第23話 膝枕

 いすずに勉強を教えてもらってから、1週間が経過した。

 あれから俺はというと、


「この公式を、こうしてあぁして(ブツブツ)」


「なっなんか、地味男ヤバくない?」

「やばいよね、目を合わせない方がいいよ」


 勉強に取り憑かれ過ぎていて、周りからは引かれていた。

 誰も目を合わせようとしてくれない。悲しい。


「弘人! あたし、テストやばいかも!」


「日ノ出くん、大丈夫?」


 そんな中、唯一話しかけてくれたのは青と委員長だけだった。


「あれ、弘人。心配してくれる女の子の友だちできたんだね」

「あぁ、委員長とは最近仲良くなって」

「は、初めまして蒼井さん。鈴木二菜っていいます」

「よろしく! あたしは蒼井 青! 二菜ちゃん話すのはじめてなのに、あたしのことを知ってるんだな」

「あっ蒼井さんのこと知らない人居ないと思うな」

「青って、学校では有名人だからな」

「えー、そうかな?」


 だって毎日のように学校内を走り回っているから、知らない人なんて居ないって。

 当の本人はというと、不思議そうな顔をしていた。


「あ、あの」

「ん? どうしたんだ委員長?」

「2人は仲良しだけど、どういう関係なの?」

「あぁ、幼馴染だよ。幼稚園からのな」

「そうそう、もう腐れ縁だよね〜」

「そ、そうなんだ!」


 委員長は安心したように笑った。


「てっきり私、というか噂で2人は付き合っているのかと」

「えっそんな噂あるの?」

「う、うん、なんか2人が仲良さそうにしている姿を見かけるとかで」

「青知ってた?」

「あぁ、知ってたよ。よく、弘人の仲は聞かれていたからな。毎回「違うよ」って言ってたけどさ、最近だるくなってその話題が出たら話を変えるようにしていたんだ」

「な、なんか噂だと蒼井さんが話題を変えるから怪しいってなってたよ?」

「青、お前のせいで俺たち付き合ってることになってるらしいぞ!?」

「そう睨むなって! こんな可愛い青と付き合ってるって思われるなんて最高かよ!って思わないと!」

「まぁ、たしかに青はかわいいからな」

「いや、そこはツッコめよ!? あたし、ボケてたんだけど!?」

「いや、青がかわいいのは事実だしな」

「そ、そうだね。蒼井さんってかわいいよね」

「なんであたし、2人から褒められてるの!? めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?」


 青はそういいながら手で顔を隠している。チラッと耳を見たら赤くなっていたので、恥ずかしかったのだろう。


「うわー、足フェチ弘人に褒められた! うわーん」

「仕返しとばかりに足フェチいうのやめて!?」

「ひ、日ノ出くんって足フェチなの?」

「委員長、違くて」

「いや、弘人は足フェチだよ? だってこないだあたしの足をガン見してきたしな。それに妹の……モガモガ」

「これ以上喋るな、口を開くな! お前のせいで俺の株がダダ下がりになりそうなんだけど!?」


 慌てて青の口を押さえる。


「モガモガ」

「なんか言ってるけど、絶対離さないからな!」

「日ノ出くんは、足フェチ。日ノ出くんは足フェチ……」

「委員長なんだかおかしくなっちゃったんだけど!?」


 ちなみにこのやりとりを教室で話していたため、俺のあだ名は"足フェチ地味男"に改名されたのであった。


「お前のせいで、変なあだ名になっちゃったんだけど!?」

「? あたし、なんか言ったっけ?」

「もう忘れてるんだけど!?」


 くそっ青のやつ、覚えてろよ!



