鬼とミライ
夏伐
第1話 鬼の子
僕は物心つく前から、ずっと病院で暮らしている。
僕ら病院で暮らしている人には鬼が巣食っているそうだ。オンラインで受けられる授業でそう聞いた。
寂しくはない。両親は週末には僕に会いに来てくれる。そこで会った事もない兄の話を聞くのが僕の楽しみだ。
病院の人たちは僕たちのことを人間だとは思っていないらしく、時折ひどく怯える個体がいる。
僕たち、と言っても僕の他には一人だけ――崎原ミライしかこのフロアにはいない。ずっと年上でやはり生まれた時から僕と同じように病院に暮らしている。
病院ではいつも二人で鬼ごっこをしている。舞台は夢の中。誰も彼も夢の中で意識が繋がっていることをミライが教えてくれてから、眠ってからが僕らのゲームがはじまる。
ミライから提案を受けて僕は両親に「家に行きたい。兄に会いたい。家族で暮らしたい」と泣いて頼んでみた。
両親から話を聞いた病院関係者なども、問題なしと判断したようで僕はすんなりとつまらない牢獄から釈放された。
毎日通院することが条件だったけれど。
一ヶ月ほどは慎重に学校生活を送った。
いきなり現れた転入生。しかもそれは自分たちが見知った同級生と同じ顔なのである。
学校生活というものはとても新鮮だ。
彼らが知っている同級生とは僕の兄『小黒リク』。
双子ではあるものの、僕と兄さんを間違える人はほとんどいない。
兄はとても必死に勉学に励んでいるようだ。おかげで学年でもトップクラスの成績。
僕は家に帰る前に病院へ。兄は放課後は習い事と塾、家でも勉強に時間を注ぐ。
ある日、僕は兄に聞いた。
「兄さんは勉強が好きなの?」
少し考えた後、兄は「お前には分からない」とだけ呟いて部屋に閉じこもってしまった。
学校では相変わらず、不審者や放火魔の噂でいっぱいだ。他にすることはないのだろう。
そして少し分かったことがある。兄さんは学校のクラスの中ではムードメーカーらしく、とても人気者だ。
「トモくんは、お兄さんと全然違うね」
同じクラスの女子の台詞だ。それに反応したように、わらわらと集まって「お兄さんと似ていない」の大合唱がはじまった。
「お兄さんは凄く話しやすいよね」「勉強できるのを鼻にかけてないって感じ?」「ピアノで賞に入ったこともあるらしいよ」「トモくんはお兄さんと違って話かけにくいんだよね」「むすっとしてないで笑ったら?」
その場はとりあえず始業のベルで難を逃れることができた。
病院に行ったときにミライとするのは家族の話だ。学校の話もしたいが、ミライは僕の家族の話を聞いてる時の方が楽しそうだった。
「お兄さんはどんな感じ?」
「なんだか限界みたい」
「へぇそれはいい……」
最近気づいたのだが、父母はなんだかどんよりと虚ろな表情をすることが多くなった。
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