37.「その曲どこで覚えたんです???」

 その後、三人(ゴードンはあまり役に立たないので主に二人)で話し合い、この館の改革に必要な条件を洗い出した。


「よし、おさらいするよ」

「ウッス……!」


 笑いをこらえるニコラスをしり目に、ゴードンの目をしっかり見つめて復習する。

 何度も言わないと、こいつ、すぐ忘れそうだしね。

 まず一つ目。


「なるべくみんなが参加できる、楽しい催しイベントを開く」

「楽しい催し、了解ッス!」


 お笑いでも、アイドルでも、この際なんでもいい。

 じめじめしたホラーな空間を明るくできる催しが、この館には必要だ。

 少しずつでも、「世界観」そのものを作り替えていかなきゃ。


 そして、次に、大切なことがもう一つ。

 

「この館の住人たちに寄り添い、前向きにさせる」

「前向き、了解ッス!」


 要するに「怪異」としての核である「無念」や「後悔」、「執着」などを解いて、「怪異喰かいいぐらい」に捕食されるのを防ぐ……という方策。

 ……これが、なかなか難しそうなんだよね。

 簡単に解決できるのなら、そもそも数百年単位でこじらせてないだろうし……。


 それに、「前向きになったら成仏させられない? 大丈夫?」とも思ったけど、ニコラス曰く「その程度で赦されてに戻れるとは思えないねえ(笑)」だそうだ。


 逆に言えば、それだけ館の面々の業は深いと言うこと。

 自我を持ったメンバーだけじゃない。この館に迷い込んで、首を盗られたり捕食された被害者モブでさえ、手に負えないからとことわりの外に弾き出された「死者」の端くれで、「怪異」のなり損ないなんだ。

 ……大丈夫かな。本当に。


 不安が、表情かおに出ていたのか。

 ゴードンは困ったように笑い、手を握ってくれた。


「きっと、大丈夫ッスよ」


 ……この笑顔、なんだか、懐かしい気がする。


 ──もう、大丈夫ッスよ…… 


 「あの時」もゴードンは、血に塗れた手を、震えるわたしの前に差し出した。


 ──ありがとうございます


 嬉しかった。

 相手が血塗れでも、その方法が殺戮だったとしても。

 あの瞬間、彼は、間違いなくわたしの救いヒーローだった。


「……大丈夫、かな」

「だって……今のお嬢は、楽しそうじゃないスか」


 楽しい、か……。

 確かに、そうかもしれない。

 大変なことばかりだけど、不安なこともいっぱいあるけど、今のわたしは、今世チェルシーになってから一番「生きている」はず。


「ヒヒッ、良い場面だねぇ」


 ニコラスがバイオリンを構え、音楽を奏でる。

 明るくてハツラツとした、楽しげなメロディ……んん? 待って、これって……


 チャラララッチャラ~チャラララッチャラ~チャラララッチャラッチャ♪

 ホンワカパッパ~ホンワカパッパ~♪


 吉〇新喜劇の曲やないかーい!!!!

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