし。買わなかったら買わないで後が面倒なんだ、三人で仲良く叱られりゃいいんだよ」


 ワルイコトした共犯だからな。

 そう笑うパル兄様がかっこよくて、私とカルカラ兄様は顔を見合わせて笑う。


(……そうだね。私を可愛いって大事にしてくれる兄様たちみたいに素敵な関係を築けるような、そんな相手を選ぶよ)


 でもそれってどうやって確かめればいいんだろうね!

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