第119話

 政略結婚は私も皇族だし、彼らだって王侯貴族の一員として『当たり前のこと』って受け入れていたし、その中で関係を築けていけたら……って思ってもいた。

 実際、出会って彼らは素敵な人だと思ったし、尊敬できるし、このままお互いだけ・・だったらきっと上手くいったと思う。


 でもさ、私は選べる。

 だけど、彼らは選べない。


 ここには大きな差があるのだ。

 私は特別素晴らしい人間かって問われると違うし、なんだったら皇族の七人兄妹の中で考えたら一番能力も美貌もない、後ろ盾らしいものもない、ないない尽くしの皇女様だ。

 家族の愛情がなかったら、今頃どうなっていたことやら。


 もしこれが戦乱の世界だったり、皇帝の椅子を巡って兄妹間で争わなきゃいけないような国だったら私なんてとっくの昔に淘汰されていたと思うね!


(私は恵まれている、けど、それに悩まされると思わなかった)


 ため息がこぼれる。

 そうなのだ。

 誰を選んだって、上手くいくことはわかっている。


 それだけの素晴らしい相手を、父様は用意してくれた。

 娘の幸せを願って。

 そしてきちんと、選ばれなかった場合でも不利益を被らないように彼らに配慮していることも理解している。


(……でも、選ぶ、選ばれないってことに引っかかってる)


 私は前世、選ばれなかった側の人間だ。

 いろいろな意味で。

 親に選ばれず、世間に選ばれず、運命にも選ばれ……いや転生したからある意味運命には選ばれたと言ってもいいのか?

 よくわからない。


 でもとにかく、小・中学生時代にも周囲が恋バナに花を咲かせ、告白だのデートだの、そういったことで楽しく笑っていた時も、私は無縁だった。

 なんとなくアレが初恋だったのかなって男の子もいたけど、その子は私の友達が好きだったから『わかるー、あの子可愛いもんね』であっさりしたものだったから恋に恋していただけなのかなとも思った。


 とにかく。


 私は、選ばれなかった側の人間だから、選ぶ側になれと言われて困惑しているのだと思う。


「誰だって何かを選ばなくちゃならないだろ。いつまでも人任せにはできない」


「……うん……」


 パル兄様の言葉は、正しい。

 でも、私は選びたくなかった。


「いっそのこと一回取りやめにしてもらって、父上に新たな人間を選定してもらおうか?」


「それはだめ!」


 カルカラ兄様の提案に、慌てて首を振る。

 全員を選びたくないとか、彼らが悪いとか、そういうことじゃあないのだ。


 だって、私なんだよ。問題は、私なんだ。


「……私でいいのかなって。皇女って立場がなかったら、私みたいな子なんて、本当は彼らと釣り合いとれてないよ」


 そうだ、結局私は自信が持てない。

 

 美幼女に転生したぜ!やったー!!

 とか思っていたし、実際今だって自分が結構な美少女に成長したなって鏡を見て何度思ったことか!


 でもさあ、それだけっちゃそれだけなんだよ。

 美男美女揃いっていうか、兄たちもそうだけど婚約者候補たちもそうじゃない?

 だったらさ、あっちは選びたい放題では?って思うわけ。


「ふーん、ほお、なるほど……」


「これは……なかなか。うちの妹はなんで自信がないんだろう……?」


「無自覚ってのは困るよなあ……」


「……兄様たち?」


 私は真剣なんですけど!?


 ムッとする私を見て、二人が笑った。

 笑って私を立たせたかと思うと、パル兄様がとってもいい笑顔を浮かべたではないか。


 あ。なんか悪いことを考えている時だ。

 そう直感的に思ったところで、カルカラ兄様が苦笑しながら首を振る。


 これは何を言っても無駄だよってことか?


「それなら、ちょっとばかり兄ちゃんたちとワルイコトでもするか!」


 は、はあ~~~~~~~~~~~~~~~!?

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