愛のはなし
夏 雪花
Episode 1 最愛Ⅰ
私の友人に恋人ができたのは、中学のころだったろうか。
当時私が通っていた中学校は広い地区の中、公立といえばそこしか無いような場所で。三つほどの小学から、それぞれ生徒が進級してくるようになっていた。
最初のクラス編成の時、私が一緒になった同小は男子数名、それから女子がもう一人。私の通っていた小学は一学年ごとクラス一つの小さい学校だったので、同クラスでもあった訳だが………正直、どちらも話しかけづらかった。
男子というのは、なんとなく女子とは違う。違うというのはコミュニティと言うか、パーソナルスペースというか。その妙な違いが、当時の私は苦手だった。
対して女子の方は話しが上手で可愛い子でもあったから、もうすでに周りに人がいた。入っていきづらかった。輝いて見えたというか。今言葉を選ぶなら、嫉妬と言うか崇拝というのか。
どうしたものかと途方に暮れた。
その時私には、「ここで友人を作らなくては。」という漠然とした、脅迫めいた圧がかかっていた。
誰かに話しかけなくてはならない。しかし、誰に?
流れ作業のような自己紹介などまともに聞いてはいなくて、名前と顔とは誰一人一致しない。名前を知ってはいても、そこには入っていけない。
つうっ______と嫌な汗が背中を濡らした。
この場で一人は作っておかなくてはならない。さもなくばこの先、一人っきりが多くなることは想像に容易かった。
いっそのこと誰でもいい。名前さえわかれば、それでどうにかなるのだ。私は視線を迷わせ、ふと、前席の女子で視線をとめた。
正確には彼女の椅子の背に、だ。
椅子の背には新入生用に名前シールが貼ってあって、ご丁寧にもそれはフリガナつきだったのだ。
ぽん。と肩を軽く叩いて、間違うことなく名前を呼んだ。振り返った彼女に緊張しながらも、綺麗な笑みを作る。
「ねぇ、友達にならない?」
結論から言うならば、私の思惑は上手くいったといえよう。
私は一人ではなくなった。
彼女といるのは楽しかったし、そのつながりで友人も増えた。
共に遊び、出かけ、話し、笑い。
その人は中学に入って初めてできた友達で、私にとって親友になった。
私にとって、彼女は
私はどれほど愚かだったのか。
ある日。ニコニコと微笑む彼女に、いつも通り話しかけた。
何も気にせず、何も考えず。日常のままに声をかけた。
『告白された』と。彼女は言った。
彼女は優しくて素敵な人だ。誰かがその魅力に気づいたのだろう。
時間の問題だとは思っていたが、案外早いものだ。
『付き合うことにしたの。』
……そうか、いいね。『よかったじゃん。』
心の中で何かが一瞬噛み合わなかった気がしたが、私はそれを気にしなかった。
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