 なんやかんやありつつも、学校が終わった。学校が終わった、それはすなわち地獄の始まりだった。


「た、ただいま〜」


 恐る恐る家の扉を開ける。


「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」

「ひっ!」


 なぜか仁王立ちをしたいすずが玄関にいた。


「待ってたよ、お兄ちゃん。えらいね、ちゃんと時間通りに帰ってくるなんて」


 俺だって本当は、逃げたいよ。逃げたいけど、忙しいいすずにわざわざ勉強を見てもらっているからな。


 たとえそれが、スパルタだとしてもだ。


「いすず様、今日もご指導よろしくお願いします」

「ふふ、お兄ちゃん分かってきたね。それじゃあ、さっそく始めようか」

「はい!!」


 俺の部屋に向かう。部屋に入るとさっそく何枚かのプリントを渡された。


「今日はこれを解いてもらおうって思ってるんだ」

「な、なんか、いつもよりも多くないか!?」

「そう? 私からしたら少ないと思うんだけど」

「(少ない!? 10枚のプリントが少ないって、いすずはどれだけ勉強をやってるんだ!?)」

「あっそうそう! その代わり今日は素敵なご褒美があるから楽しみにしていてね!」

「ご褒美、一体それって」

「5枚解くごとに、ご褒美を用意してるんだ! 楽しみにしててよ」


 よく分からないが、なんかご褒美をくれるらしい。


「(今日も頑張りますか)」


俺はさっそくプリントに取り掛かった。まぁ、いすずのスパルタぶりは相変わらずだったけど……いすずのおかげなのか、スラスラ解けるようになっていた。

 いすず、すご過ぎないか!?


「めちゃくちゃ、スラスラ解けるんだけど?!」

「ふふ、お兄ちゃんが最近頑張ったからだよ! この調子で頑張ってね」


 ということで、1時間かけて5枚のプリントを解くことができた。

 ということは、なにかご褒美をくれるんだよな?


「じゃあ、お兄ちゃんにはご褒美あげないとね」


 いすずは、なぜか怪しげな笑みを浮かべる。見ているだけで、ゾクゾクする。

 ご褒美って一体なんなんだ?


「はいどうぞ」


 そう言っていすずは正座をすると、ポンポンっと太ももを叩いた。


「what?」

「もう、お兄ちゃんは鈍いんだから。膝枕だよ膝枕」

「はい? それがご褒美なの??」

「それってなによ! それって!」


 いすずはムーッと頬を膨らませた。


「今をときめくアイドル星夜いすずの膝枕だよ! ご褒美以外ないと思うんだけど」

「まぁ、たしかにそうかもだけど」

「ほら、早く頭をのせて」


 いすずは急かすけど、頭を乗せていいものかと悩んでいた。妹の太ももに頭を乗せる兄って、どうなんだろうか。


「うーん、絵面的にやばいからやっぱりやめて……」

「頭乗せないと、プリント倍にする」

「はい! 乗せます! 乗させていただきます!」

 

 俺はすぐにいすずの太ももに足を乗せた。

 いすずの近くにいるからか、やたら甘い匂いが鼻を掠める。太ももは柔らかくて、そしてすべすべしていた。(ちなみにいすずは今、ショートパンツを着ている)

 上を向くとどデカい胸を見ることができ、絶景だった。本人には言わないけど。


「へぇーこれが、膝枕の感触か。意外にいいんだな」

「……お兄ちゃん、膝枕しても全然平気じゃん」

「へ?」

「まさか、膝枕されたことがあるの?」


 ギューっと耳を上に引っ張られる。


「い、痛い! さ、されてません!!」

「本当に?」

「ほ、本当だって!」

「よろしい」


 そういうといすずは引っ張るのをやめ、俺の頭を優しく撫でてきた。


「もう、お兄ちゃんが慣れているように見えちゃったから疑っちゃったよ」

「そ、そうですか」

「次からは、疑われないように気をつけてよね。まっ童貞のお兄ちゃんが疑われることなんて、ないと思うけど!」

「お前めちゃくちゃ疑ってたじゃん」

「私、しらなーい」

「くっこいつめ」


 いすずと会話をしながら、数分が経っただろうか。

 いすずに膝枕をされながら頭を撫でらていると、だんだんと眠くなってきてしまった。


「お兄ちゃん、眠たくなってきたの?」

「あぁ、最近寝不足だったからな。誰かさんのせいで」

「えー誰のことだろう。ふふっでも、ねむいなら寝ちゃっていいよ」

「でも」

「ご褒美だから、気にしなくていいの! お兄ちゃんは少しでもいいからゆっくり休んで」


 そう言われると甘えちゃうわけで、


「わかった、そうさせてもらうよ」

「うん」

「足キツくなったら起こしてくれる」


 俺は目を瞑ると、そのまま眠ってしまった。 

 いすずの膝枕は気持ちよくて、たしかにご褒美かもしれないと思ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーー


2日間休んでしまい、すみません!

今日からよろしくお願いします!

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