第67話
次に情報を持って来たのは予想外にもパル兄様だった。
正直、パル兄様の母であるカトリーナ様は自己顕示欲が強いっていうか……『ワタシが正しい!』って強く言って人の話を聞かない雰囲気の人だから何を聞こうにも話そうにも耳を傾けてくれなさそうなイメージが合ったんだけど……。
「逆、逆。あの人は単純なんだよ、困ったことに」
喉を鳴らすようにして笑うパル兄様の顔は皮肉たっぷりだった。
実の息子にそんなことを言われているなんてカトリーナ様思ってないだろうなあ……。
「まあ端的に話すとだな、お前ヴェイトス国についてどのくらい勉強した?」
「大陸でも歴史ある大国の一つでしょう?」
「まあ合ってる。正しくは『昔からある』ってだけの国で矜持だけは馬鹿高いのに列強と渡り合う力はない国だ」
「身も蓋もない!!」
そうなのだ。
どのくらい歴史ある大国かっていうと、帝国の歴史の倍はある。
ちなみに帝国だって負けちゃいないと思う。
私からしたら五百年の歴史も千年の歴史もどっちも『すごい』からさ……。
(転生して新品の脳みそになったからって能力が高くなったかっていうとそうでもないんだよね)
そう、残念ながら前世の記憶がある影響なのか?
今世でも私は歴史の授業とかが苦手なんだよね……今も変わらず私の家庭教師を続けてくれているシズエ先生は『ざっくりとでいいですよ』って言ってくれているので今はそれに甘えている。
一応、十歳の範囲としては大幅に先を行っているからだと思うけど、そろそろ限界が見えてきている……!!
まあそれはともかく。
ヴェイトスの方が国としての成り立ちは古いのだが、勢いが今も続いているのは帝国なのだ。
帝国はそもそも、ヴェイトスや過去に存在した国家との争いに立ち向かうために小国家が身を寄せ合い、その中で最も武力に長けていた国家から出たのが初代皇帝であり、確かその妻となったのは別の小国家のお姫様だったとかなんとか。
その後大陸を支配するようになった帝国とは交易や婚姻で友好的な関係を築いたヴェイトスだけれど、今や歴史以外に誇れるところは特にないっていうか……。
一応、ヴェイトスでしか手に入らない果物っていう名産があるけどそれ以外パッとしないっていうか……とにかく、今では〝斜陽の国〟ヴェイトスなんて揶揄されるくらい、落ち目なのだ。
ただ、ヴェイトスの貴族は自分たちが『歴史ある大国の貴族』であることに誇りを持っており、それだけで人は頭を下げる理由として十分だって思っているらしい。
らしいってのは私自身がヴェイトスに行ったことがないので、あくまで伝聞だから。
パル兄様の母カトリーナ様はそんなヴェイトスの姫で、友好関係を保つために帝国に嫁いで来た。
そしてパル兄様の婚約者もそのヴェイトスの大貴族の娘なんだとか。
今後が若干心配である。
「まあ、俺の婚約者よりはお前の婚約者候補の方が幾分か性格上マシっぽいけどな。ホントにあの女と姉弟なのか?」
「……そうだって聞いてるけど」
そうなのだ。パル兄様の婚約者って人に私は会ったことがないけれど、兄様いわく典型的なヴェイトス貴族って感じらしい。
そしてなんと私の婚約者候補、ピエタス様はとても穏やかで……いつもカトリーナ様がヴェイトス自慢をしている間、申し訳なさそうに微笑んでいるのが印象的だ。
「ピエタスは末っ子らしくて、あちらの実家で婿入り先を探していたみたいだな。そこで俺繋がりで母上に今なら一緒に弟もどうか、ヴェイトスとの関係を強める良い機会だとかなんとか言われてあの人もその気になったんだろう」
「セット商法なのかあ」
「どうせ婿入りで送り出さなきゃいけないなら、自分たちにとって有益なところに婿入りしてもらって甘い汁を吸いたいんだろ。もし選ばれなくても帝国で雇ってもらえるし、皇女の婿候補に入ったとなれば引く手数多だ」
「ずるい考え方だなあ」
だがまあ、味方を考えれば賢いのだろう。
息子の先行きを案じている親心……ならそう思いたいけど、雰囲気的にはそうじゃないもの。
(ピエタス様が家族からお手紙を受け取っているとか、連絡をもらっている、あるいは彼から送っているって話は聞かないし)
私が兄様たちと一緒に過ごしている時にすれ違った時、彼は寂しそうな顔をしていなかっただろうか。
まだ十二歳の男の子が、たった一人よその国で知らない人に囲まれて、怖くないはずがないと私は思うのだ。
「母上に深い考えはないが、母上の裏にいる人間がピエタスと俺の婚約者を通じて何かをしたがっていると考えるべきだろうな」
「そうなの?」
「だけどまあ、本人たちが歩み寄らなきゃ話が進まないって母上には言っておいた。邪魔は減るだろうから、少しずつお前からピエタスに話しかけてやれ」
「ありがとう、兄様」
私から話しかける……かあ。
話題、ヴェイトスの歴史を勉強し直した方がいいのかな……!
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