第5話

ーー今日の天気はここ数日ぶりに快晴だった。ーー


 この日は朝早く起き息子のフィルとリューニスの朝ご飯を作っていた。ご飯を作り終えて朝の仕事はひと段落ついた。


 フィルの誕生日の三日前という事もあって今日は誕生日プレゼントを買いに行こうとフィルを起こさずにこっそりと家を出た。


 「今年は何を買ってあげようかしら」

とショピングモールで何を買うかを考えている時がとても楽しかったようだ。

 ふと時間が気になった。私がプレゼントを考えすぎて、家にいるフィルが一人で困っているのでは無いかと、その時に左手の薬指に付いている物が目に入った。


 そう指輪だ。夫、ハロルドからプロポーズしてもらった時に貰った指輪。最近は私の指輪のサファイアの部分をよく触ろうとしていた。


「今年は指輪にしましょう」と決めた。


 そうと決まれば早かった。私と同じ色の指輪を買った。その時にはもう11時を回っていた。もうすぐ昼ご飯を作らなくてはいけないと思ったのだろう、その後の買い物は足早に済ませた。


 ショッピングモールを出る時にはもう12時前だった。

エルナは急いで帰ろうとしたがそうは行かなかった。朝には快晴だった天気も曇り始めパラパラと雨が降り始めていた。


 「急いで帰らないと、洗濯物が」と焦ってはいたが、家から1kmない位の距離だったことと、買ったものが多く急がないことも相まって、走る事はできなかった。

 

 一方エルナの暗殺を計画していたハロルドらは買い物に一人で歩いて行っている今日が絶好の好機だと思い、急遽行うことにした。


 エルナが家の前の細い人気の無い一本道を歩いている時後ろから、何者かに心臓を貫かれた。

 

???「愛していたよ、十五年前はな」


「え、」とエルナは前に倒れた。その時に左手の薬指に付けていた指輪がパリンと割れた。

 

 男はエルナを刺した後、「愛していたよ、」とだけを吐き捨ててどこかに消えていった。


 「だっ誰?私刺された?殺された?死ぬの?嫌、嫌」と言って血を垂らしながら家へと這いつくばりながら歩いていた。


 その時、人気の無い一本道に一人の人間が来た。

緊急防衛任務に向かっていた長男のリューニスだった。


 リューも焦ってはいたが目の前に血を流し倒れている人は見捨てておけなかった。


「大丈夫ですか?今俺がなんとかしますから」とうつ伏せの体をひっくり返すと、それは想像もできない最悪の事態だった。


 「か、母さんだ、よな、」

にわかに信じがたい事だろう。今助けようとしている人間は自分の親だと言うのだから。

 

 「待ってて母さん俺が絶対助かるから!」

とは言うが、エルナもリューにもここまで血を流したらもう助からないことくらいは誰が見ても明らかだった。


「もういいの、助からないの」


「駄目だ!死ぬな!」


「触らないで!」とリューを突き放した。

そうしてエルナはリューに最後の力を振り絞って話しかけた。


「リュー、愛してあげてフィルを、あなたにとって世界でたった一人の兄弟なのだから、フィルは私以外の人を怖がっているみたいだから、すこしずつでいい、少しずつで良いから、そしていつかリューにやりたい事が出来たのなら、それを陰ながら支えてあげなさい、お兄ちゃんなら出来るでしょう。 あ、あと、誕生日プレゼント」

 と指輪のブランドの紙袋を指差しながらエルナ=フリートは目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る