末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!

玉響なつめ

プロローグ

 おぎゃあ。

 その声が、自分のものであると理解した時の衝撃は言葉にできない。


 よく理解できないままに目が覚めたら知らない天井で(しかもよく見えない)、なんだこれ!? と混乱する中で人影に声を上げたら頼りない『おぎゃあ』ときたもんである。


 混乱する私に優しい声と柔らかな感触があり、何かを言ってくれているのにそれが理解できなくて怖くて、怖くて。

 私は感情を抑えるのが得意だと思っていたのに、あっという間に悲しくなって泣いたらまたもや『おぎゃあ』である。


 そう――私は、転生していたのである。

 その事実を受け入れられたのは、一歳になるくらいだった。


 前世の私はいわゆる毒親育ちで、そこから逃げ出したくて中卒で家を飛び出し、親切な工場長に拾ってもらって必死に働いていた。

 いわゆるブルーカラーっていわれる立場だったわけだが、不満はなかった。

 工場での仕事は単調でキツいと思うこともあったし、肉体労働で毎日クタクタだった。

 でも一緒に働くおばちゃんたちやおっちゃんたちはちょっとお節介焼きだったけど親切だったし、親よりもずっと頼りになるオトナ・・・だった。


 でもそれも長いことは続かず、周囲の人の協力も得て高卒資格を取るための勉強をしている中で両親に見つかってしまったのだ。

 私には姉がいたのだが、その姉を溺愛してお金をつぎ込みまくった結果金欠になった上に姉が行方不明になったから仕送りしろ言ってきたのだ。

 勿論のことお断りした。


『お前ッ、親に育ててもらった恩を返せ!』


『恩を感じるほどのことをしてもらった覚えはないね! そもそも私のお金はお前らに渡すよりもずっと大事なことに使うんだよ!!』


『なんだと、親よりも大事なものがあるっていうのか!』


『お世話になってるシズエさんの誕生日の方が大事に決まってんでしょバーカバーカ!』


『このっ……』


 シズエさんは誰よりも工場で私のことを気遣ってくれて、時々ご飯もくれて、勉強も教えてくれたお母さんみたいな人だ。

 その人の誕生日に精一杯のお祝いの品を用意して、明日になったら渡そうって思ってた。

 うちの両親なんか、私を産んだだけで他は何もしてくれなかったのにって思ったら悪態が止まらなかった。


 その結果、逆上した両親に突き飛ばされて車道に、そして……という流れだった。


(……最悪じゃん)


 で、生まれ変わった、と。

 ただおぎゃあで始まった自分を十代で自立した自分が簡単に受け入れられるかというとそれは大変だったわけで……まあ一年かけて、世界が見えるようになるのを体感した頃には達観したというか。


 とりあえず驚きだったのは私が外国人? に生まれ変わったらしいということ。

 黒髪黒目のジャスト日本人だった私には周囲の人が金髪だったり茶髪だったりというすることにびっくりなのだが、それに加えて私の親はどうやら金持ちらしい。


 私の世話をするのは親ではなく乳母のようで、いっつも私のことを『お嬢様』と呼びかけてくるので自分の性別が今世も女であることを知った。


 とりあえずはまだ一歳、つかまり立ちから次のステップに踏み出したいところである。

 まずは今世、親に恵まれていますように!




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新連載スタートです。

本日はあと二回、19時と21時に更新します。

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