第27話 嬉しいこと
次の日、いすずの体調は全快していた。それはもう体調がよくなったようで、朝からキレキレだった。
「お兄ちゃん、なんか体調が悪い気がする。体温計さしてくれない? ……なんていうと思った? キャハハ」
「お兄ちゃん、あーんして欲しい。残念、いすずは元気なので、1人で食べられます!!」
「お兄ちゃん!」
「お、に、い、ちゃ、ん♡」
主にからかう面で。
朝からめちゃくちゃからかわれて、それはもう大変だった。
「やっぱりお兄ちゃんをからかわないと、始まらないよね」
本人曰く、からかわないと1日が始まらないらしい。
どういうことだよ。
俺はいすずが熱を出していた時のことを、思い出していた。
「熱出してる時は、素直だったのになー」
「ねっ熱出してる時の話題は出さないでよ!?」
「お兄ちゃんあーんしてとか、だっこしてとか言ってきたのに」
「わ、私そんな恥ずかしいこと言ってないし! 言ってないったら、言ってない!!」
いすずはポカポカと俺を叩いてくると、「今すぐその記憶を忘れろー!!」と叫んでいた。どうやら本人的には、恥ずかしかったみたいだ。
これは、いつもの反撃チャンスでは?
俺はとにかくニコニコと笑うと、
「絶対忘れないからな。だってかわいかったもん」
って言ってやった。
いつものいすずなら、「お兄ちゃんのバカ!」とか言って、また叩いてくるだろう。
「かわいい?」
と思っていたのだが、本調子じゃないのか顔をカーッと赤らめてもじもじし出した。
「かわいいということは、お兄ちゃんが私のことを少しでもかわいいって思ってくれたんだよね?」
「ん?」
「つまり、かわいいって思ったのならこれはもう結婚するしかないのでは!? そうだよね、きっとそう」
「い、いすずなにぶつぶつ言ってるんだ?」
「うふふ」
「からかったの悪かったって! だから、いつものいすずに戻ってくれ!!」
「うふふふふっ」
なんとかいすずに語りつづけ、いすずを元に戻すことに成功した。
いすずはというと、ハッとした顔をした。
「はっ!? 私は一体なにを」
「なんか、ぶつぶつ言ってたぞ? どうしたんだよ」
「結論、お兄ちゃんが全て悪い!」
「なんでだよ!?」
まぁ、まだ本調子じゃないかもしれないけど……
見た感じいすずの体調がよくなったみたいだし、よかった、よかった。
「まぁ、今度は無理するなよ」
「はーい、はーい」
「はいは、1回だ」
「はーい、それはそうとお兄ちゃん。お礼にご褒美をあげ」
「いらない」
「即答とか酷いんだけど!?」
まぁ、からかい癖はもう少し抑えて欲しいけどな。
*
いすずと朝の絡みを終え、学校に行く。
「今日は、テストを返すぞ」
うっかりしていたが、今日はテスト返しの日だった。いすずの看病をしていて、忘れてた。
まぁ、いすずが指導してくれたし……テストの点はいいだろう。
「はい、次は日ノ出」
「ありがとうございます」
案の定テストを受け取ると、赤点をとらなかったし、今までで1番いい成績のテストの点数だった。
「(ありがとう、いすず! いすずのおかげで、赤点を免れたよ!!)」
帰ったらいすずの好きなものを作ってあげよう!
あぁ、これで補習に出なくて済むぞ! やったー!! 夏休みなにしようかな?!
