月灯-2nd

釜瑪秋摩

第1話 私の地元

 友だちなんて、面倒くさい。

 私は友だちなんていらない。


 いつもそう思っていた。

 一人でいることは苦痛じゃなかったし、好きなことができると思えば、むしろありがたいとも思えた。


 もちろん、仲良くしてる、って言える子も何人かいるけど、友だちだよ、なんて言えるほど親しくもない。

 グループで何かをしなきゃいけない、そんな時に一緒にいるだけの間柄。

 だから、それ以外のときには、だいたい一人。


 いつだったっけ。

 誰かに言われたことがある。


「ねぇ。コイちゃんってさぁ、いつも一人だよね。一人が好きなの? でも時々、さみしそうに見えるよね」


 コイズミだから、コイちゃん。昔からずっと、そのあだ名だった。

 まぁ、それは置いといて……。


 そんな風に見える?

 私が?

 私は友だちなんていらない。さみしくなんか……。


 教室の真ん中、一番うしろの席で私は本を読みながら、前のドアの近くに陣取る女子グループの、楽しげな笑い声を聞いていた。

 そりゃあ私も時々は、あんな風に言いたいことを言って笑ったりしてみたい……って思ったりもするけど……。


(――バッカみたい)


 たった今、そんなことを考えたのがバカらしくて、口もとが引きつった。

 ホームルームが終わり、放課後、私は早々に席を立ち、学校を飛びだした。学校から駅まではそんなに遠くない。


 少しだけ急ぎ足で歩き、同じ学校の生徒たちをどんどん追い抜く。

 学校帰りはいつも、塾かバイト。地元の駅にはバイト先もほとんどないし、塾も小さな個人塾だけ。


 どうせ学校には大きな駅に行くんだからと、親に頼んで学校の最寄り駅で塾とバイトを選んだ。

 そのせいで帰りはいつも遅い時間になってしまう。

 今のところは無遅刻無欠席。だから少しくらい遅くても両親も文句をいうことはない。


 今日も塾が終わっていつものように単線の電車に乗り、真っ暗な景色をぼんやりと眺めた。

 ぽつぽつと見える明かりが、駅に近付くたびに増えては減り、減っては増える。それが四度目の時、カバンを肩に掛け直した。


「○○駅~、○○駅です」


 なぁんにもない駅。

 星だけはやたら見える夜空と、夜なお響くカエルの鳴き声。

 線路沿いに続く短い白樺並木と、ちょっとの商店街と、その明かり。

 小さく囲われた砂利の中に無造作に止められた中から、自分の自転車を取り出してくると、私は商店街を見た。


 丸太作りの山小屋のようなお店。そしてやたらと大きなランプ型の照明。

 その明りはいつもやわらかくて優しくて、私はいつも遠回りになるのに、商店街を通って家に帰った。


 今日はほんのりと、コーヒーの香りがする。お店の前を通るとだいたいコーヒーの香り。

 時々ココアだったり、紅茶だったりするけれど、普通、喫茶店ってこんな風に表まで香りがするものなんだろうか?

 そんなことを考えながら、私はペダルをこいだ。

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