第4話 昔、流行ったもの

 小学生の高学年のころ、交換日記が流行はやった。

 そのころの私は、多分普通だった、と思う。


 普通ってなに?


 って言われると説明しにくいんだけど、友だちがいっぱいいた。それだけ。

 話しをすれば友だち、友だちが連れてきた知らない子でも、一緒に遊べば友だち。

 今になって思うと、ちょっと変。


 絵を描くのが好きで、運動は苦手。自分の意見をいうのも勉強もどちらかというと苦手。なのにどういうわけか、私はクラスでも明るくて人気がある世話好きな子と仲が良かった。

 その子のあだ名はカズちゃん。


 カズちゃんは何人もの『友だち』と交換日記をしていた。

 学校で、休み時間にたくさん話して、家に帰れば一緒に遊んで、それ以上にまだ話しをすることがあるのが、不思議でしょうがない。


「ねぇ、コイちゃんも私と交換日記しようよ」


 ある日、カズちゃんが私に言った。

 他に六人もの子と交換日記をしてるのに私とも?

 正直なところ、興味はあった。一体、何冊ものノートにどんな話題がのぼっているのか。


 それに六人の他にも、カズちゃんと交換日記をしたがっている子はいっぱいいた。それを差しおいて、私が加わる……。

 名誉あることのように思えた。


「うん、私でよければ……」

「ホント? それじゃ、ノートは用意してね。書いたら回して。わかった?」

「うん」


 放課後、駆け足で家に帰ってお母さんに頼んでお小遣いをもらい、駅前の商店街にある文房具屋さんに向かった。

 田舎の小さな文房具屋さんには、ノートの種類はそんなにない。どれもこれも、見覚えがあるような気がした。


 私が選んだのは、有名な子供向けキャラクターのイラストが入ったノートだった。同じキャラクターのノートは、他の誰かとの日記に使われていたのをみている。

 でも、色が違う。私が買ったのは、黒い色で、ちょっとシックな感じだった。真ん中にデフォルメされたヒヨコのキャラが大きく描かれている。

 嬉しくてニヤケてしまう口もとをぎゅっと引きしめて、私は自分の部屋で机に向かうと、ノートを広げた。


(でもな……なにを書いたらいいんだろ……?)


 今日も学校で、みんなとたくさんの話しをした。それ以上になにがあるわけでもない。

 結局、私はその日の夕飯の内容と、テレビ番組のこと、そして『これからよろしくね』のあいさつ文と絵を描いた。

 翌々日、私のところに戻ってきたそのノートには仲良くしているから当たり前のように知っている、カズちゃんのプロフィールと、アイドルの話しが色とりどりのペンで書かれ、シールまで貼られていた。

 そして締めくくりに


『絵がうまいんだね! 今度○○くんの似顔絵を描いて』


 と人気アイドルの名前が書かれていた。

 好きではあったけど、自分ではまったく自信のない絵をほめられたのが、たまらなく嬉しくて、テレビ番組表の雑誌を片手に、毎回、ノートが回ってくるたびに、イラストを描いた。

 そんなやり取りが何度か続き、運動会が近づいたころ、日記に


『好きな人、いる? 私はね、トシヤくん』


 と書かれていて驚いた。

 スポーツができて、明るくて、カズちゃんと同じように人気者の名前だったから。

 この時期、運動会で活躍するせいで、ますます人気が高まるんだっけ。

 なんとなく、カズちゃんが好きになるのもわかるような気がした。


「好きな人かぁ……」


 思い浮かぶ人が一人、いることはいる。

 近所に住んでいて幼稚園のころからずっと今まで、同じクラスだった幼馴染。高学年になって友だちがいっぱいできてから、あまり話さなくなってしまったけれど……。

 ドキドキしながら、ノートのページをめくった。ペンを持ち、他愛のない話題とイラストを描いたあと、最後に小さく書いた。


『私は、オノくんが好きかな』

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