第九章 ツンの底には……?

第82話

 さて、サルトス様はなんでかよくわかんないうちに私に対して好意的……っぽくなっている。

 といっても近所のお兄ちゃんと仲良くなった! くらいの感覚だけれど。


(多分それはあれだな、ソレイユのおかげなんだろうなあ)


 どうしよう、部屋で一人兄様萌えとか語っていたことを暴露されていたら。

 まさかの伏兵がここにいただなんて……!!

 いやでもあれはアル兄様が人目を忍んでこっそりとめっちゃ可愛いおかし持って来て私が喜んだら尻尾パタパタさせたのが悪いんだって。

 それを横で見ていたカルカラ兄様がアル兄様の尻尾に目が釘付けだったのが可愛いせいなんだってば。


 はあ、うちの兄様たちが可愛いしかっこいい。略してかわいかっこいい。


(って違ーう!)


「……なんでお前、一人で百面相してんだ?」


「ひゃっ……ち、違いますよ!? レディーに向かって失礼ですよパル兄様!」


 そう! 今日はパル=メラ兄様とお茶会なのだ!

 最近あちこちに視察へ出ていたからお土産をいろいろともらったお礼にこうしてお茶を用意したのだ。私自ら!

 大丈夫、デリアにもお墨付きをもらったから美味しいお茶だよ、渋くないよ!!


「……とりあえずお前の婚約者候補、あのエルフの小僧はなんか上手くいったみたいだな。オルクス兄上が喜んでた」


「ああ、なんだかよくわからないうちに仲良くなりました」


「わからないうちにってなんだそれ」


「一緒にチューリップの球根を植えたのが良かったんですかね……?」


 これまで家族とやったことがないことを一緒にやった相手にシンパシーを抱いたのかなって。

 勿論、ソレイユの存在が大きいとは思うけど……あの後サルトス様はソレイユがあれこれ私との思い出話? を自慢しまくっていたと聞かされたからね!

 内容は教えてもらえなかったけど……。


 でもまあ仲良くなったんだから、いいことなんだと思う。

 それが恋愛か? って問われたら絶対に違うんだけどさ……本当に近所のお兄ちゃんが自分より小さい子の面倒を見てくれているって感じ。

 

 ただ他の婚約者候補に関してはあまり変化がない。

 というか、パル=メラ兄様と今回お茶会をするのもそれに関係してのことだ。


 そう……今回気になっているのは私の婚約者候補の一人、ピエタス様。

 ではなく。

 いくらいってもついてくる、第二妃のカトリーナ様についてだ!


 ついてきてもピエタス様をアピールしたりプッシュしたりするわけでもなく、ワタシのことを睨んだり『作法がなっていない!』などの難癖をつけたり、自分がいかに歴史ある大国の姫として誰よりも優れた妃であるかの自慢話を聞かされるばかり……。


 それがいやなのか、場の空気が辛いのか、ピエタス様と時間を取る日に『予定が入った』などの連絡を受けることが増えてしまったのだ。

 この場合はカトリーナ様が問題だから私が叱られることはないだろうけど、ピエタス様がその原因としてお叱りを受けていたらいやだなあ……と思って相談することにしたのだ!


「ああ、それについては俺も心配していたんだよなあ」


「やっぱり?」


「……ピエタスってのは前にも話したが、俺の婚約者の弟だ。あの家からして見れば姉弟揃って皇室と繋がりが持てれば次期当主にとって心強いことこの上ないからな……ヴェイトス国内での発言権を強めたいのが目的だろう」


「兄様と婚約できているだけで満足しないところが貪欲だよね」


「まあピエタスに関しちゃ〝運が良ければ〟程度に考えているんだろうよ。少なくともこの婚約者の選定が終わるまでは面倒を見なくていいし、何かあったら情報を流せとかいろいろと良いように使える駒が自然な理由で帝国に送り出せるんだからあちらとしては悪くない話だろう」


「……」


「本来ならそういう・・・・のを牽制したり、統制をとるのが嫁いで来た妃に求められるものではあるが……うちの母親はそういうのができる人間じゃあないからなあ」


 ククッと喉を慣らすようにして笑うパル兄様の目は、笑っていなかった。

 その辺が父様似だと思う。


 ……本人に言うと、すごく嫌がられるけどね。


「やっぱりピエタス様もカトリーナ様とご一緒なのがプレッシャーになるのかな」


「まあそうだろうな。あいつはもともと自分が選ばれるとは思っちゃいない。だからお前に余計な負担をかけていると思っているし、いっそ態度を咎められてヴェイトスに送りかえされればいいと思っているんだろう」


 人族の国、ヴェイトス。

 第二妃、カトリーナ様の母国。大陸で最も古くからある国。

 カトリーナ様は『由緒正しき人族の国ヴェイトスの王女』だったという肩書きに誇りを持っていて、だからこそ帝国の妃として自分は最も大切にされて然るべき存在だと豪語していたっけ……。


 まあ、パル兄様に言わせると『古くさいだけでプライドばかりが高い連中のいる国』なんだけど。

 辛辣ゥ!!


「はあ、どうしたもんかなあ……」


「ああ、そいつについてはお前がなんとかできる。っていうかお前じゃなきゃ動かせないかもな」


「え?」


 パル兄様が笑った。面白そうに。

 あれっ、なんか妙案を出してくれるはずなんだけど、嫌な予感がするぞ?


「父上を引っ張り込めばいいのさ。お前がお願いすりゃあカンタン・・・・だろ?」

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