「全員テストを配り終えたな? そうそう日ノ出に話しがあるから職員室に来てくれ!」
「はい?」
なんて思っていたら、職員室に呼ばれた。なんで職員室に呼ばれたんだろう? 嫌な予感しかしないんだけど。
テスト返しが終わったあと、俺はすぐさま職員室に向かった。
「結論から言おう、お前には夏休みの補習に出てもらう」
「えっ?」
結論から言われた。まぁ、すぐに話してくれてありがたいけどさ。
まさかの先生の発言に、俺は驚きを隠せなかった。
「どうしてですか!? 俺、赤点回避しましたよ」
「たしかにお前は赤点を回避した。しかも、今までで1番いい点数だった。補習には出る必要がないだろう」
「じぁあ!」
「だがな、日ノ出。お前にはテスト以前に足りないものがあるんだ? それは、出席日数だ」
「出席、日数?」
口元が引きつるのを感じる。
「日ノ出、お前は前期何回か学校を休んだよな?」
「は、はい」
「理由は聞いているから分かっているけど、今のままじゃお前は出席日数が足りなくて、進級できないかもしれないぞ?」
「せ、先生俺どうしたら」
すると先生は、俺の肩にポンっと手を置いた。
「出席日数が少ないお前を助けるための救済措置、それは今回のテスト補習に出ることだ。上に掛け合ったんだ、感謝しろよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「ふはは、どういたしましてだ!」
まぁ、先生のおかげで進級できないってことはなさそうだけど……
「(夏休みは、パーか。まぁ、仕方ない)」
夏休みの予定は、なしになってしまった。
別に予定はなかったけどさ、アニメとかゲームとかやりたかったな。
「(まぁ、きっと青も補習に出るしいいか、たぶん)」
俺は夏休みの楽しむ予定をグッと我慢して、補習に出ることにしたのだった。
*
「夏休みの補習やだなー、でも出ないと進級できないかもしれないし……」
フラフラと歩きながら、俺は家へと帰っていた。嫌な気持ちと、感謝している気持ちがせめぎ合っていた。
はぁ、っとため息を吐きながら俺は家の扉を開けた。
「ただい……」
「お兄ちゃん、おっかえりー!」
やけに元気いっぱいのいすずが迎えてくれたのだが、なんでそんなに元気いっぱいだったのか分からなかった。
不思議に思っていると、いすずはイタズラな顔で笑った。
「なんだ? なんでそんなに元気なんだ?」
「聞きたい? 聞きたいよね? 聞いちゃう?」
「うざっ!?」
「うざってなによ!!」
ぷくーっと頬を膨らませるいすずの頬を突っつく。柔らかった。
「突っつかないでよ、もー」
「で、なにがあったんだ?」
「うへへ、実はね!」
いすずは目を輝かせると、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
よほど嬉しいことが、あったみたいだ。
「なんと、なんと、ドラマの主演に抜擢されました!」
「おぉ! 初主演か」
「うん! 初主演!」
なんといすずは、ドラマの初主演をすることになったらしい。それはめでたいな!
「さらに、さらに、なんとあの人気俳優の真上太陽くんと共演することになったの!」
「ぶっ!?」
「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
「な、なんでもない。ってか、なんでそんなにいすずは嬉しそうなんだ? 真上のファンなのか?」
そういうといすずは、いきなり2階に上がっていった。逃げたのかと思ったが、何かを持って来て、俺に差し出した。それは、写真だった。
「これは?」
「これはね、子役時代の真上くんの写真だよ! となりに写ってるのが私だよ。実は私、小さい頃から真上くんのファンで、芸能界に入ったのも真上くんに憧れてなんだ〜」
「へぇー、そうだったのか」
「だから、真上くんと共演できるって聞いてすごく嬉しいんだ」
いすずはすごく嬉しいのかルンルン気分だった。なんだか、そう嬉しそうにされるとこっちまで嬉しくなってくる。
「よかったな、真上と共演できて」
「うん! あっお兄ちゃん、もしかして妬いた?」
「は? 妬くわけないだろ」
「どうだか、かわいい妹が憧れの人に会うんだよ? 妬いちゃうのも無理はないよね」
「どこに妬く要素があるんだよ!?」
「いっぱいあるじゃん!」
「いや、ないから!?」
「妬いてよ!!」
「妬かねえから!!」
なんだよ、このやりとり。まぁ、兄妹だからこそどきるやりとりなのかもしれないな。
ってか、なんでそんなに妬いて欲しいんだよ。
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